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サーよし!2  作者: たらふく
158/413

158 練習相手




―――それから四日後の月曜日。



「一年三組の卓球部の皆さん、至急、職員室まで来てください」


日置は昼休みに、このように彼女らを呼び出した。

放送を聴いた四人は、食事の後、談笑していた。


「今の、先生だよな」


中川が言った。


「至急・・て、言うてはったな」


阿部は、何事かと心配した。


「はよ行った方がぁ、ええんとちゃうぅ~」


森上は既に椅子を後ろへ下げて立とうとしていた。


「ほな、行こか」


重富も立ち上がった。

そして四人で職員室へ向かった。

ほどなくして職員室に到着した彼女らは、ドアを開けて中へ入った。


「あ、きみたち」


日置は手招きをした。

そして彼女らは、日置の席まで行った。


「呼び出すたぁ、なんだってんでぇ」

「放課後でもよかったんだけどね。阿部さん、森上さん、中川さん」


日置は三人を呼んだ。


「なんでぇ」

「きみたちには、今日からセンターで練習してもらうことにしたから」

「センターって、なんでぇ」

「卓球センターだよ」

「私が通ってたとこですか」


阿部が訊いた。


「うん」

「あの・・私は・・」


重富は自分が呼ばれなかったことで、不安に思っていた。


「きみは僕と特訓」

「そうですか・・」

「それで、阿部さんは知ってると思うけど、センターには多様な人たちがいる。もちろん上手い人もいる。だからきみたち三人には、これからのことも考えて、一人でも多くタイプの異なる人と練習してもらうことにしたからね」

