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サーよし!2  作者: たらふく
169/413

169 どうなることやら




―――試合当日。



場所は、なんと府立体育館の本館であった。

小さな大会であるはずが、なぜ本館なんだ、と重富も阿部も不思議に思っていた。

それは日置も同じだった。

そんなことは全く意に介さない中川は、「別館とは別もんだな」と感心していた。


「きみ・・やっぱり持って来たね」


日置は中川のスポーツバッグを見てそう言った。


「そして、阿部さんも」


そう、阿部も準備していた。


「いや・・試合が終わって、練習するかな~・・なんて・・」

「そうだね。負けてしまえば、そこから練習に向かえることは確かだし、いい心掛けだ」

「そういう先生こそ、それ、なんでぇ」


日置もスポーツバッグを抱えていた。


「僕はいつもこれなの」

「中に、なにが入ってんでぇ」

「なにって、そりゃラケットとか靴とか」

「およ?先生も出るつもりかよ」

「違うの。僕はいつも持ってるの」

「まあいいさね」

「それより重富さん、練習した方がいいんじゃない?」

「はい」


そして一行は、フロアに足を踏み入れた。

重富は、昌朗の姿を探した。

そう、父親である昌朗もここに来ているのだ。

なぜなら、娘と部の者を引き合わせるためである。


「あ、おった」


重富は昌朗を見つけ、小走りで駆け寄った。


「お父さん」

「おお、来たか」

「チームの人は?」

「あそこで練習しとるで」

「というか・・まさか会場がこことは思わんかったわ」

「そうか?」

「せやかて、小さな大会て言うとったから別館やと思とったわ」

「事情はよう知らんが、まあ、ええんとちゃうか」


そして昌朗は重富を連れて、コートに向かって歩いた。


「おーい、きみら」


昌朗がメンバーに声をかけた。


「これ、うちの娘や」

「初めまして。今日はよろしくお願いします」


重富は彼らに一礼した。


「せっかくの日曜やのに、悪いな。僕、大村おおむらです」


大村は、チームのキャプテンだ。


山内やまうちです」


大村の横に立っている山内がそう言った。


「ほんで、今、練習してるんが、代田しろたくんと小松こまつくんや」


大村が説明した。

彼らは全員が、三十代後半の壮年だった。


「ほな、練習しよか」


山内が言った。


「私、板なんですけど・・」

「へぇー!珍しいな」

「ほな、こいつ、こき使ってやってくれ」


昌朗は冗談を言って、コートを離れた。



―――一方で、別のコートでは。



森上は既にチームの者と合流し、練習を始めていた。


「いやあ~森上くんから聞いとったけど、きみ、めっちゃ上手いなあ!」


チームで年長の皆川みながわは、森上のフォア打ちに度肝を抜かれていた。

このチーム『応見おうみ金属』は、そもそも年行揃いだった。

皆川は六十代、他は五十代が三人だ。


「あのぉ・・これ、団体戦ですよねぇ」


森上が訊いた。


「そやで」

「私が入るとぉ・・混合になりませんかぁ」

「ああ、それええねん」

「え・・」

「この試合、男女混合でもええし、男子だけでも女子だけでもええねん」

「へぇ・・そうなんですかぁ」

「せやからきみ、男子とあたる場合もあるで」

「なるほどぉ・・」

「期待してるで!」


皆川は、森上の背中をポーンと叩いた。


一方で日置は、高校生チームが出てやしないかとコートを見回っていた。

なぜなら万が一、三神が出ていたなら、重富の実力を知られてしまうからだ。

けれども三神は、この程度の試合など眼中になかった。

それは、他の強豪校も同じであった。


日置は本部席に向かい、組み合わせ表を貰った。

そして歩きながら出場チームを確認していた。


なるほど・・

この試合は男女は無関係なんだ・・

へぇー・・

なかなか面白い企画だな・・


すると、あるチーム名が日置の目に留まった。

そう、『ミツダクラブ』である。


おおっ、秀幸、出てるんだな・・

男子だけなのかな・・

それとも、ママさんと混合なのかな・・

あっ・・

たまたまおっさんも出てる・・

あはは・・

相沢さんと会うの、久しぶりだな・・


そして日置は、またとあるチーム名が目に留まった。

そう、『よちよちクラブ』も出ていたのだ。


へぇー・・

あの人たちも出てるんだ・・

なんか、楽しい試合が観られそうだな・・


