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サーよし!2  作者: たらふく
136/413

136 中川の性質




―――金曜の夜のこと。



日置は練習を終えて、その足で桂山の工場へ向かっていた。

そう、小島にユニフォームを借りるためだ。

やがて工場に到着した日置は、出入り口で小島が出てくるのを待っていた。


「いやあ~~慎吾ちゃんやないの~~」


いの一番に日置を見つけたのは、大久保だった。


「よう、虎太郎」


日置はニッコリと笑って、右手を挙げた。


「日置さん、どうしはったんですか」


安住が訊いた。


「うん。小島を待ってるの」

「あの子らやったら、まだ更衣室で喋り倒してますよ」

「あはは・・そうなんだね」

「慎吾ちゃん、今からどっか行かへんか~」

「いや、ちょっと小島に用事があるから」

「っんもう~デートなんか、いつでもできるやんかいさ~」

「デートじゃないんだよ」

「ほなら、なんなんよ~」


そこで日置は、日曜日に一年生大会に出ること、そのため、「影の大番長」のユニフォームを小島に借りることなどを話した。


「いやっ、影の大番長て。あっははは」


大久保は爆笑していた。


「中川さんて、ほんま、おもろい子ですね」

「まあね」

「これは、日曜日には応援しに行かんと、あかんわ~」

「僕も行きますよ。影の大番長の正体を見たいですし」

「いや、練習があるだろうし、いいよ」

「っんもう~午前中だけやんかいさ~」

「そうなんだ」


そこへ彼女ら八人が、ワイワイと話しながら歩いてきた。


「ああ~~っ!先生~~!」


蒲内が日置を見つけた。

そして彼女らは、日置の元へ駆け寄って来た。


「いやっ、先生ですやん。お久しぶりです~」

「先生、こんなとこまで来て・・」

「杉ちゃん、それ言うたらアカン」

「そうそう、愛しの彩華に会いたくて会いたくて、ね?先生」

「いやあ~、アツアツやん~~」


日置は「相変わらずだな・・」と苦笑していた。


「おだまらっしゃぁぁ~~い!」


小島がみなを制した。


「先生、どないしたんですか」


小島は冷静に訊いた。

そして日置は、大久保に説明したのと同じ内容を繰り返した。


「で、一緒にきみんちへ行けば、そのまま持って帰れると思ってね」

「はい、わかりました」

「先生、私らも応援に行きます!」


為所が言った。


「そうそう、行きます~~!」

「影の大番長て・・ププ」

「森上さんや阿部さんの試合も観たいしな」

「一年生大会かぁ~懐かしいな」


こうして大久保や安住、彼女らは、日曜日、午前中の練習を終えて体育館へ向かうのだが、重富の試合には間に合わなかったのである。



―――府立の別館では。



第5コートでは、両チームが整列し、たった今、オーダーを読み上げたところだった。

オーダーはこうだ。


トップ、中川対本多。

日置の読み通り、本多はトップに出て来た。


二番、森上対安達。

これも日置の読み通りだ。


ダブルス、阿部、中川対本多、畠山。

四番、阿部対中原。

ラスト、重富対畠山。


両校は互いに一礼して、それぞれベンチに下がった。


「さて、中川さん」


中川は日置の前に立っていた。


「おう!」

「本多さんは前陣。おそらくストップも使って来る」

「おうよ!」

「きみはカットマンだ」

「そうさね!」

「徹底的に拾うこと。相手にミスをさせてなんぼだからね。無論、チャンスボールは打つこと」

「合点でぇ!」

「うん、きみなら勝てるよ」


日置は中川の肩に手を置いた。


「徹底的に叩きのめしておいで」

「あたぼうよ!」


そして日置はポンと叩いて送り出した。



―――一方で小谷田ベンチでは。



「本多」


中澤が呼んだ。


「はい」

「うちは三年前、桐花に3-0で負けとる」

「はい」

