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サーよし!2  作者: たらふく
150/413

150 頑張り時




結局、練習は夕飯前まで続いた。


「ああ~~!さすがに疲れたぜ」


中川はラケットをバックに仕舞いながら、タオルで汗を拭っていた。

阿部と森上と重富も、肩で息をしながら汗を拭っていた。


「重富さん、大丈夫?」


日置が訊いた。


「はい。大丈夫です」


重富はとても疲れていたが、日置がつきっきりで特訓してくれることで、へこたれてはいけないと気力を奮い起こしていた。


「それにしても秀の字さんよ。あんた、うめーな」

「そうかな」


八代は苦笑いをしていた。


「森上のドライブをよ、よくあんなに簡単に返せるよな」

「僕は一応、男だからね」

「八代さんがぁ、上手く返してくれはるんでぇ、とても練習になりましたぁ」

「森上さんの実力は知ってたけど、阿部さんも中川さんも重富さんも、高校から始めたんだよね」


八代は日置に訊いた。


「そうだよ」

「すごいと思うよ」

「中川は、二学期に入ってから。重富は、ついこの間まで演劇部だったんだよ」

「ええええ~~、中川さんって二学期になってからなの?で、重富さんは最近なんだ・・」


八代は日置の指導力のすごさに、改めて驚いていた。


「慎吾、お前やっぱりすごいわ」

「そんなことないよ。この子たちのやる気だよ」

「私は小谷田の本多って野郎に借りがあるんでぇ」


中川の言いぶりに、白鳥はクスッと笑った。


「ああ~、小谷田」


八代が言った。


「それだけじゃねぇ!三神の須藤って野郎もぶっ潰さなきゃならねぇんでぇ」

「中川さん」


日置が呼んだ。


「なんでぇ」

「意気込みは十分わかったから、まずは腹ごしらえしないとね」

「おうよ!」

「え・・もしかして夕食の後も練習するのか?」


八代が訊いた。


「もちろんだよ」

「ひゃ~・・」

「ひゃ~ってなんだよ」

「いや・・なんでもない」


その実、八代は高校時代を思い出していた。

無論、愛豊島でも合宿は何度もあった。

その際、日置と八代は夜中まで練習を続け、それこそ体力の限界までボールを打ち続けたことがあった。


「とにかく、時間を有効に使いたい。きみたち、そのつもりでね」


日置が彼女たちに向けて言うと、彼女らは元気いっぱいの返事をした。



―――ここは食堂。



日置と八代と白鳥は同じテーブルに着き、阿部ら四人は別のテーブルに着いてそれぞれ食事を摂っていた。


「慎吾は、いつまでいるの?」


八代が訊いた。


「三日までだよ」

「へぇー、結構な日程だな」

「秀幸は?」

「僕たちは元日まで」

「そうなんだ」

「新婚旅行じゃないし、あまり連れ回すのもね」


八代は照れくさそうに笑った。


「ああ~、ご両親の心証もあるもんね」

「まあね。ところで小島さんは?」

「ん?」

「せっかくだから、連れて来ればよかったのに」

「なに言ってるんだよ。連れて来たら、その時点でわかってしまうじゃないか」

「ああ~」


八代は彼女ら四人のことだと察した。


「それにしてもさ、中川さんっておもしろいよね」

「まあそうなんだけど、ちょっと勇み足が過ぎるのが、玉に瑕かな」


そこで日置は、文化祭のこと、一年生大会のこと、今回の合宿の経緯などを話した。

すると八代と白鳥は、驚きながらも爆笑していた。


「あはは、慎吾が芝居かよ。しかも太賀誠って」

「観たかったです~」

「二人とも、他人事(ひとごと)だと思って」


日置はむくれ顔になった。


「でもさ、そのおかげで、森上がスランプから抜け出せたんだけどね」

「森上さん、スランプだったんだ」

「そうなんだよ」


そして日置は、森上が復帰した経緯やスランプに陥ったことを話した。


「そうか・・そんなことがあったんだ」

「ま、いずれにしても、今は四人で全国を目指してる」

「森上さんがいたら、三神にも勝てるよ」

「うん。エースは森上だけど、僕は阿部も中川も重富も三神に勝てる選手に育てるつもり」

「ダブルはどうするんだ?」

「ああ、それなんだけどね、僕は森上と阿部を組ませようと思ってるの。秀幸はどう思う?」

「そりゃ、絶対に森上さんと阿部さんだよ」

「だよね」

