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サーよし!2  作者: たらふく
160/413

160 大河に拘る中川




―――翌日。



昼休み、阿部と森上と中川は職員室へ訪れていた。


「昨日、どうだった?」


椅子に座ったまま日置が訊いた。


「すごく上手い人に声をかけてもらって、いい練習になりました」


阿部が答えた。


「そうなんだ。よかったね」

「なんか、中井田出身の人らで、川上さんと梶原さんて人です」

「おお、それはほんとにいい相手だね」


当然、日置も二人を知っていた。


「あれですよね、過去のオープン戦で、蒲内先輩は川上さんに勝ち、外間先輩は梶原さんに勝ったんですよね」


阿部は、卓球日誌を読んでいるので、そのことも知っていた。


「そうそう。接戦だったんだけど、いい試合だったよ」

「私らも試合してもらったんです」

「おお、で、どうだった?」


そこで阿部と森上は顔を見合わせて、ニッコリと笑った。


「ダブルスもシングルも勝ちました」

「そうか!」


日置もとても嬉しそうだった。

そんな中、顔色が冴えないのが中川だ。

日置はチラリと中川を見た。


「中川さんはどうだったの?」

「どうってよ・・」


阿部も森上も、複雑な表情で中川を見ていた。

あの後、中川は結局、見た目だけで言い寄ってくる者を相手していたのだ。


「上手い人も結構いるでしょ」

「ふんっ、知るかよ」


中川の頭の中には、大河の顔が浮かんでいた。


あの野郎・・

今日こそは・・相手させてやるからな・・


「先生よ」

「なに?」

「男ってのは、なんで見た目だけで判断すんだよ」

「え・・」

「え、じゃねぇし。ったくよ、ろくなもんじゃねぇぜ、男ってのはよ!」

「どうしたの?」

「知るかよ!」


中川はそう言い残して、先に職員室を後にした。


その実、中川は、むしろ見た目で判断してほしかった大河に対して苛立ちを覚えていた。

憧れの誠と偶然にも苗字が同じ、しかも大河はうまい。

中川にすれば、願ってもない相手だったにもかかわらず、いともあっさりとフラれたわけだ。

それとは逆に、言い寄ってくる者は見た目だけ。

しかも、そんなに上手くもない。

なんなんだ、と。

男というのは、ろくでもない生き物だと改めて憤慨していたのだ。


「中川さん、どうしたの?」


日置は半ば唖然として、二人に訊いた。


「なんか・・相手してほしい人に断られたみたいで・・」

「そうなんだ」

「私もぉ、ちょっとだけ見ましたけどぉ、すごく上手い男子でしたぁ」

「男子ってことは、高校生?」

「はいぃ」

「ほら・・中川さん美人ですやん。せやから多くの人に言い寄られてたみたいですけど、断ってたんです。せやけど中川さんが自分から声をかけに行った男子には、断られて・・」

