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サーよし!2  作者: たらふく
151/413

151 中川の意外な一面




―――「なあ、姉ちゃん」



三島英太郎は、姉である幸子の部屋のドアを叩いた。


「なによ」


中から幸子の声がした。


「あのさ」


英太郎はそう言いながら、ドアを開けた。


「ちょっと、入ってもええと言うてないで」


幸子は既にベッドで横になっていたが、起き上がって不機嫌な表情を見せた。


「ごめん」


英太郎は、詫びながらも部屋に入った。


「ちょっと、なんなんよ。もう十時半まわってるで」

「いや・・卓球部のことなんやけど・・」

「またその話かいな」


英太郎は、幸子に何度も卓球部の話を訊いていた。

そして桐花卓球部は素人の集まりだということも知っていた。


「この間の話の続きなんやけどな、日置先生て、インターハイ目指してるんやろ?」

「そやで」

「でも、部員は素人なんやろ?」

「だから、そやってこの間も言うたがな」

「でも・・去年はインターハイ行ったんやろ?」

「そうやって!」


幸子は、何度も同じことを訊く英太郎にうんざりしていた。


「そ・・その・・去年の人らも素人やったんやろ・・」


英太郎は、幸子の顔色をうかがいながら、恐る恐る訊いた。


「そうです」


幸子は、まるで自身のいらだちを伝えるかのように、わざと冷静に答えた。


「あんた、なんで同じことを何回も訊くんよ」

「いや・・日置先生に、頑張ってほしいなと・・」

「あんたが心配せんでも、毎日頑張ってるで」

「そ・・そうか・・」

「ちょっと、もう寝るし。んで、明日は最後の仕上げやで」


幸子は大掃除のことを言った。


「私はお母さんと一緒に買いもん行かんとあかんし、あんたもはよ寝ぇや」


幸子はそう言いながら横になり布団を被った。


「あの・・あのさ・・」


英太郎は遠慮気味に声をかけた。


「もう~~なんなんよ」


幸子は呆れ返り、また起き上がった。


「僕な・・応援歌・・作ろうと思てんねんけど・・」

「なんのよ」

「卓球部の・・」

「はあ?」

「僕、いや・・僕の曲、ええって言うてくれたん日置先生だけやねん。だからそのお礼っていうか・・」

「作ったらええんちゃうん」

「ほんま・・?ええと思う?」

「そんなん作ってくれて、嫌がる人とかいてないやろ」

「あのさ、姉ちゃん。完成したら聴いてくれへんかな・・」

「なんで私が」

「いや・・姉ちゃん、一応桐花の生徒やし・・」

「私、卓球部とちゃうやん」

「とっ・・とにかく、日置先生に聴いてもらう前に、姉ちゃんに聴いてほしいねん」

「出来上がってから考える」


幸子はそう言いながら、ベッドから下りて部屋を出て行こうとした。


「どこ行くん」

「もう~~目ぇ覚めたっちゅうねん」


幸子は英太郎の横を通り過ぎる時、頭をパーンと叩いた。


「痛ぁ・・」


英太郎は思わず頭を押さえた。


「あんたもラーメン食うか?」

「えっ、今から作るん?」

「どうすんねや。食うんか食わんのか」

「食う・・食う!」


このように姉弟の力関係は、姉の幸子が圧倒的に強かった。

しっかり者の幸子は、比較的おとなしい性格の英太郎が頼りなく映り、心配が高じて苛立つこともしばしばあったが、けっして仲が悪いわけではなかった。

そして二人はキッチンへ移動した。



―――その頃、白浜では。



風呂から上がった彼女たちは、部屋に向かう途中、中川が「先に行っといてくれ」と言い、誰もいないロビーに一人立っていた。

中川は洗面道具と着替えををソファに置き、ピアノの前に座った。


うむ・・

何年ぶりだ・・


そう思った中川はピアノの蓋を開けた。

その実、中川は子供の頃からピアノを習っていた。

いや・・無理やり習わされていた。

それこそ、お嬢さんに育てたかった母親は、嫌がる中川を強引にピアノ教室へ通わせた。

けれども中川は、練習を何度もサボリ、ピアノを諦めた母親はエレクトーン教室に通わせた。

エレクトーンは性に合ったのか、中川は小学校を卒業するまで通い続けたが、そのころ出会ったのが『愛と誠』であった。


『愛と誠』に没頭した中川にとって、エレクトーンなど眼中になく、自身が早乙女愛に似ていることもあり、髪を伸ばし始めた。

