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サーよし!2  作者: たらふく
171/413

171 引っ張りだこの日置




ほどなくして開会式も終わり、参加者はそれぞれコートに向かう者、観客席へ向かう者などが散らばって行った。

日置は重富を応援しようと、コートの後方で見ることも考えたが、チームの者たちに余計な気を使わせたくないと思い、第3コートに近い観客席で座っていた。


えっと・・

まずは、文久薬品が第一試合でしょ・・


日置は組み合わせ表を見ていた。


秀幸たちは・・9コートで・・第三試合か・・

それで・・森上は・・

12コートの第二試合・・

たまたまおっさんは・・

えーっと・・どこだっけ・・


「だーれだ」


突然、日置は後ろから目隠しをされた。


「えっ・・誰っ」

「ふふっ・・やっぱりわかりませんか・・」


声は女性だった。

そしてとても可愛い声だ。


「誰なの・・」

「私よ・・私・・」

「わかんないよ・・」

「ちょっと、中島さん、ずるいで」

「えっ・・中島さんって・・よちよちの?」

「そうでーす!」


そこで中島は手を離した。

振り返ると『よちよち』の中島と柳田が、日置を見てニッコリと笑っていた。


「ああ、中島さん、柳田さん」

「あはは、先生、お久しぶりです~」

「今の・・中島さんの声だったんですか」

「そうやで~」

「この人、声色使ってたんよ。もう~気色悪いやらなんやらで」

「あはは・・そうだったんですね」


日置は苦笑した。


「先生、ここにいてはるってことは、出てるんですか?」


中島が訊いた。


「いや、僕は教え子の応援です」

「いやあ~~もったいないわあ~~」

「そうやん~、もったいなさ過ぎるわ~。うちで出てくださいよ~」


中島と柳田は、ここぞとばかりに日置の体に触れていた。


「よちよちには、エースの後藤さんがいるじゃないですか」

「なに言うてはんの~、ハワイ旅行を手にするには、先生の力が必要やわ~」

「いやいや・・僕は、生徒を見ないといけませんので。あっ、森上も出てるんですよ」

「知ってますよ~けいちゃんが言うてたからね」

「ああっ、もう試合が始まりますんで」


日置はたまらず席を立ち、「それじゃ、頑張ってください」と一礼して、そそくさと階段に向かった。


ひゃぁ・・まいったな・・

でも・・相変わらずお元気そうでよかった・・


日置は「クスッ」と笑いながら、階段を駆け足で下りた。



―――3コートでは。



「オーダー、どうするかやな」


大村が、みんなに向けてそう言った。


「やっぱり確実な1点が欲しいから、ここは重富さんでどうや」


山内が答えた。


「うん、まずは1点やもんな」


代田も賛成した。


「ほなら、二番は男で行くか?」


小堀が言った。


「それで、ダブルスは重富さんと中川さんに出てもろて、四番が男で、ラストが中川さん。これでどないやろ」

「おめーさんたちよ」


中川が口を開いた。

すると男四人は黙ったまま中川を見た。


「男って、なんでぇ、男ってよ」

「いや・・僕らの中の誰かってことやけど」


大村が答えた。


「適当に人選してんじゃねぇぜ」

「え・・」

「勝つためにゃあ、自ら手を挙げるくれぇでねぇとな」

「ああ・・まあなぁ・・」

「いいか!ぜってー3-0で勝つ!したがって、二番に出る男は、覚悟を決めな!」

「えぇ~~・・」

「大村・・お前キャプテンやし・・二番、任せるわな・・」


山内がそう言った。


「僕もそう思う」

「うん、俺も賛成」


代田も小堀も、中川の威圧に委縮していた。


「ちょっと、中川さん」


重富が呼んだ。


「なんでぇ」

「オーダーとか・・この人たちに任せたらええやん・・」

「なに言ってやがんでぇ」

「私らは・・あくまでも助っ人やし・・」

「いいやっ。助っ人であろうとなかろうと、一旦引き受けたからには、責任を果たすってのが男ってもんよ」

「いや・・私ら男ちゃうし」

「つべこべ言うんじゃねぇ。で、おめーさんら、二番は大村さん。四番は誰にするんでぇ」

「ほんなら・・僕がいく・・」


山内は仕方なくそう言った。


「よーし、決まった。とっととあやつらを料理しようぜ!」


中川は対戦相手のことを言った。

中川は思った。

部の存亡がかかっているというのに、なんだ、このやる気のなさは、と。

おまけに重富は、男性に気を使って一歩引いている。

なにが助っ人だ、と。


一方で対戦相手の『腕男クラブ』は、読んで字のごとく男性だけのチームだ。

『腕男クラブ』は、腕力を武器とした者が集まった、俄かチームだった。

そう、いわゆるアームレスラーたちだ。

とはいえ、全くの素人というわけではない。


トレーニングセンターには、卓球台もあり、彼らはトレーニングの合間に卓球を楽しんでいた。

