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サーよし!2  作者: たらふく
142/413

142 諦めるわけにはいかない




―――「中川さんて・・あんな子やったんですか・・」



フロアで観ている植木が言った。


「おもろいやろ」


早坂は笑っていた。


「見た目とのギャップが・・」

「まあ、それもあるけど、なかなかええ根性しとるで」

「でも、技術がまだまだですね」

「あの日置やぞ。このままにしとくはずがないやろ」

「まあ、そうですね」

「わしは来年の予選が楽しみでならんわ」



その中川は、自分の不甲斐なさを嫌というほど感じていた。


チビ助が点を取っても・・私がミスをして足を引っ張ってんだ・・

なにやってんでぇ・・

四ヶ月なんざぁ・・言い訳さね・・

試合に出てる限りは・・十年も四ヶ月も関係ねぇぜ・・

くそっ・・


「おい、チビ助」


中川は小声で呼んだ。


「なに?」

「私はどうすりゃいいんでぇ」

「え・・」

「どうすりゃ・・おめーの足を引っ張らなくて済むんでぇ」

「どうすりゃて・・」


そこで阿部は日置を見た。

日置は「うん」と頷いて「タイム取って」と言った。

そして阿部はタイムを取り、二人はベンチに下がった。

現在、カウントは19-15で小谷田がリードしていた。


「中川さん」


日置が呼んだ。

中川は黙ったまま日置を見上げた。


「きみの中には、もう太賀誠はいないの?」

「え・・」

「きみ、なに諦めてるんだよ」


日置はそう言って笑った。


「諦めてなんかねぇさ。だけどよ・・」

「だけど、なに?」

「私の持ってるもんさ・・全部出しても通用しねぇんだよ」

「そうだよね」

「どうすりゃいい!私はどうすりゃいいんでぇ!」

「どうすることもできないよ」

「なっ・・」

「死に物狂いでボールに食らいつく。これしかないよ」

「・・・」

「言っとくけど、相手コートに入りさえすれば、ミスじゃないんだよ」

「っんなこたぁ、わかってらぁな!」

「いや、わかってない」

「どういうこった」

「ダブルスは、ペアにボールを繋ぐことが基本。特にきみたちは阿部さんが決めて点を取るパターンだ」

「おうよ」

「きみ、自分がミスをしないようにって考えてない?」

「そりゃそうだろが」

「ミスをしないんじゃなくて、阿部さんにボールを繋ぐんだよ」

「・・・」

「そのためには死に物狂いで食らいつく」


そこで日置は阿部を見た。


「そうだよね」

「え・・」

「中川さんが繋いだボールを、きみが決めるんだよね」

「はいっ」

「中川さん、だから諦めちゃダメだよ」

「おうよ!」

「よし。まだ挽回できる点差だ」


そう言って日置は二人を送り出した。


「チビ助」


中川はコートに向かいながら、阿部を呼んだ。


「なに?」

「おめー、決めろよ」

「うん、わかってる」

「私の返球は、きっと甘くなる。でも、繋ぐからな」

「うん」

「よーし!来やがれってんでぇ!」


中川はそう言って構えた。

サーブは阿部だ。

阿部は台の下でサインを出した。

中川は「おうよ!」と答えた。


中川はけして諦めたわけではなかった。

けれども小谷田との実力の差の前では、どうすることも出来ないでいた。


――中川くん・・


中川の頭の中に、突然、岩清水が現れた。


なっ・・おめーは、岩清水・・


――僕は、早乙女愛のためなら死ねる・・


おうよ・・おめーはそう思っていたし、実際、そのように行動した・・


――きみも同じじゃないか・・


なにっ・・


――チビ助のためなら死ねるはずだ・・


チビ助のために・・


――監督も言ってただろう・・阿部にボールを繋げと・・死に物狂いで食らいつけと・・


わかってんだよ・・そんなこと、おめーに言われなくてもよ・・


――コースを狙いたまえ・・コースを・・


コース・・それって、どこを狙えってんだ・・


そこで岩清水は姿を消した。


おい・・岩清水・・岩清水よ・・

コースってか・・

それも今までさんざんやってきた・・

でもよ・・全部、失敗に終わってんだ・・

くそっ・・

畠山の体めがけて・・ナイフを刺してやりてぇぜ・・

ん・・?

やつの体めがけて・・

これはまだ・・やってなかったぜ・・

ええ~~い、一か八かでぇ!


そして阿部は、下回転の小さなサーブを出した。

本多は、そのボールをすかさず(はた)いた。

フォアに入ったボールを、中川はフォアカットで畠山の体をめがけて返した。

少し体を詰まらせた畠山のドライブは、十分な返球ではなかった。

チャンスと見た阿部は、思い切りスマッシュを打ちに出た。

その際、阿部のラケットの方向を見てフォアに入ると読んだ本多は、フォアへ動きかけた。

阿部は瞬時にその動きを察知し、バッククロスへ流し打ちをした。

本多は動きを止められずに、ボールは後方へ転がって行った。


「サーよし!」

「っしゃあ~~~!」


二人は互いを見てガッツポーズをした。


「よーーし!ナイスボール!」


日置は大きな拍手をしていた。


「中川さん!ナイスカット!」


小島が大声で声援を送っていた。

そこで中川は声のする方を見た。


おお・・小島先輩じゃねぇか・・

あっ・・他の先輩も・・


「おうよ!」


中川は小島に向けて左手を挙げた。


「挽回やで!」

「もう1本!」

「行け行け~~~!」


他の者も声援を送った。


「よし、ここ1本な」


阿部が言った。


「おうよ!」


そしてサーブチェンジとなった。


「チビ助」


中川は小声で呼んだ。


「なに?」

「やつの体めがけてボールを送るからよ、おめー、さっきみてぇに打てよ」

「わかった」


そして中川はレシーブに着いた。


「来やがれってんでぇ!」


中川は本多を睨んだ。


「1本!」


本多は声を挙げながら、台の下でサインを出していた。

畠山は小さく頷いた。

そして本多は、センターラインぎりぎりのところへ、スピードの乗ったロングサーブを出した。

中川は慌てて左の方へ動いてバックカットで返した。

けれども動きが出遅れたため、ボールは甘く返った。


畠山は、待ってましたと言わんばかりに、バッククロスへドライブを放った。

するとどうだ。

阿部はバウンドしたと同時に、抜群のコントロールでボールを止めた。

フォアストレートに入ったスピードボールを、本多はすぐさま動き、スマッシュを打った。

フォアクロスを逃げるかのようなボールを、中川は懸命に追った。


「絶対に拾え!」


日置が叫んだ。


くっそ~~~!


中川は後逸しそうになったが、なんとかラケットにあててカットした。


入れ~~入れ~~入りやがれぇぇ~~!


中川はボールの行方を目で追った。

けれどもボールは、相手コートに届かずにネットに引っかかり、ミスとなった。


「サーよし!」


本多と畠山は、力強くガッツポーズをした。


「よーーし、ナイスボールや!」


中澤も声を挙げた。


「済まねぇ」


中川が阿部に詫びた。


「どんまい、どんまい」


阿部は体を動かしながら答えた。


「中川!」


日置が叫んだ。


「死に物狂いで食らいつけって言ってるだろう!なにやってるんだ!」

「わかってらぁな!」


日置は檄を飛ばしながらも、ダブルスは勝てないと思っていた。

そもそも、にわか仕込みのダブルスであり、そうは問屋が卸さないであろうことも。

けれども諦めさせるわけにはいかない。

勝てないまでも、せめて相手を追い詰めろ、と。

それこそが来年の予選に繋がるんだ、と。

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