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サーよし!2  作者: たらふく
131/413

131 愛お嬢さんを封印




「阿部さん、よく頑張ったね」


日置は拍手で阿部を迎えた。


「はいっ」

「きみ、絶好調だよ」

「ありがとうございます!」

「さて、肝心のダブルスだ」


そこで日置は中川を見た。

中川は日置の眼光を跳ね返すように見た。


「いいかい。きみたちのペアは、あくまでもにわか仕込みだ。でも、今のきみたちなら、花園には勝てる。これは、励ましてるわけでもなく、事実を言ってるだけ」

「はいっ」

「おうよ」

「だから、負けることは許さないよ」

「はいっ」

「誰に言ってやがんでぇ。負けという文字は、誠さんの辞書にはねぇのさ」

「うん。中川さん、その意気だよ。じゃ、徹底的に叩きのめしておいで」


日置は二人の肩をポンと叩いて送り出した。


「森上さん、引き続き審判だけど、ごめんね」

「いいぇ~、ほなぁ~行ってきますぅ」


そして森上もコートへ向かった。


さてさて・・中川さん・・

どんな試合を見せてくれるのかな・・


日置は二人の後姿を見ながら、ニコニコと笑っていた。



―――一方で、花園南のベンチでは。



「ええか、佐久間、長野」


浅田が二人を前にして口を開いた。


「これに負けると、もう後がない」

「はい」

「さっき見たように、阿部はかなり強い。問題は、中川や」

「はい」

「どうやらカットマンのようや」


浅田は、中川の持つラケットを見て言った。


「まずは、ツッツキで繋ごか」

「はい」

「よし、出だし1本な」

「はいっ」


比較的、佐久間は元気だったが、長野は中川より重富を気にしていた。

そしてコートに向かう際も、重富をチラチラと見ていた。


「なあ・・さくちゃん・・」


長野が佐久間を呼んだ。


「なに?」

「審判さ・・また森上さんやん・・」

「ああ・・」

「やっぱり重富さんて・・めっちゃ強いんちゃうかな・・」

「今は、重富さんのことより、ダブルスに勝つことやで」

「うん・・そうなんやけど・・」

「気にしない、気にしない」


その実、長野は日置と重富がフロアから出て行ったことも気になっていた。

なにをしに行ったんだろう、と。


そして四人は台に着き、3本練習が始まった。

中川のフォア打ちは、とてもしっかりと打てていた。

日置は「うん」と頷いた。


そしてジャンケンに勝った佐久間は、サーブを選んだ。

阿部は「こっちで」と、自分たちが立っているコートを指した。


「ラブオール」


審判が試合開始を告げた。

互いは「お願いします」と一礼した。

その際、中川は「どうぞ、お手柔らかに」と付け加えた。

けれども心の中では「おめーら、覚悟しな」と言っていた。


サーブは佐久間で、レシーブには阿部が着いた。


「中川さん、1本な」


阿部は送るコースを台の下で示しながら、中川の顔を見た。


「よろしいですわ」


中川はニッコリと微笑んだ。

佐久間は、下回転の短いサーブを出した。

阿部は、それをはたいて返した。

バックへ入ったボールに長野は対処できず、そのまま見送った。


「サーよし!」


阿部は中川を見ながらガッツポーズをした。


「よろしくてよ~」


中川は、しなを作る格好でそう言った。


「あのさ・・」


阿部は中川の傍まで行った。


「なんでぇ・・」

「そこは、サーよしでええから」

「愛お嬢さんは、サーよしなんて言わねぇぜ」

「だから・・これは試合。よろしくてよ~なんて、気が抜けるわ」

「ったくよ・・チビ助、注文が多すぎるぜ」

「ええな、サーよしやで」

「おらあ~~じゃダメなのかよ」

「あかん」

「はいはい、サーよしな」


そして佐久間は、また下回転のサーブを出した。

阿部は簡単にフォアへ素早く叩いた。

長野は何とか追いついたが、なんとも頼りない返球になった。

フワッと上がったボールに、中川は前に踏み込んだ。

そして思い切りスマッシュを打った。

ボールは佐久間のはるか横を通り過ぎ、後ろへ転がった。


「サーよし!」


二人は互いを見ながらガッツポーズをした。


「よしよし、ナイスボール!」


日置は軽く手を叩いていた。