そんな彼らもハワイ旅行に惹かれ、今大会に参加したというわけだ。



―――「ほな、整列しよか」



大村は、みんなにそう促した。


「それにしても、すごい体やな・・」


山内がポツリと呟いた。


「山内さんよ。見た目で判断すんじゃねぇぜ」

「え・・」

「ビビってんじゃねぇっつってんだよ」


中川は山内の背中をバーンと叩いた。

そして『腕男クラブ』のメンバーも台に整列した。


「えー、ではオーダーを読み上げます」


双方のオーダー用紙を手にした審判がそう言った。

ちなみに今回の審判は、協会が集めたボランティアが務めていた。


「一番、重富対森脇」


重富は「はい」と言って手を挙げ、一礼した。

森脇は、紺のランニングを着ていた。

いや、腕男は全員がそうだった。

森脇は、まさに自慢の筋肉を見せつけるかのように、右腕を直角に曲げた。


「バカめ・・」


中川はポツリと呟いた。


「二番、大村対小野寺」


大村は手を挙げて一礼した。

そして小野寺も、筋肉を見せつけた。


「ダブルス、重富、中川対森脇、杉田」


重富は「はい」と手を挙げた。


「わたくしでございます。どうぞお手柔らかに・・おほほ・・」


中川はそう言って手を挙げた。

するとチームの者は、唖然として中川を見ていた。

そう、さっきまでと全然ちがうじゃないか、と。

そこでニヤついたのが、腕男たちだ。

なんて綺麗なんだ、と。


「四番、山内対平野」


山内は手を挙げて一礼したが、平野は筋肉を見せつけた。


「ラスト、中川対杉田。では試合を始めます」


そして双方はそれぞれベンチに下がった。


「さーて、重富よ。あの太い腕をへし折ってやんな!」

「せやけど中川さん」

「なんでぇ」

「さっき、なんで早乙女愛やったん?」

「あんなもん、単なるご挨拶さね」

「ご挨拶・・」

「これぞ名付けて油断作戦さね!」

「中川さん・・最近、名付けるんが多いな」

「いいってことよ。さっ、ぶっ倒しな!」



―――その頃、ロビーでは。



日置はフロアに入ろうとしたが、ロビーで八代に会い、話をしていた。


「白鳥さんは?」


日置が訊いた。


「歩美ちゃん、急用ができてさ。それで僕と・・」

「え・・」

「男は僕だけなんだよ」

「ってことは、他はママさんなの?」

「そうなんだよ・・」


八代は、嫌そうに答えた。


「あはは、ママさんの誰?」

「あの三人だよ・・」


あの三人とは、山崎、木津、加茂のことである。

山崎は、かつてミックスダブルスのオープン戦で日置と組んだママさんである。

この試合をきっかけに、卓球を本気で取り組んだ三人は、なんと全国大会に出場するまでになっていた。

たとえママさんとはいえ、侮れない彼女らなのである。


「あはは、いいんじゃないの」

「慎吾・・他人事だと思って・・」

「お前、監督なんだし、あの人たちだって強くなってるんでしょ」

「っていうか、お前、出ないのかよ」

「僕は、教え子の応援」

「桐花じゃないの?」

「うん。重富と森上がそれぞれお父さんの会社の関係で助っ人で出てるの」

「それならさ、お前、うちで出てくれよ」

「ダメダメ。頼りになるママさんがいるでしょ」

「僕さ・・合宿で、すごーーく協力したよな」

「え・・」

「お前は僕に、恩があるんだよな」


そもそも八代は、この試合に参加する気はなかった。

けれどもハワイ旅行をゲットするのだと、ママさんたちに強引に誘われた。

そこで八代は、白鳥も出るなら、という条件付きで了承したはいいが、肝心の白鳥は急用のためキャンセルとなったのだ。

八代にすれば、最悪の一日というわけだ。


するとそこへ『たまたまおっさん』のメンバーも来た。

久しぶりに相沢と会った日置は、とても嬉しそうに話していた。

それはメンバーである、吉野や三木や箱崎も同じだった。

そして日置は吉野に「日置さーん、うちで出てくださいよー」と誘われていた。


「そやで、日置くん。きみが出んで、どうすんねや」


相沢が言った。


「いやいや、僕はちょっと、腰を痛めてまして・・」


日置は苦し紛れの嘘を言った。


「え・・そうなんか?」

「はい・・」

「大丈夫か?」

「はい、二三日で治るはずです」

「治るはず・・?」

「ああ、えっと・・治る予定です・・」


八代は日置の嘘に、思わず笑っていた。


「あはは、日置くん、きみ、ほっんま嘘が下手やな」

「え・・」

「わかった、わかった。あんまり日置くんを困らせたらかわいそうや」


相沢は吉野にそう言った。


「ええー、残念やなあ」

「僕・・生徒の試合を観ないといけないので・・」

「えっ、ほなら森上さん出てるんか?」

「はい、応見金属チームで出てます」

「おおお~~、これは楽しみやな」


そして3コートでは、重富の試合が始まっていた。

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