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サーよし!2  作者: たらふく
156/413

156 栄光を掴め




―――やがて三学期に入り、校内には賑やかな声が戻っていた。



ガラガラ・・


休み時間、三島幸子は職員室のドアを開けた。

そして日置がいることを確認し、席まで歩いた。


「先生」


幸子が呼ぶと「ああ、三島さん」と言って、ニッコリと微笑んだ。


「どうしたの?」

「なんかね、英太郎が・・」


幸子は言いにくそうにしていた。

その実、昨夜「曲ができたから聴いて」と英太郎に言われ、幸子は嫌々曲を聴かされていた。

幸子は、「なんじゃこりゃ!」と、曲の完成度に呆れていた。

誰であれ、応援歌を作ってくれたら嬉しく思うはずだが、これは勧められないと思っていたのだ。


「弟さんがどうかしたの?」

「なんや、卓球部の応援歌を作ったみたいで・・」

「え・・」


日置は驚いて次の言葉が出なかった。


「それで・・私、昨日聴いたんですけど、まったくええことないんです」

「え・・いや・・ちょっと待って。それってうちの卓球部のこと?」

「そうなんですよ」


幸子は、半ばウンザリとしてそう言った。


「いや・・ちょっと、いや、三島さん、録音したテープ持ってないの?」

「いや・・まあ・・あるんですけどね」


そこで幸子は、スカートのポケットからカセットケースを取り出した。


「おおおおお~~~!」


日置は思わず叫んだ。

隣に座る堤は、その声に驚き日置と幸子を見ていた。

それは他の教師も同じだった。


「日置くん、どないしたんや」


堤が訊いた。


「あ・・いえ、すみません」


日置は立ち上がって他の者にも「すみません」と詫びていた。


「先生・・」


幸子は小声で呼んだ。


「これ、内緒にして下さいよ・・」

「どうして・・」

「っんなもん、弟が作ったなんて知れたら、かっこ悪いですやん・・」

「そんなことはないけど・・それ、僕にくれるの・・」

「はい・・」


すると日置の顔が輝いた。

そして日置は「ちょっと」と言いながら、幸子の腕を引っ張って、慌てて職員室から出た。


「僕さ、今、とっても叫びたい気持ちなんだよ」

「えぇ~・・」


幸子は明らかに引いていた。


「すっごく楽しみ!」

「いやあ~・・先生、期待せんといてください」

「どんな感じ?どんなメロディ?」

「どんなって・・まあ・・ジャンルで言うと、ロックなんちゃいますかね」

「えええええ~~!ロック!」

「うわあ・・」


日置の喜びように、幸子は仰天した。

らしくないぞ、と。


「それで、歌詞は?」

「ああ・・ケースに挟んでます・・」

「そうなんだ!」

「ほなら、これ」


そう言って幸子は日置にテープを渡した。


「ありがとう!三島くんに、僕がすごく喜んでたって伝えてね。あ、電話もするし」

「はい・・わかりました」

「嬉しいなあ~~応援歌かあ~~」


キーンコーンカーンコーン


そこで始業ベルが鳴った。


「それじゃ」


幸子は一礼してこの場を去ろうとした。


「三島さん、ありがとう。ほんとにありがとう」


幸子はニッコリと笑って「どういたしまして」と言って去った―――



その後、日置は昼休みになるとすぐに音楽室へ向かった。

中へ入ると、急いでカセットデッキが置いてある場所まで行った。


よしよし・・


そこで日置はカセットケースを開けて、まずは歌詞を読んだ。


『栄光を掴め』



なにひとつ約束もないまま 明日のことさえわからぬまま

碁盤の上を迷うように 手探りの中を今日まで来た


いざ進め!たとえこの身が倒れようとも

ともに歩みともに泣いた あの日を思い出せ

さあ進め!突き上げた拳の中に

夢に見た栄光が 必ずあるはずさ



人は見えないレールの上を 時に怯えながら歩いて行く

確かめたくて振り返れば 過去の自分が見つめていた


いざ進め!たった一度の青春の日々

友と歩み友と泣いた あの日を思い出せ

さあ進め!白いボールに想いを乗せて

勝ち抜いたその先に 旗が見えるだろう



誰も助けてくれぬ孤独な試練 乗り越えて行くのは自分自身

挫けそうで心が折れて 見知らぬ誰かが嗤っていた


いざ進め!仲間を信じ前だけ向いて

ともに歩みともに泣いた あの日を思い出せ

さあ進め!夢を掴むその日が来るまで

何度も立ち上がれ 何度でも立ち向かえ



うわあ・・

なんて力強い歌詞なんだ・・

これ・・すごくいい!

さすが三島くんだ!


日置はデッキにテープを入れて再生ボタンを押した。

するとテンポは、幸子の言った通り8ビートのロックだった。

前奏に続いてAメロの歌が始まった。

日置は歌詞を目で追っていた。


ひゃ~~

思わず体が動く・・

これはいい・・いいぞ!