そして振る舞いも似せた中川に母親は大喜びし、エレクトーンもいつしか過去のこととなっていた。

ピアノとエレクトーンを習った甲斐があってか、中川は簡単な曲なら耳コピができた。

そして中川は鍵盤を叩き始めた。


あれだよな・・歌詞がわかんねぇぞ・・


中川はメロディーは既に覚えていた。

そう、中川が弾いたのは英太郎の曲だった。

中川は仕方なく、歌詞をハミングした。

中川は思っていた。

不味い弁当を「美味しいよ」と言って、パクパクと食べてくれた日置に、ピアノで返礼しようと。


英太郎の曲は簡単で、コードもすぐに拾えた。

中川は左手でコードを弾き、右手でメロディーを奏でた。


そこへ日置が風呂へ行くため、階段を下りていた。

ロビーに響くピアノの音に、日置は耳を澄ませた。


あれ・・これって・・

三島くんの曲じゃないか・・


そう思った日置は、階段を走って駆け下りた。

すると中川が一人でピアノを弾いているではないか。

思わず日置は唖然とした。

なぜなら、日頃の中川からは想像もつかない姿だったからだ。


「中川さん」


日置はピアノに近づきながら呼んだ。


「おう、先生じゃねぇか」


そこで中川は手を止めた。


「きみ・・今、三島くんの曲、弾いてたよね」

「おうよ」

「っていうか・・きみ、ピアノ弾けるんだ」

「まあな」


中川はほんの少し照れた。


「きみ、もしかして車の中で曲を覚えたの?」

「簡単な曲なら耳コピできるんでぇ」

「へぇーすごいね」

「それより先生よ」

「なに?」

「歌詞を教えてくんな」

「三島くんの?」

「おうよ」

「あ、もしかして気に入ったんだね」


日置は嬉しそうだった。


「まあな」

「歌詞は部屋に戻ってから書くけど、ねぇ、最初から弾いてくれない?」

「いいぜ」


そして中川は弾き始めた。

日置はソファに腰を下ろし、目を瞑って聴いていた。


ギターもいいけど・・ピアノもまた違う味があるなぁ・・

それにしても中川さん・・上手いなあ・・


ポロリン・・ポロリン・・ジャーン・・


やがて中川は弾き終えた。


パチパチパチ


日置は立ち上がって拍手をした。


「うまいね」

「そうでもねぇさ」

「ずっと習ってるの?」

「いや、今はやってねぇ」

「そうなんだ。もったいないね」

「先生」

「なに?」

「聴きたい曲があれば、弾いてやるよ」

「聴きたい曲か・・」


日置はあさっての方を向いて考えていた。


「小島先輩との思い出の曲って、ねぇのかよ」

「え・・」


日置は中川を見た。

中川は、いたずらな笑みを浮かべていた。


「付き合ってんなら、そんくれぇあんだろうがよ」

「きみ、そういうのはね、二人だけの秘密なんだよ」

「かぁ~~、こりゃまった~すんずれーしました!」


中川はそう言いながら、鍵盤をジャーンと鳴らした。

そして中川は、突然、日置の知らない曲を弾いた。

とてもしっとりとした、バラードだ。

日置は黙ったまま、中川を見ていた。


「夕陽を見ているぅ~彼の~横顔がぁ~怒っているとは~限らないのよ~」


この歌は、『愛と誠』がテレビドラマとして放映取れた際、早乙女愛の役を演じた池上季実子が歌った曲である。


「私を~見ずに~肩いからせて~石ころ蹴ったりしているけれどぉ~」


日置は中川の歌の上手さに驚愕していた。

そう、中川はピアノのみならず、抜群に歌が上手かったのだ。


「私はあなたに命をかけてる~私はあなたに命をかけてる~の~、だから二人の間には~愛と誠の繋がりがあるの~あるの~」


ポロリン・・ポロリン・・ジャーン・・


弾き終えた中川は日置を見た。

日置は驚きのあまり、拍手することすら忘れる有様だった。


「この曲、知らねぇだろ」

「え・・」

「え、じゃねぇし」


中川はクスッと笑った。


「ああ・・知らないけど・・きみ、歌手みたいに歌が上手いんだ・・」

「そうでもねぇさ」

「ピアノといい、歌といい・・きみ、すごいじゃないか」

「よし」


中川はそう言ってピアノの蓋を閉めた。


「んじゃ、先生よ。歌詞、頼んだぜ」

「え・・ああ、うん、わかった」

「おやすみ~」


中川はそう言って、階段へ向かった。

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