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サーよし!2  作者: たらふく
149/413

149 合宿開始




「え・・なんで秀幸がここにいるの?」


日置は呆気に取られて訊いた。


「それはこっちが訊きたいよ」


八代も呆れて笑っていた。


「僕は合宿でここに・・」

「僕は、ここの社員。忘れたのかよ」

「あ・・あああ~~そうか。秀幸だった。そうかそうか、それで」

「あはは、なに言ってんだよ」


そして日置は、彼女たちを呼び寄せた。


「森上さんは知ってると思うけど、秀幸は僕の同級生で親友なの。で、白鳥さんは秀幸の恋人だよ」


日置は彼女たちに、八代と白鳥を紹介した。


「どうも初めまして。八代秀幸です」

「白鳥歩美です」

「初めまして、卓球部キャプテンの阿部千賀子です」

「森上恵美子ですぅ」

「重富文子です」

「中川愛子です」


それぞれ自己紹介が終わった。


「で、慎吾、なんでここで合宿を?」

「中川のお父さんが、丸樺にお勤めなの」

「へぇー!大阪?」


八代は中川に訊いた。


「大阪本社じゃありませんので」

「そうなんだ、どこ?」

「支社の総務です」

「そうなんだ」


八代は大阪本社勤務なので、孝文のことは知らなかった。


「いやっ、それがよ、左遷されちまってよ」


中川は、突然「本来」の中川に戻った。

中川の話しぶりを聞いた八代と白鳥は仰天していた。

そして阿部は、中川のジャージを引っ張った。


「中川さん」


日置が呼んだ。


「なんでぇ」

「言葉遣いには気を付けて」

「・・・」


中川は不満げだった。


「あはは、きみっておもしろいね」


八代は楽しそうに笑った。


「なんか・・昔の任侠映画みたい・・」


白鳥もクスッと笑った。


「すみません。この子、ずっとこんな喋り方なんです」


阿部が二人に詫びた。


「ううん、いいのいいの」

「私さ、こんな風に喋らねぇと、調子が狂っちまうんでぇ。許してくんな」


中川の言葉に、八代と白鳥は優しく微笑んだ。


「で、慎吾」

「なに?」

「せっかくだし、僕も合宿に参加するよ」

「いいの?」


そこで日置は白鳥をチラリと見た。


「歩美ちゃんもずいぶん上達したし、基本なら相手は出来るよ」

「そうなんだ。白鳥さん、すみません」

「いいえ、私でよければ」

「中川さん」


日置が呼んだ。


「なんでぇ」

「秀幸はカットマンだよ」

「おおっ、そうなのか!」

「すごく上手いから、きみ、教えてもらいなさい」

「おうさね!頼むぜ、秀の字!」

「だから・・秀の字って言い方・・」


日置は呆れていた。


「あははは、きみ、ほんとおもしろいね。よーし!合点承知だぜっ!」

「おうよ!」


日置は八代に、申し訳なさそうに苦笑した。

けれども八代も白鳥も、全く意に介することがなかった。

やがて練習が始まると、他の宿泊客は日置らに圧倒され、ほどなくして体育館を出て行った。


「じゃさ、きみたちは秀幸に教えてもらって。僕は重富さんを徹底的に扱くから」


日置はこの合宿では、重富のレベルを上げることに重きを置いていた。

なにせ部員は四人しかいない。

重富も戦力として勝てる選手にしなければならないのだ。


「秀幸、悪いんだけど、森上と阿部も頼むよ」

「もちろん」


そして八代は阿部と森上も引き受け、日置と重富は台に着いた。


「さて、重富さん」

「はい」

「僕は緩急つけてドライブを送るから、きみは徹底してショートで返すこと」

「はい」

「コントロールが難しいけど、ミスをしないようにね」

「はいっ」


日置は重富を、守りに強い選手に育てるつもりでいた。

無論、攻撃も不可欠だが、とにかく守って守って守り抜くのだ。

例えるなら、大久保のように。

大久保の型は、鉄壁のブロックといわれるほど、そのガードの堅さは一級品だ。

相手が根負けするほどに守り抜き、チャンスボールを確実に決める戦法だ。


「台から下がっちゃダメ!」


日置はドライブを打ちながら檄を飛ばした。


「そうそう、バウンドしてすぐに打つ!」

「はいっ」


重富も懸命になって日置に着いて行った。


