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サーよし!2  作者: たらふく
135/413

135 決勝戦で会おう




―――本部席では。



「結局、重富くんは、最近入った部員のようですね」


皆藤が言った。


「あれが部員・・」


三善は、重富のあまりの不甲斐なさに、言葉を失っていた。


「妙な座り方も歩き方も、変なポーズも、フェイクだったのですよ」

「ということは、実質、三人のチームですか・・」

「今日のところは、です」

「え・・」

「日置くんが、あのままにしておくはずがありませんよ」

「まあ、そうですね」


皆藤は当初、決勝で桐花と対戦することに期待したが、森上の不調、阿部と中川は並のレベル、重富に至っては論外。

決勝どころか、小谷田にも勝てないと読んでいた。

そして今年も、つまらない大会だと、落胆していた。



―――その頃、ロビーでは。



中川はトイレへ行き、阿部と森上は、ロビーに貼り出されている組み合わせ表を見ていた。

日置と重富は、ベンチに座って休憩をとっていた。


「先生」


重富が呼んだ。


「なに?」

「私のために、ラバーを剥させて、すみません。弁償します」

「あはは、なに言ってるの」

「え・・」

「また、貼ればいいだけだよ」

「そうなんですか?」

「うん。だから心配しなくていいよ」

「そうですか。よかったぁ~」


それから二人は、さっきの試合のことを、楽しそうに話していた。



「えっと、桐花はここやから、次は・・」


阿部は指で表をなぞっていた。


玉出たまで高校か・・。恵美ちゃん、知ってる?」

「いやぁ~、知らんわぁ」

「卓球日誌にも、玉出高校の名前はなかったし、あまり強ないんかもな」


阿部の予想は当たっていた。

玉出高校は、花園南よりはレベルは上だったが、桐花の方がはるかに上だった。


「でもぉ、油断したらあかんと思うぅ」

「そらそうや。どんな相手でも、徹底的に叩きのめす、やな」

「そやなぁ・・」


森上は、自身の不甲斐なさを気にしていた。

阿部はすぐに森上の意を悟った。


「恵美ちゃん」

「なにぃ・・」

「大丈夫やって」

「うん・・」

「とにかく、勝てばええんやし」


阿部はそう言って、森上の腕にぶら下がった。


「ほれ、恵美ちゃん、振って、振って~」

「千賀ちゃん、ほんま、これ好きやなぁ」


そして森上は阿部を前後に振ってやった。


「あはは~これ、楽しいねん」

「ほれ~ほれ~」


そんな二人を、日置は目を細めて見ていた。



―――一方で、トイレでは。



中川は個室から出て、水道の蛇口をひねった。

そして、手で水を掬い、顔をじゃぶじゃぶと洗った。

中川の隣では、三神の須藤と菅原が手を洗っていた。


「やってやるぜ・・」


中川は鏡を見ながら、独り言を呟いた。

須藤と菅原は、思わず中川を見た。

なんなんだ・・この言葉は、と。


「ぜってー優勝してやる・・」


須藤と菅原は顔を見合わせ「クスッ」と笑った。

中川は二人が笑ったことに気が付いた。


「なに笑ってやがんでぇ」

「いえ、なにも」


須藤は平然と答えた。


「むっ・・おめーら、さんかみ高校ってのか」


中川は、須藤のジャージに刻まれている「三神」の文字を見て言った。


三神さんしん高校やで」

「ほーう、三神ってのか」

「あんた、中川さんやね」

「おうよ。おめー私のこと知ってんだな」

「うん」

「三神・・三つの神ってことか・・。するってぇと、私にとっちゃ、誠さん、愛お嬢さん、高原由紀だな。いやっ・・岩清水も捨てがたい・・」


須藤と菅原は、また顔を見合わせ、唖然としていた。


「いい名前じゃねぇか!三神っ!」

「ああ・・うん、ありがとう」


須藤は、中川が面白いと思った。


「で、おめーら、勝ってんのかよ」

「え・・」


須藤は、また呆気にとられた。


「そうか・・済まねぇ」

「え・・」

「そのツラじゃ・・一回戦で負けたんだな、悪かった」

「いや・・まだ残ってるんやけど・・」

「おおっ!そうでねぇとな!私らも勝ったんだよ」

