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サーよし!2  作者: たらふく
170/413

170 結局、こうなる




―――「ちょっと、中川さん」



慶三らと別れた後、阿部と中川はその足でフロアに入った。

阿部は歩きながら中川を呼んだ。


「なんでぇ」

「あんた、ほんまに出るつもりなん?」

「あたぼうよ」

「それやったら、先生に相談せんと」

「チッチッ・・」


中川は立ち止まり、阿部の顔の前で右手の人差し指を動かした。


「なによ・・」

「先生なんぞに言ってみろ。また、きみって子は・・なーんてよ、反対すんに決まってんだろうがよ」

「だから、先に言うとかんと」

「っんなもん、私らが試合をしているのを見て、びっくりさせてやればいいんでぇ」

「もう・・あんたはほんまに・・」

「これぞ、名付けて事後報告作戦さね」

「また名付けるとか・・ちゃうし・・」

「四の五のはいい。つーか、おめーと私らは今から敵同士だ!」

「えぇ・・」

「いいな。おめー、応見金属を探しやがれ」

「もう・・しゃあないなあ・・」

「じゃな、あばよ!」


中川は阿部の肩をポーンと叩いて、重富の元へ向かった。

阿部も仕方なく、森上の姿を探した。



―――その頃、フロアの別の場所では。



悦子と朝倉は、既に森上を見ていた。


「えっちゃん、あの子、すごいよね」

「うん・・あれはちょっと別格やな」


朝倉もそうだが、特に悦子は森上の実力に一目置いていた。

けれども、森上が打っている相手は素人のおじさんだ。

したがって、森上の本来の実力はまだ隠れたままだ。

そう、素人相手に全力で打てようはずもないのだ。


「せやけど、あのチームは、あの子一人やな」


悦子は、他の者は素人だと言いたかった。


「そうね」

「勝つんは無理やな」

「もったいないわね」

「せやけどまあ、いくらハワイ旅行のためとはいえ、なんか場違いやな」


見たところ、悦子や朝倉の敵など皆無だった。


「そうなのよねぇ・・」


朝倉も、気が引けていた。


「まったく・・板倉め・・」


そう、この試合は板倉が朝倉を強引に誘ったのである。


「まあ、今さらなんやかんや言うたかて、しゃあない」

「えっちゃん、ごめんね」

「いやいや、ひなちゃんのせいやない。頑張ろ」


「あっ」


そこで日置が、二人を見つけた。


「えっ」


悦子も日置の姿を確認した。


「あら、日置さんじゃない」

「えっちゃんと朝倉さんも、試合に出てるの?」


日置は小走りで二人に駆け寄った。


「慎吾も出てんのか」

「いや、僕は見学だよ」

「見学て・・」


悦子は、どこに見る価値があるんだと言いたかった。


「僕の教え子が出てるの」

「へぇーそうなんや。なんてチーム?」

「文久薬品」

「文久・・」


悦子は表に目を通した。


「うちと当たるとしたら、準決やな」

「えっちゃんと朝倉さんは、誰と出るの?」

「中野と板倉や」

「ええええ~~、それ、強すぎるでしょ」

「慎吾よ・・それ言われると辛いもんがあるわ」

「でもさ、秀幸も出てるんだよ。あと、相沢さんも」

「ミツダとたまたまおっさんか・・」


悦子は、全く意に介してなかった。


「というか、あんたの教え子って、何人出てるんや」

「一人だよ」

「で、実力はどんなもんや」

「それは見てからのお楽しみだよ」

「まったく・・もったいぶってからに」

「でも日置さん」

「なに?」

「あそこで打ってる子、あの子はなかなかよ」


朝倉は、森上を指した。

日置はコートに視線を向けた。


「えっ・・」


日置は、固まったまま唖然としていた。


「そないびっくりするか?」

「さすが日置さんだわ。一発で見抜いたって感じね」

「嘘でしょ・・」


日置はポツリと呟いた。


「おいおい、慎吾よ」

「日置さん・・?」


悦子と朝倉は顔を見合わせ、首をかしげていた。


「なんで森上が」

「え・・?なんて?」