「なるほど、そういうことか」


中川は納得していた。


「私は・・ダメなんですか」


重富が訊いた。


「きみは、まだまだ基本が定着してない。ラケットを使いこなすのもこれから。ここを疎かにすると必ず自分に返ってくるの」

「はい・・」

「だから、きみは僕と特訓ね」

「わかりました」

「話はそれだけ。だからきみたちは、授業が終わったらすぐにセンターへ向かうこと。いいね」



―――ここは卓球センター。



阿部ら三人は、ロビーに到着していた。


「ほーう、台がたくさんあんだな」


中川は中を覗いていた。


「こんにちは」


阿部は樋口に挨拶をしていた。


「おお、桐花の子やな。久しぶりやな」

「はい」


樋口は、大柄な森上を上から下まで見ていた。


「こんにちはぁ・・」

「きみ、大きいなあ」

「はいぃ・・」

「ほー!男子もいるぜ」


中川はまだ中を覗いていた。


「中川さん」


阿部が制服を引っ張った。


「なんだよ」

「挨拶せな・・」


阿部は、小声でそう言った。

すると中川は樋口に気が付いた。


「あのおっさん、誰でぇ・・」

「ここの受付の人・・」

「そうか」


そう言って中川は樋口の前まで行った。

中川を見た樋口は、その美貌に目が点になっていた。


「桐花学園の中川と申します」


中川は、とりあえず普通に挨拶をした。


「あ・・ああ・・樋口です・・」

「今日からしばらく練習のため通いますので、よろしくお願いします」

「あっ・・えっ・・ああ、なんぼでも通うてください」


阿部と森上は、一体どうしたんだと、ポカンと中川を見ていた。


「よーーし。で、チビ助よ。相手を探しゃあいいんだな」

「あ・・ああ、うん」


阿部はチラリと樋口を見た。

すると樋口は、さらに目が点になっていた。


「あはは、樋口さんよ。なんて顔してんだよ」

「えっ・・」

「練習してもいいな」

「もっ・・もちろん・・」

「着替えたいんだけどよ、更衣室はどこでぇ」

「あっ・・あっち・・」


樋口は更衣室を指した。


「よーし、チビ助、森上、行くぜ」


そう言って中川は先に向かった。


「すみません・・、あの子、あんな喋り方なんです」


阿部は樋口に詫びた。


「いや・・ええんやけど、なんか・・びっくりしたわ・・」


樋口は中川の「ギャップ」に、唖然としていた。

そして阿部と森上も更衣室へ向かった。


「中川さん」


更衣室に入った阿部が呼んだ。


「なんでぇ」

「練習相手の人に、無礼なこと言うたらアカンで」

「チビ助よ」

「なによ」

「私が、きちんと挨拶したのを、おめー見たよな」

「ああ・・うん」

「だったら、わかんだろうがよ」

「せやけど・・ラリー中とか・・またなんか言いそうやし」

「別に、それくらいいいじゃねぇか」

「いや、ちゃうねん」

「なにがだよ」

「中には、気分を害する人もいてると思うねん。そうなったら、桐花の生徒って礼儀も知らんで、とか言われそうやし」

「あのよ、私だってバカじゃねぇんだ。それに、練習中に自分を鼓舞することくれぇ、言ったっていいじゃねぇかよ」

「中川さんの場合は、おめーとか、来やがれってんだ、とか言うやん」

「じゃあ、何て言えばいいのさ」

「まあまあ・・」


たまらず森上が二人を制した。


「そんなことよりぃ・・はよ着替えて、練習せなアカンと思うよぉ」

「森上の言う通りでぇ」


それでも阿部は黙っていた。


「チビ助よ」

「なによ」

「おめーが何と言おうと、私は私なんだよ」

「まったく・・」


阿部は不満げに着替えを始めた。

ほどなくして着替えを済ませた三人は、フロアへ足を踏み入れた。


「さーてと、誰に相手してもらおうかね」


練習中の何人かは、中川を見て思わず打つ手が止まっていた。

特に男性はそうだった。


「めっちゃ美人や・・」

「誰やねん・・あの子」

「高校生か・・?」

「相手、探してるみたいやな・・」


このような声がヒソヒソと挙がっていた。

阿部と森上も、相手を探していた。


「あんたら、相手探してるんか?」


一人の若い女性が阿部と森上に声をかけた。


「はい」

「はいぃ・・」

「私、友達待ってるんやけどね、よかったら、打たへん?」

「はい、よろしくお願いします」

「私、川上です」

「阿部です」


そう、この女性は、為所の先輩であり、中井田出身の川上(かわかみ)遼子(りょうこ)だった。


「阿部さんは、なに?」


川上は「型」を訊いた。


「ペンの表です」

「そうなんやね。私はペンの裏」

「そうですか」


そして阿部と川上は打ち始めた。


あ・・この人、うまい・・

ええ人に声かけてもらってよかった・・


阿部はそう思った。

方や、川上も阿部のしっかりとした打ち方に、そうとうな実力者だとすぐにわかった。

森上は、相手を見つけられずに阿部らのラリーを見ていた。


「恵美ちゃん、一球交代で打ってもらう?」

「いや・・千賀ちゃん、練習してもらっててぇ」

「そっちの子も、入ったらええよ」


川上が優しく声をかけた。


「そうですかぁ・・」


森上はそう言ってボールを手にした。

そして阿部と森上は一球交代で相手になってもらうことにした。


「よろしくお願いしますぅ」

「はい、よろしく」


そして二人は打ち始めた。

驚いたのが川上だ。

なんだ、この威力抜群のボールは、と。


「いやあ~、あんた、すごいね~」

「そうですかぁ・・」

「名前はなんていうの?」

「森上ですぅ」

「学校はどこなん?」

「桐花学園ですぅ」

「えっ、桐花なんや。阿部さんも?」

「はい、そうです」

「そら、こんなボール打てるわあ。そうか~桐花なんやね」


三人が打っているころ、中川はまだ相手を見つけられないでいた。

いや、相手になると申し出る者は何人かいたが、中川は断っていた。

なぜなら、見た目だけで言い寄ってきたのが、明らかだったからである。


くそっ・・

誰かいねぇのかよ・・


「おーい、大河(たいが)


端の台を二台使って打っている、男子高校生と思しき一人が、大河と呼んだ。

中川は、思わず男子の集団を見た。


今・・たいがって言ったよな・・

なんてこった・・

誠さんと同じじゃねぇか・・

まてよ・・そもそも苗字なのかよ・・


中川は、たまらず男子たちに近づいて行った。

そして「たいが」を探した。


どいつでぇ・・

どいつなんでぇ・・


「大河、ほな次は、オールやろか」

「うん」


中川は「うん」と返事した男子を見た。


げっ・・

なんでぇ・・この、ずんぐりむっくりは・・


そう、大河(たいが)祐太(ゆうた)は、背も低く、顔はジャガイモみたいだったのだ。

けれども、その体は鍛え上げられた筋肉質だった。


中川は、しばらく二人のラリーを見ていた。

するとどうだ。

大河のフットワーク、ボールのスピードの速さ、その威力たるや並ではなかったのだ。


うめぇ・・

こいつ・・うめぇぞ・・


二人のラリーを後方でじっと見ている中川に、他の男子は見惚れていたのであった。

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