けれどもこの大会で、たった一チームではあるが、強豪が出ていた。

そう、それは明和生命から悦子と朝倉、長和自動車から、中野と板倉という四名で編成されたチームだ。

来年、結婚の予定をしている朝倉と板倉は、是非とも新婚旅行にと、ハワイ旅行を手に入れたかったのだ。

悦子は、出る前から優勝は確信しており、少々気が引けたが、親友の朝倉のためだと、参加することを決めたのだった。



―――その頃、ロビーでは。



阿部と中川は、ロビーに貼り出されている組み合わせ表を見ていた。


「えっと、とみちゃんのチームは・・あ、ここやな」


阿部は『文久薬品』を見つけた。


「チビ助よ」

「なに?」

「おめー、試合に出たくねぇのかよ」

「いやいや、出たいとか出たくないじゃなくて、そもそも私ら参加してないし」

「かぁ~、おめー、重富のチームのおっさんら見ただろ」


阿部も中川も、彼らの練習を見ていた。


「見たけど、なによ」

「あれじゃ、勝てねぇぜ」

「そんなん言うたかて・・」

「負ければ部は廃止さね」

「まあなあ・・」

「おめーか私が入れば、シングル二つ取ってダブルスも取って、勝ちさね」

「せやけど、頼まれてるんはとみちゃんだけやん」

「おめー、薄情だな」

「え・・」

「一回戦で負ければ、そこでお終いさね」


「あっ!愛子ちゃんや~~」


誰かが中川を呼んだ。

阿部と中川は、声の主を探した。

すると、前方から慶太郎が走って来たではないか。


「ああっ!おめー、慶太郎じゃねぇか!」

「愛子ちゃ~ん」

「あはは、おめー、久しぶりだな。元気にしてたか?」


中川は慶太郎の頭をクシャクシャと撫でた。


「へぇ・・この子が慶太郎くんなんや」


阿部は、慶太郎に会うのは初めてだった。


「え・・いやいや、ちょっと待って。なんで慶太郎くんがここにいてんの?」

「お姉ちゃんの試合、観に来てん~」

「え・・」

「おいおい、慶太郎。いまなんつったよ」

「お姉ちゃんの試合~」

「おめーの姉ちゃんか?」

「そやで~」

「おい、チビ助。これ、どういうこった」

「私、なんも知らんで」


するとそこに、遅れて慶三が走って来た。


「ああっ、おじさん!」


阿部が叫んだ。


「あれ、阿部さんやがな」

「どうも、おはようございます」

「おはよう。やっぱり桐花、出とったんか。うわあ・・恵美子、どうすんねや」

「え・・桐花て・・私ら出てませんけど」

「え・・」

「私ら、チームメイトの子の応援に来たんです」


そこで慶三は中川に目をやった。


「この子も桐花の子か?」

「はい、中川さんです」

「初めまして、恵美子の父親です」


慶三は中川の美貌に驚きつつも一礼した。


「初めまして。中川と申します」

「愛子ちゃんやで~」


慶太郎が言った。


「慶太郎、お前知ってるんか」

「うん~友達やねん~」

「友達て・・ごめんな、こいつまだ一年生やねん」

「あはは、親父さんよ、いいってことよ!なー慶太郎」

「え・・」


中川の変わりように、慶三は仰天した。


「ああ・・この子、こんな喋り方なんです、気にせんといてください」


阿部がすぐにフォローした。

もはや慣れたものである。


「あっ!思い出した。きみ、文化祭で早乙女愛やっとった子やな」

「おうよ!」

「髪・・切ってしもたんか・・」

「そうさね。長いと練習の邪魔になっていけねぇやな」

「もったいなあ・・」

「それより親父さんよ」

「ん?」

「森上がこの試合に出てるっつーのは、ほんとなのかよ」

「ああ、ほんまや」

「嘘だろ。なにがどうなってんでぇ」


そこで慶三は事の経緯を簡単に説明した。


「なるほど、そう言うことだったのか。これぇやあ~~大変でぇ」

「なにが大変なんよ」


阿部が訊いた。


「いいか、チビ助!」

「なによ」

「おめーは、応見金属で参加。私は文久薬品で参加でぇ!」

「えええ~~そんなん無理やって」

「無理じゃねぇよな?親父さんよ」

「ああ・・別にええと思うで。少なくともうちは大歓迎やと思う。そのなんちゃら薬品は知らんけど」

「なんちゃら薬品は、組の存亡がかかってんでぇ。大歓迎に決まってらぁな!」

「中川さん・・組て・・」


阿部は言い間違いに呆れていたが、慶三は爆笑していた。


「なあ~お父さん~、愛子ちゃんて、面白いやろ~」


慶太郎は、とても楽しそうに慶三を見上げていた。

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