「ボールは確実に僕のここへ返すこと!」


日置は打ちながら、自分が立っている場所を言った。


「はいっ」

「ダメダメ、ずれてる!」

「はいっ」

「打ってミスするのはまだいい。絶対に後逸しないこと!」

「はいっ」


と、このように特訓は延々と続けられた。

冬とはいえ、重富の体から汗が噴き出していた。

方や、一台開けて八代と打っている森上は、スーパードライブを放ち続けていた。

その横で中川と阿部は、フットワークをしていた。

白鳥は、自分の出る幕ではないと察し、ボール拾いに徹していた。


「森上さん、いいドライブだね」

「ありがとうございますぅ」


森上は嬉しそうに笑った。


「よーし、じゃ、三点に打ち分けようか」

「はいぃ」

「フォアとミドルとバック、一球ずつね」

「はいぃ」

「僕は全部フォアに返すから、確実に入れないとダメだよ」

「わかりましたぁ」

「変化も見分けてね」


そこで八代はラケットをクルクルと回した。


「中川さん」


八代が呼んだ。


「なんでぇ」

「ツッツキもカットも、攻撃的に」

「おうよ!」

「入れてるだけじゃ意味がないよ」

「わかってらぁな!」

「阿部さんも、コースはもっと厳しくね」

「はいっ」


八代は森上と打ちながらも、時々中川と阿部のラリーも見ていた。


「歩美ちゃん」


八代が呼んだ。


「はい?」

「ボール拾い、あまり無理しなくてもいいよ」

「いやいや、ええんよ。見てるだけやったら体が冷えるし」


白鳥はニッコリと微笑んだ。


「そっか。ありがとう」


こうしてそれぞれ練習を続け、やがて二時間が過ぎようとしていた。


「慎吾」


八代が声をかけた。


「なに?」

「そろそろ休憩しないと、この子たち疲れるぞ」

「ああ、そうだね。じゃ、十分間休憩しようか」


実際、日置と打っていた重富は、激しく肩で息をするようになっていた。


「重富さん、大丈夫?」


八代が気遣った。


「はい、ハアハア・・こんなん平気です・・」

「慎吾」


また八代が呼んだ。


「なに?」

「お前、飛ばし過ぎじゃないか?」

「そうかな」

「時間はたっぷりとあるんだ。あまり無理をさせると反って逆効果だぞ」

「うん、わかってる」


その実、日置は、まだこれでも足りないと思っていた。

時間に余裕などありはしないんだ、と。

家に帰らないで済む合宿だからこそ、徹底して続けるんだ、と。


「重富さん」


日置が呼んだ。


「はい・・」

「休憩後、またさっきの続けるからね」

「はい・・ハアハア・・」

「常に反復。これをやり熟さないと身に着かないからね」

「はい・・」


そして全員で休憩をとった。

重富はタオルで汗を拭き、大きく深呼吸をしていた。


「とみちゃん、大丈夫?」


阿部が心配した。


「うん、平気やで」

「重富、無理すんじゃねぇぞ」


中川もそう言った。


「ありがとう。でも大丈夫。私はあんたらより出遅れてるから、これくらいやらんと追いつけんもんな」


重富はニッコリと笑った。


「いい根性してらぁ!私も負けてらんねぇぜっ!」

「私もぉ、頑張るぅ」


森上もそう言った。


その実、八代は学生時代の感覚を忘れていたのだ。

日頃の練習といえば、すっかり現役を引退した男性や、ママさん相手だ。

方や日置は、女子高生相手に全国を目標にやっている。

勝ち抜くためには、厳しい練習など当たり前だ。

その意味で、二人の感覚にずれが生じていたのだ。


「秀幸」


日置が呼んだ。


「なに?」

「愛豊島時代、こんなもんじゃなかったよな」

「ああ・・まあ」

「お前、この子たちにもっと厳しくしてくれないと」

「そうは言ってもなあ」

「この子たちのためなんだ。頼むよ」

「秀の字さんよ!」


中川が呼んだ。


「なに?」


秀の字と言われ、八代は半笑いだった。


「厳しくやってくんな!」

「うん、まあ」

「こちとら命のやり取りやってんだ!」


八代は、中川の言葉の意味がわからず唖然とした。


「秀幸、気にしなくていいから」


日置は八代の肩をポンと叩いた。

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