「そっか。ショックだったんだね」

「そうやと思います」

「中川さんって、フラれたことないだろうし」


日置は思った。

おそらくその男子は、中川を見ても何とも思わなかったに違いない。

そして森上の言うように、すごく上手いとなると、強豪校であろう、と。

そんな男子にとって、女子を相手にするのは、ある意味時間の無駄とも言える。


そして中川のことだ。

おそらくではあるが、「太賀誠」で申し込んだに違いない。

となると、礼儀知らずであり、そのうえ女子である、と。

これでは相手にするはずがない。


中川にとっては、いわば青天の霹靂だっただろうが、昨日の経験は、むしろ中川にとってプラスである、と。

思い通りに行かないことを、どうやって乗り越えるのか。

中川は自分自身が納得できない間は、聞く耳を持たない。

おそらく、生まれて初めて「フラれた」ことを機として、少しずつ、成長してほしい、と。


一方で、こうも思った。

中川は一度フラれたくらいで、引っ込むような子ではない、と。

その男子が、上手ければ上手いほど、むしろ押しの一手に徹するだろう。

それくらい貪欲であれ、と。



―――ここは卓球センター。



阿部ら三人は更衣室に入り、着替え始めていた。


「中川さん」


阿部が呼んだ。


「なんでぇ」

「今日は、私らと一緒に探そ」


阿部は練習相手のことを言った。

阿部は中川のことを心配していたのだ。


「いや、私にはもう決めた相手がいるんでぇ」

「え・・誰なん」

「昨日のジャガイモさね」

「ジャガイモ?」

「大河って野郎だよ」

「え・・もしかして昨日の男子、大河って苗字なん?」

「おうよ」

「あああ~~それでか」

「なんだよ」

「中川さん、苗字に拘ってたんやな」

「けっ、バカ言ってんじゃねぇよ」

「なによ・・」

「確かに初めはそうだった。まさか誠さんと同じ苗字のやつがいるとは、驚き桃の木さね」

「・・・」

「だけどよ、あいつは断りやがった。それも、いともあっさりとだ」

「他の人かていてるんやし、ジャガイモに拘らんでもええやん」

「いいや!私はジャガイモと練習する」

「ジャガイモてぇ・・」


森上は、大河を気の毒に思っていた。

なぜなら、自分も過去に「バケモノ」と言われたことが度々あったからだ。


「なんだよ、森上」

「そんな言い方ぁ、止めた方がええと思うでぇ」

「・・・」

「ちゃんと、大河くんてぇ、呼んだ方がええと思うぅ」

「ああ・・確かにそやな」


阿部は、すぐに反省した。


「おう。森上の言う通りでぇ。で、私は大河と練習をするっ!」


中川はそう言って、先に更衣室を出た。


「中川さん、言い出したら聞かへんから、本人に任せるしかないな・・」

「うん~それでええと思うぅ」


阿部と森上は、顔を見合わせて苦笑した―――



中川はフロアへ入り、大河を探した。


おっ・・今日もいたぜ・・


大河ら、滝本東の男子は、端の二台を使って練習していた。


よーし、行くか・・


その時だった。

コートの後ろで立って見ていた一人の女子が、コートに向かって歩き始めた。


「大河くん」

「お待たせ。やろか」


あああああ~~あれはっ!


そう、中川が見たのは三神の須藤だったのだ。


須藤・・

大河と知り合いなのか・・


そして須藤は、他の男子に「練習の邪魔をしてすみません。今日はよろしくお願いします」と丁寧に頭を下げていた。

男子らは「かまへんよ」と優しく接していた。

その実、大河と須藤は、全中で共に優勝を果たしていた。

その関係で、二人は知り合いだったのだ。


無論、大河は須藤の実力を知っているし、また須藤も同じだった。

そんな大河にとって、須藤は練習相手としてなんら不足ではなかったのだ。


「どうぞよろしくお願いします」


須藤はコートに着き、丁寧に頭を下げた。


「よろしく」


大河は優しく微笑んだ。

そしてフォア打ちが始まった。


その頃、阿部と森上は、蒼樺高校卓球部監督の有本と打ち始めていた。

有本は監督といえど、部員はゼロで、こうして度々センターに訪れていた。

阿部は過去、何度か有本に相手をしてもらっていた。

それゆえ、すぐに練習を開始できたというわけだ。


有本はカットマンだ。

そして有本は、昨年の六月の一年生大会で森上のすごさを見て知っていた。

有本も、願ってもない相手だと、動きも軽かった。


一方、中川は、大河と須藤のラリーを呆然と見ていた。


須藤・・

おめー・・すげぇじゃねぇかよ・・


そう、中川は須藤のプレーを観るのは初めてだった。

昨年十二月の団体戦で二敗をした中川は、三神対小谷田の決勝戦を見ずに体育館を後にしていた。


さすがの中川も、声をかけることができずに、気持ちは怯んでいた。


なにやってんだ・・自分・・

らしくねぇぜ・・

それにしても須藤の野郎・・

実力は・・桁違いだ・・

あれに勝たねぇと・・

インターハイ・・行けねぇんだな・・


そこで中川は、一人の男性に声をかけた。

これも「適当」だ。

中川に誘われた男性は、それこそ舞い上がる始末で、喜んで引き受けた。

中川は思っていた。

あとで絶対に大河に声をかける、と。

この男性を誘ったのは、いわば時間繋ぎだったのだ。


一時間ほど男性と練習した後、中川は太賀らの元へズカズカと歩いて行った。


「あ・・中川さん」


そう言ったのは須藤だった。


「よーう、須藤。久しぶりだな」

「ほんまやね」


須藤はニッコリと笑った。


「須藤さん、この子知ってんの?」


大河が訊いた。


「うん、知ってるよ」

「そうなんや」


大河は、また来たのかといった風な表情を見せた。


「須藤との練習が終わったら、私とやってくんな」

「断る」


大河は間髪入れずに答えた。


「おめー、須藤とはやってるくせに、私がダメってのは、どういう了見でぇ」

「昨日も言うたけど、きみみたいな言葉遣いする子、嫌いやねん」

「・・・」

「言うとくけど、須藤さんもそうやけど、三神の子らは礼儀正しくて、同級生であろうとコートに着いたら言葉遣いもめっちゃ丁寧や」

「・・・」

「きみは、まずそこを直さんと誰も相手なんかしてくれへんで」

「いや・・私は、その、なんてぇのか・・私の中には誠さんが居てだな・・」

「なんやねん、それ」

「大河くん」


須藤が呼んだ。


「なに?」

「そんな堅いこと言わんでも。一回くらい打ったってもええんとちゃう」


須藤の言葉に中川はカチンときた。


一回くらいだと・・

何様のつもりだ・・

どんだけ強ぇか知らねぇが・・

おめーら、私と同じ一年生だろうがよ・・

いや・・ここで怒っちゃいけねぇ・・

私の目的は、大河と練習するこった・・

いずれ須藤には・・予選で目に物を言わせてやる・・


「大河くん」


中川が呼んだ。


「なんやねん」

「すみませんが、相手してもらえませんか」

「・・・」

「お願いします」


中川は頭を下げた。


「まあ・・ええけど・・」


大河は仕方なくそう答えた。


おのれ・・ジャガイモ・・

おめーのドライブ・・ぜってー拾ってやるからな!

ちきしょう~~~!


こんなふうに思う中川であった。

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