日置は英太郎の曲を、一発で気に入った。


何度も立ち上がれ・・何度でも立ち向かえ・・か。

うん、そうだよ・・

何度でも立ち向かうんだ!



―――そして放課後。



日置は急いで小屋に向かった。

そして半ば乱暴に扉を開けた。

中では彼女らが、準備体操を始めるところだった。


「きみたち!」


日置は顔をのぞかせたまま、興奮気味に呼んだ。


「おいおい、先生よ。どうしたってんでぇ」

「先生・・」

「どうしはったんですかぁ・・」

「なんか事件でもありましたか」


彼女らは半ば唖然としていた。


「そう、重富さん、そうなんだよ、事件なんだよ!」

「ええええ~~~!」


彼女らは一斉に叫んだ。


「おいおい、先生よ。落ち着けって。何があったんでぇ」

「今から音楽室へ行くから!」

「音楽室?」

「いいから、僕に着いて来て!」


日置はそう言って先に走って行った。

四人は唖然としたまま顔を見合わせていた。


「事件て言うてはったけど、でも、なんかめっちゃ嬉しそうやったで」


阿部が言った。


「そやなぁ。顔が輝いてた感じやったなぁ」


森上が答えた。


「とりあえず行ってみよか」


重富が言った。


「あれかね。先生、変なもんでも食ったんじゃねぇのか」


中川がそう言うと「なんでやねん」と阿部が突っ込み、四人は小屋を出たのであった。

やがて音楽室に着いた彼女らは、ドアを開けて中へ入った。


「きみたち、遅いよ!」


日置は本当に嬉しそうに、そして興奮していた。


「ここで、なにをするんでぇ」

「今から曲を聴かせてあげる」

「はあ?」

「先生、練習せぇへんのですか」


阿部は半ば呆れていた。


「するよ。でも曲を聴いたあとね」

「曲って、なんなんだよ」

「じゃ、かけるね」


そして日置は再生ボタンを押した。

彼女らは、一体、何の曲を聴かせる気だと、耳を澄ました。


「あっ・・やめてぇ~愛してないならぁ~・・」


流れて来たのは、辺見マリが歌って大ヒットした『経験』という曲だった。


「えっ」


日置は慌てふためき、停止ボタンを押そうとしたが、指は右往左往する始末だ。


「あっ・・やめてぇ~口づけするのはぁ~・・」

「どこっ・・どこっ」


そして日置はボタンを押すのではなく、あろうことか、コンセントを抜いて止めたのだ。

音が消えたこの場はシーンとなり、なんとも言えない空気が漂っていた。


そう、日置がかけたのは、テープのB面だったのだ。

その実、英太郎が録音したのは、幸子がお気に入りの曲を録音していたものに、上から再録音をしたテープだったのだ。

日置はA面しか聴いてなかった。

けれども、一刻も早く彼女たちに聴かせてあげたかった日置は、確認せずに入れたのだった。


誰が口を開くんだといわんばかりに、探るように互いを見る中、中川は「わっはっはっは!」と爆笑した。


「先生よ、聴かせたい曲ってこれかよ!あははは、おもしれぇ~~」

「ちっ・・違う!間違えたの!」

「先生・・大丈夫ですか・・」


阿部は引き気味に訊いた。


「確かに・・これは事件かも・・」


重富は小声でそう言った。


「間違えたの!間違えたの!」

「まあまあ、いいってことよ。で、先生よ」

「なっ・・なんだよ・・」

「本当に聴かせたかった曲をかけてくんな」

「う・・うん・・」


そして日置は、テープを取り出し穴が開くほど確認した。


こっちでいいんだよね・・


日置は恐る恐るテープを入れた。


「じ・・じゃ・・かけるよ・・」

「先生よ」


中川が呼んだ。


「なに・・」

「コンセント、抜けたままだぜ」

「あっ・・」


そして日置はコンセントを差し込んだあと、テープを巻き戻して再生ボタンを押した。

すると英太郎の力強い歌声が室内に響いた。


「おおおお~~!これ、三島の声じゃねぇか!」

「中川さん、しーっ」


阿部が制した。

すると中川も黙って曲を聴いた。

フルコーラスを聴き終わった彼女らは、半ば呆然としていた。

なんだこれは。すごくいいじゃないか、と。


「これね、三島くんが作ってくれた応援歌なの」

「応援歌?」


阿部が訊いた。


「桐花卓球部の応援歌だよ」

「えええええ~~~!」


彼女らは驚きの声を挙げた。


「これ、栄光を掴めってタイトルなの」

「おおおお~~、いいじゃねぇか!」

「めっちゃいいですぅ~~」

「なんか、すごく力が湧いてきます!」

「先生、もっかい聴かせてください!」

「もちろんだよ!」


そしてこの後、全員で五回も聴きなおしたのだった。

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