「あの二人が組めば、後ろで森上さんがドライブ、前で阿部さんが速攻。森上さんのドライブは威力があるだけに、効果覿面だよ」

「この後さ、中川とダブル組んで、森上たちを相手してくれない?」

「うん、いいよ」

「白鳥さん」


日置が呼んだ。


「はい?」

「せっかく秀幸との旅行なのに、ごめんね」

「いいえ~、全然いいんですよ」


白鳥は優しい笑みを見せた。


「私、秀幸さんのプレー見るの、好きなんです」

「そうなんだ」

「せやかて、かっこええでしょ~」

「歩美ちゃん・・」


八代は照れくさそうに白鳥を見た。


「あはは、ごちそうさま」


日置は目の前の幸せそうな二人を、目を細めて見ていた。



―――ここは体育館。



食事を終えて体育館に戻った彼らは、練習を再開するためそれぞれ準備に入っていた。


「森上さん、阿部さん」


日置が呼んだ。

二人はラケットを手にして、日置の前へ移動した。


「きみたちは、正式のペアとしてダブルスを組んでもらうからね」


すると森上と阿部は、驚いて顔を見合わせていた。


「それで今から、秀幸と中川さんに組んでもらって相手してもらうからね」

「私・・恵美ちゃんと組めるんですか・・」


阿部は唖然としたまま訊いた。


「そうだよ」

「きゃあ~~~!やったあああ~~!」


阿部は思わず森上に抱きついていた。


「千賀ちゃぁ~ん」


森上は、阿部の興奮ぶりに少し困惑していた。


「恵美ちゃん!私、恵美ちゃんの足を引っ張らんように頑張るから!」

「私かてぇ~千賀ちゃんの邪魔にならんようにするわなぁ」

「いやあ~~めっちゃ嬉しい~~!」

「私もぉ、嬉しいでぇ」

「先生!ありがとうございます!」

「よし、じゃ始めようか」


その後、日置は中川にも説明し、中川は「秀の字!しっかり着いて来な!」と、また八代を笑わせていた。


「重富さんは僕と練習ね」

「はいっ」


こうしてそれぞれに分かれて練習が始まった。


「じゃ、オールやろうか」


八代が言った。


「はいっ」

「はいぃ」

「中川さん、ミスしないようにね」

「誰に言ってやがんでぇ。食らいついてやるさね!」


初めて組む阿部と森上は、無論、コンビネーションが合わなかった。

けれども、森上もそうだが、特に阿部は森上と組むことの嬉しさに、気持ちは前を向いていた。

それは中川も同じだった。

森上のスーパードライブを拾うも、何度も後逸をしたが、中川は懸命にボールに食らいついていた。


「中川さん、少しでもボールが高く上がると打たないとダメだよ」

「おうよ!」

「それと、ツッツキもカットも常に攻撃的に」

「攻撃的?」

「打てるものなら打ってみろって」

「おうさね!」

「それと阿部さん」

「はいっ」

「打つと見せかけてからのストップも入れた方がいいよ」

「はいっ!」

「そのストップを活かすためには、確実にスマッシュを決めないとダメ」

「はいっ」

「コースも厳しくね」

「はいっ!」


方や、日置と重富は同じ練習を繰り返していた。


「何度も言ってるけど、台から下がらないこと。強打されたボールにも怯んじゃダメ」

「はいっ」

「とにかく相手コートにしつこく返す」

「はいっ」

「よーし、頑張れ!」

「はいっ」


こうして延々と練習は続けられ、やがて時間は午後十時を回っていた。


「はい、今日の練習はここまでね」


日置が言った。


「はいっ」

「秀幸、白鳥さん、ありがとう。とても助かったよ」

「なに言ってんだよ」

「いいえ~」

「きみたち、秀幸と白鳥さんにお礼を言ってね」


日置がそう言うと、四人は「ありがとうございました!」と頭を下げていた。

そして彼らはバッグを持って体育館を後にした。


「きみたち、お風呂に入って早く寝なさい」


施設のロビー入ると日置がそう言った。

そして彼女ら四人は、階段で三階まで行った。


「エレベータ、使わないんだ」


八代が言った。


「そうだね」

「足腰の鍛錬か・・すごいな」

「僕が言ったわけじゃないよ」

「へぇ・・あの子たち自らそうしたんだ」

「練習で疲れてるのに、すごいですね」


白鳥も感心していた。

そして日置と八代と白鳥も、それぞれ部屋に向かった。

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