「うん、さっき観てたし」

「観てしまったのか・・いけねぇ・・いけねぇぜ」

「え・・」

「観ねぇ方がよかったな・・いやっ、もう観てしまったもんはしょうがねぇやな。おめーら、全力を尽くしな」

「うん、もちろんそのつもりやで」

「ちょっと・・須藤ちゃん」


菅原は、このやり取りに呆れていた。


「なに?」

「もう行こ」

「ああ、そやな。ほな、中川さん、決勝戦で待ってるわな」

「決勝戦!おめー、いいぜ!気に入った!」


中川は濡れた手で、須藤の肩をポーンと叩いた。

須藤は、なんら気にすることがなかった。


「そうさね、やるからにぁあ、目標は高く!おうよ!決勝戦で会おうぜ!」


須藤はニッコリと笑って、出て行った。


「ちょっと須藤ちゃん」


後に続いた菅原が呼んだ。


「なに?」

「もしかして、からかったん?」

「まさか」

「でも、中川さん、後でショック受けると思うで」

「中川さんて、レベルはまだまだやけど、向かってくるあの感じ、ええと思うで」

「え・・」

「向こうがそうなら、こっちかて、それに応えるべきやと思う」

「まあなぁ・・」

「それでショックを受けようがどうしようが、それは中川さんの問題」

「・・・」

「私は、一切手を抜くつもりもないし、実力の差を思い知らせる。それが卓球人としてのマナーや」

「相変わらず、厳しいな」

「厳しくて当たり前。試合はそう言うもんや」


中川は、まさか須藤が「影の大番長」的な、高原由紀だとは思いもしなかった。

高原由紀は、けして正体を明かすことのない、クールなキャラクターだ。

けれども向かってくる相手には、容赦なく投げナイフの洗礼を浴びせ、叩き潰すのだ。



そして桐花は二回戦も順当に勝ち抜き、小谷田戦を控えていた―――



「さて、今日の正念場の一つである、小谷田戦だけど、ここは、花園や玉出とはわけが違う」


日置はロビーで、彼女らに向けて話をしていた。


「向こうは全員が、中学からの引き抜きで入った選手ばかり」

「先生よ・・」


中川が口を開いた。


「なに?」

「そんなこたぁ関係ねぇぜ」

「うん、きみの言いたいことはわかってるけど、勝つためにはオーダーも大事だし、作戦も練らないとね」

「おう、一理あらぁな」

「これまでみたいに、ただコートに入れれば点が取れるというわけじゃない。相手は簡単にミスをしない。それはわかるよね」

「おうよ」

「まず本多ほんださん。この子は裏ペンで前陣。安達あだちさんは裏裏のカットマン。畠山はたけやまさんは裏ペンのドライブ。中原なかはらさんは、表。阿部さんと一緒だね」

「ほーう、先生のリサーチ力、すげぇな」


日置は、当然ながら、小谷田の試合も観ていた。


「それで、本多さんがエースだね」

「ほーう」

「じゃ、オーターを言うね」


そこで日置は、チラリと中川を見た。


「トップ、中川さん」

「えっ・・」

「おそらく本多さんはトップに出て来る」

「おうよ!」

「二番、森上さん」

「はいぃ」

「ダブルス、阿部さん、中川さん」

「はいっ」

「おうよ!」

「四番、阿部さん」

「はいっ」

「ラスト、重富さん」

「はい」


日置の考えはこうだ。

今の森上を本多にあてても、最悪、負けることになるかもしれない、と。

森上には、カットマンである安達と対戦させ、動きやドライブの調子を、更に戻させたかった。

一方で、中川が本多に勝てるかどうかは、やってみないとわからない。

けれども中川の、絶対に引かない性格は、トップに相応しい面もあり、勝てば否が応でもこちらが有利になる。


「いいかい。3-0で勝ちに行くからね」

「あたぼうよ!」

「はいっ!」

「重富さんは、ベンチで座って応援してね」

「いえ、あの」

「なに?」

「私、もう審判できます」

「え・・そうなの?」

「はい。玉出との試合で、もう覚えました」

「そうなんだ。じゃ、重富さんにも審判で参加してもらうね」

「わかりました!」


そして日置たちは、第5コートへ向かったのである。

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