「今日は、その雪辱戦や」

「はい」

「中川は、ええカットマンやが、大したことあらへん」

「はい」

「まずは、エースのお前が1点取る。これは絶対やぞ。ええな」

「はいっ」

「よし、ほな行って来い!」


本多はゆっくりとコートへ向かった。


「ほんちゃん!しっかり!」

「出だし1本な!」


チームメイトも、本多に檄を飛ばした。

やがてコートに着いた二人は3本練習を始めた。

ちなみに、副審には重富が着いていた。


よーし・・

徹底的に拾ってやるぜ・・

エースかなんだか知らねぇが・・

っんなもん・・関係ねぇのさ・・

こちとら・・並の心の臓じゃねぇんだぜ・・


中川は、こんなことを考えながら打っていた。

したがって、その目つきは、まさに高原由紀を彷彿とさせ、まるで獲物を狙うかのような眼光が本多に突き刺さっていた。

けれども本多は全く意に介してなかった。

なぜなら、中川の試合を観て、確実に勝てると確信していたからである。

どんなに睨もうと、なんだろうと、屁でもない、と。

そう、本多はカットマンを得意としていた。


そしてジャンケンに勝った本多はサーブを選択した。


「ラブオール」


審判が試合開始を告げた。


「1本!」


本多はサーブを出す構えをしながら声を出した。


「来やがれってんでぇ!」


中川も、本多の声を跳ね返すべく、レシーブの構えをした。

本多は中川のミドルをめがけて、上回転のかかったロングサーブを出した。

中川は、スッと右へ移動し、バックカットで返した。

ミドルへ返ったボールを、本多は打ちに行くと見せかけてストップをかけた。

中川は慌てて前へ駆け寄り、何とか拾って返した。

けれどもボールは甘く返り、少し高めに入った。

チャンスボールと見た本多は、抜群のミート打ちでバッククロスを逃げるようなスマッシュを打った。


しゃらくせぇ~~~!


中川は懸命にボールを追った。

なんとかラケットにあてた中川だったが、再びチャンスボールが返った。


打つなら打ちやがれ!

こんちきしょうめ!


中川は、フォア、バック、どちらに来てもいいように、後ろで待って構えた。


「中川さん!前!」


日置が叫んだ。

そう、日置は本多がストップをかけると読んでいた。

そして日置の読み通り、本多は絶妙なストップをかけた。

ボールはネット前にチョコンと落ちた。


一瞬ではあったが、日置のアドバイスがあったため、中川はそのボールも拾った。

そして本多は、後ろに下がりかけた中川の動きを察知し、もう一度ストップをかけた。

中川の足は一歩も動かなかった。

いや、動けなかった。


「サーよし!」


本多は大きくガッツポーズをした。


「ナイスボールや!」


中澤は、早くも興奮気味だ。


「本多、おめー、やるじゃねぇか!」


中川は、落ち込むどころか、「してやられた」ことに、発奮していた。


「どんまいだよ!」


日置が叫んだ。


「先生よ・・どんまいなんて生ぬるい言葉、響かねぇぜ」


中川は、ラケットをクルクルと回しながらそう言った。


「え・・」

「なにミスしてやがんでぇ!くれぇ言ってほしいもんだな」

「あはは」


日置は思わず笑った。


「なに笑ってやがんでぇ」

「うん。きみはそうだよね。そうだった」

「・・・」

「あんなボールくらい、拾え!」

「おうよ!」


そして中川はコートに着いた。


この子は・・ほんとにすごい・・

下手に励ますより、尻を叩けば発奮する・・

中川はそういう子なんだよ・・

だから相手が弱かったり、やる気がなければ、中川は自分を鼓舞できないんだ・・

そうか・・

花園南の桐谷との対戦の時・・

中川は桐谷を発奮させた・・

そういうことだったんだな・・


そして中川は「来やがれってんでぇ!」と大きく声を発し、レシーブの構えをした。

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