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サーよし!2  作者: たらふく
145/413

145 新入部員




―――この日の夜。



小島は日置のマンションにいた。


「で、三神が優勝ですよね」


二人は食事を終えた後、ソファに座って話をしていた。


「無論ね」


日置は少し、悔しそうな表情を見せた。


「そりゃそうですよね」

「でも彩ちゃんさ」

「なんですか」

「なぜ、先に帰っちゃったの?」

「ああ、それなんですけどね、あそこで私らも残って試合を観たら、中川さん、嫌やろなと思たんです」

「どうして?」

「せやかて中川さん、2敗したんでしょ」

「うん」

「心中、穏やかやないと思たんです。そこに先輩である私らがいてたら、気まずいやろな、と」

「なるほど。でもね、中川は決勝を見ずに先に帰っちゃったんだよ」

「え、そうやったんですか」

「で、学校へ行って練習してたんだよ」

「へぇー!」


小島は日置の言葉で、中川のやる気を見た。


「僕たちも試合を観た後、小屋へ行ったんだけど、中川さん、床で寝てたんだよ」

「ええっ」

「多分、疲れて寝たんだと思う」

「そうやったんですか~」

「中川は、伸びるよ」

「はい、私もそう思います」

「それでね、森上なんだけど、やっとスランプから抜け出したの」

「おおおおお~~!」

「小谷田の安達さんっていうカットマンと対戦したんだけどね、もう、すごかったよ」

「うわあ~~観たかったなあ~~」

「でも、森上もこれからだよ。僕はもっと成長させる」

「来年の予選が楽しみですね!」


小島は、嬉々として話す日置を見ながら、幸せを実感していた。

一旦は、卓球から離れると言った日置とは、別人のようだ、と。

もう、大丈夫だ、と。



―――そして翌日。



「とみちゃん、昨日はお疲れさま」


教室に入ってすぐに、阿部は重富の席へ行った。


「ううん。こっちこそ、楽しかったで」

「体、痛ない?」


阿部は、普段使わない筋肉を使ったことで、重富の体を心配した。


「あはは、疲れるほど動いてないし」

「そうか。それならよかった」

「よーう、重富」


そこへ中川もやって来た。


「中川さん、おはよう」

「昨日は、ありがとな」

「ううん、全然」

「今度、おめーになんか奢ってやんよ」

「ええ~、そんなんええって」

「ああ~それええかも」


阿部もそう言った。


「おめー、なにが好きなんでぇ」

「なにがて・・そやなあ・・」

「どうせ、パフェとか、そんなんだろ」

「ああ・・パフェも好きやけど、ほら、ハンバーガーショップ、できたやん?」

「おうよ」

「それがええかな」

「立って食うやつか」

「いや、椅子もあるって」


「おはよぉ~」


そこへ森上もやって来た。


「恵美ちゃん、おはよう」

「よーう、森上」

「森上さん、おはよう」

「なんの話してるん~」


森上は、愛くるしい笑顔を見せた。


「今度さ、重富に奢るって話、してんだよ。昨日の礼な」

「ああ~、うん~そやなぁ~お礼せんとぉ~いかんなぁ」


そして四人は、昨日の試合の話をした。

すると重富は、時々戸惑った表情を見せていた。



―――昨日、日置らと別れた重富は。



一人で駅に向かって歩いている途中、ぼんやりと試合のことを思い返していた。


なんか・・卓球て・・おもしろいんやなあ・・

あの子ら・・教室では見せん顔してたしなぁ・・


重富は、自身が負けたことを申し訳ないと思いつつも、阿部、森上、中川の違う一面を見て、卓球に取り組む真面目さを感じ取っていた。

同時に、三人では来年の予選に出られないであろうことも。

そしてこうも思っていた。

演劇は好きだし、だから演劇部員なのだが、ピンポンではない卓球という「未知」の世界を知ったことで、演劇とは全く違う魅力がある、と。

そして自分は不甲斐ない試合をし、大恥をかいた。

あのまま終わらせていいものか、と。


そう、重富は、なにか忘れ物をしたような気になっていたのだ。



―――昼休み。