「日置さん、あの子、知ってるの?」

「え・・」


日置は二人を見た。


「あの子、知ってるんか」

「あはは、知ってるもなにも、僕の教え子だよ」

「えええええ~~~!」


悦子と朝倉は、同時に叫んだ。


「それにしても、なぜ森上が出てるのかな・・バイトのはずだし、この試合に出るってこと、聞いてないけどなぁ」

「ちょ・・なに言うてんねん」

「えっちゃん、ごめん。ちょっと行ってくるね」


そう言って日置は森上の元へ向かった。


「なんや話が見えて来んかったな・・」

「だけど・・あの子が日置さんの教え子なら・・今年は大変になりそうね・・」


朝倉は予選のことを言った。


「他に何人いてるか、その子らがどんな力を持ってるんかによるで」

「そうね・・」

「三神は不動や。たかが桐花如きに座は譲らへんで」


悦子は、三神出身者としてのプライドがあった。

けれども「如き」と言い放ったことに、朝倉は悦子の心情を見た気がした。

そう、一抹の不安を抱いている、と。



―――その頃、阿部は。



ああ・・おったおった・・


阿部はやっと森上の姿を見つけた。

そして声をかけようと近づいた時だった。


「森上さん」


タッチの差で日置が駆け寄った。


「えっ・・」


森上は仰天していた。

なぜ、ここにいるんだ、と。


「きみ、この試合に出てたんだね」

「え・・あのぅ、先生ぇ、なんでここにぃ・・」

「重富さんの応援に来たんだけど、きみがいてびっくりしたよ」

「ええっ、とみちゃんの試合てぇ、これやったんですかぁ」

「そうだよ」

「知らんかったですぅ・・」

「きみ、どのチームに参加してるの?」

「はいぃ・・お父さんの工場の人たちとぉ・・」

「ああ~、そうなんだ」


そこで皆川らは、見知らぬ日置を遠巻きに見ていた。


「あのぉ、皆川さぁん」

「なんや」

「この人ぉ、私の先生なんですぅ」

「おお、そうなんや」

「日置と申します。本日は森上をよろしくお願いします」

「いやいや、これはどうもご丁寧に。皆川です」


皆川に続いて、古賀こが榎本えのもと小堀こぼりも一礼していた。


「じゃ、森上さん、応援するから頑張ってね」

「はいぃ」


日置が去ったあと、阿部が森上の元へ行った。


「恵美ちゃん」

「あっ、千賀ちゃぁん」

「あはは、恵美ちゃんが出てて、びっくりしたで」

「今なぁ、先生もここに来はってぇ」

「うん、見てたで」

「まさかぁ、とみちゃんの試合がこれやと思わんかったわぁ」

「あのさ、恵美ちゃん」

「なにぃ」

「もし・・よかったら、私も恵美ちゃんのチームに入れてくれへんかな・・」

「えぇ・・どうしたぁん」

「なんかさ・・中川さんが――」


阿部は、事情を簡単に説明した。


「そうなんやぁ。うん、訊いてみるぅ」


そして森上は皆川に相談した結果、皆川らは「助かるで!」と阿部を快く受け入れたのだった。



―――一方、文久薬品では。



「と、いうわけさね」


中川はたった今、事情を説明し終わった。


「いやあ~その方が助かるで。なんせ僕ら、存続がかかっとるしな」


大村も、他の者も大歓迎だった。

部の存続もそうだが、中川の美貌に男どもは舞い上がっていたのだ。

けれども中川の話しぶりには、半ば引いていた。


「おめーさんたちよ。この試合は部の存亡がかかってんだ。死ぬ気で戦うんだぜ」

「死ぬ気・・」


山内は、完全に引いていた。


「おうよ。まさに命のやり取りでぇ!ああ~~武者震いがするってもんよ!」

「きみ・・すごいな・・」


代田が言った。


「ほんまや・・まさに姉御やな・・」


小松もそう言った。


「私はおめーさんたちのために、命懸けで戦う覚悟だ。ぜってー負けねぇからな!」

「お・・おう、僕らも頑張るで!」


大村は何とかそう答えた。


「すみません、この子、悪い子やないんですが、こんな喋り方なんです・・」


重富は、申し訳なさそうに彼らにそう言った。

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