「中川さん、ナイスボール!」


阿部が言った。


「っんなもん、朝飯前さね!」


スマッシュが決まったことで中川は興奮し、地が出てしまった。

佐久間と長野は、唖然として中川を見た。


「あっ・・ああ・・朝食前でございますわ。ごめんあそばせ。おほほ」


中川は、佐久間と長野に向けて言った。

森上は、思わず下を向いて笑っていた。


森上よ・・おめー、なに肩震わせてやがんでぇ・・

こちとら・・真剣も真剣よ・・


中川が何気に振り向くと、日置も笑いを堪えていた。

そして重富までもが、肩を震わせているではないか。


かぁ~~・・やってらんねぇぜ・・


「おい、チビ助」


中川は小声で呼んだ。


「なによ・・」


阿部も半笑いで、唇を震わせていた。


「なっ・・おめーまで笑ってやがる」

「いやっ・・ごめん」


そこで阿部は「コホンッ」と一つ咳払いをして、気を取り直した。


「あのよ、もう誠さん全開じゃダメなのかよ」

「うーん・・でもそれやと、めちゃくちゃ言いそうやしなぁ・・」

「言わねぇ、言わねぇって」

「絶対・・?」

「おうよ」

「相手の子らに、挑発するようなこととか、品を欠くようなこと言うたらアカンで」

「わかってらぁな」

「うん。それやったらええ。私かて、愛お嬢さんのままやったら、なんか調子狂うっちゅうか・・笑ろてまうしな」

「よーし、決まった」


そして阿部と中川はコートに着いた。


「1本!」


阿部は構えながらそう言った。


「おうよ!」


中川は大声でそう言った。

佐久間と長野は、思わず驚いて中川を見た。

それは浅田や、他の選手もそうだった。

なんなんだ、と。


佐久間は気を取り直してサーブを出した。

これも簡単な下回転だ。

阿部はバックの際どい所へツッツいた。

長野は、当然のようにツッツキで返した。

バックに入ったボールを、中川はツッツキで返した。

佐久間はそのボールを、またツッツキで返した。

バックに入ったボールに阿部はすぐさま回り込み、バッククロスへミート打ちを放った。

長野は成す術もなく、ボールを見送った。


「サーよし!」


二人はガッツポーズをした。


「チビ助~~!いいじゃねぇか!」

「おう!」

「あはは、おめー、絶好調だな」

「そうさね!」


そして試合は、一方的に阿部と中川ペースで進んでいった。

日置のアドバイスの必要がないくらいの出来だった。

とはいえ、相手はレベルが低すぎる。

勝って当然の相手だが、いわば、森上にしろ阿部にしろ、これが本当の意味でのデビュー戦だ。

中川に至っては、ほんとに初の試合だ。

そんな中、彼女たちは活き活きを試合をしている。

願ってもない滑り出しだと、日置は思っていた。


阿部と中川は簡単に1セット目を取り、2セット目も19-5と、大詰めを迎えていた。


「よーし、チビ助、あと2本でぇ」

「うん」

「最後まで、気を抜くんじゃねぇぜ」

「中川さんこそな」

「なに言ってやがんでぇ、命と命のやり取りだぜ?気を抜けばそこでおしまいさね」

「だから・・」


このやり取りを後ろで聞いていた浅田は、中川への「気持ち」もすっかり失せていた。

なんなんや、この中川さんは・・と。


「さあーチビ助、相手さんには気の毒だがよ、とっととやっちまいな」

「だから・・やっちまうとか、そんなんアカンて言うたやろ」

「そうか・・。じゃ、お片付けになっておしまいなさい」


阿部は半ば呆れながらも、サーブを出した。

これも上手いナックルサーブだ。

阿部はよく一人でサーブ練習をしていた。

その成果が見事に発揮されていた。

佐久間はナックルに対応できず、ボールは高く上がった。


フフフ・・また私の攻撃が欲しいのかい・・

佐久間・・おめーは「ほしがり人間」だな・・


食らえ~~!


中川は、思い切りスマッシュを打った。

ボールは長野のはるか横を通り過ぎ、後ろへ転がって行った。


「サーよし!」

「サーよしってんでぇ!」


そして最後は、阿部のサーブが決まり、2-0で完勝した。

この時点で桐花は3-0で勝利したが、試合はラストまで行う。

そして中川は、シングルも勝つべく、意気揚々とコートに向かったのである。

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