「村田さん」


重富は一年七組の教室を覗いて、演劇部員である村田を呼んだ。


「あ、重富さん」


村田は重富に気が付き、席を立って重富の元へ行った。


「どしたん?」

「うん、ちょっと話があって」

「なんの?」


そして二人は廊下に出た。


「あのさ・・言いにくいことなんやけど・・」

「え・・なによ」


村田は、何事かと少し不安に思った。


「私な・・卓球部に入ろうかと思てんねん・・」

「えっ!」


村田は重富の言葉が信じられなかった。

一体、何があったんだ、と。


「ちょ・・なんで・・。というか、どうしたんよ」

「うん、実は、昨日――」


そして重富は、試合に参加したことを話した。

加えて、なぜ参加することに至ったのか、事の経緯も説明した。


「えええ~~、先生らが芝居に出てくれはったんは、そんな裏取引があったんか!」

「裏取引て・・」

「で、試合、どうやったんよ」

「私か?」

「うん」

「そんなん、言わんでもわかるやん」

「そらそうやわな」

「でな・・演劇部、一年生は私と村田さんだけやん。それで悪いな、と思て」

「いや、私は別にええけど、あんた、ほんまに卓球部へ行くん?」

「うん」

「いや、ちょっと待ってぇな」

「なに?」

「あんた、入部の条件、素振り500回て、知らんのか」

「知ってるけど・・」


日置の入部条件は、校内では有名になっていた。


「それ、やらんとあかんのやで」

「わかってる」

「なんか・・すごいな」

「え・・」

「決意は揺るがんって感じやな」

「決意、いうほどのもんでもないけど、なんか納得できひんというか・・」

「なにをよ」

「ボロ負けしたこと」

「そうなんや」

「めっちゃバカにされたしな」

「へぇ・・」

「村田さん、ごめんな」

「ううん、私はええで」


村田は優しく微笑んだ。


「ありがとう」

「頑張りや」

「うん」


そして重富は部長の掛井にも話をし、了承を得た上で演劇部を去った。



―――放課後。



「さて、今日から心機一転、来年の予選に向けて頑張るからね」


練習前、日置は彼女らに向けて話をしていた。


「昨日の試合の反省点や、課題も浮き彫りになったことで、やることは山積している。よって、今までより一層、厳しくなるからそのつもりでね」

「はいっ」

「はいぃ」

「おうよ!」


ガラガラ・・


そこで扉が開いた。

四人は一斉に扉を見た。

するとそこには重富が立っていた。


「重富さん、どうしたの?」


日置が訊いた。


「お邪魔します・・」


重富は靴を脱いで中へ入った。

彼女らも、何事かと重富を見ていた。


「重富、どうしたんでぇ」

「あの、先生」


重富は、日置の元へ行った。


「なに?」

「私、卓球部に入りたいんですけど、いいですか」

「えっ・・」


当然、日置も彼女らも驚いていた。


「入るって・・演劇部は?」

「辞めました」


重富はニッコリと微笑んだ。


「えええ~~、辞めたって、ほんとなの?」

「おいおい、重富、おめー、今朝はそんなこと言ってなかったじゃねぇかよ」

「とみちゃん、どうしたん?」

「ほんまなぁん~」


彼女らは、畳みかけるように訊いた。


「先生。私、頑張りますから教えてくださいますか」

「あ・・ああ、やる気さえあれば、いくらでも教えるけど・・」

「ほな、入部を認めてくれますか」

「えっと・・素振りなんだけど・・」

「知ってます。500回ですよね」

「ああ・・うん」

「私、やりますので」

「そっか。じゃ、まずは素振りからね」

「阿部さん、森上さん、中川さん」


重富は彼女らを見た。


「私、頑張るので、よろしくお願いします」


そして頭を下げた。


「あはは!こりゃいいや!おうよ、おめーの入部、大歓迎だぜ!」

「とみちゃん、一緒に頑張ろな」

「よろしくぅ~とみちゃん~」


こうして桐花卓球部は、新たに重富が加わり、四人の部員を擁して日置はさらに進み続けるのである。

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