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サーよし!2  作者: たらふく
128/413

128 森上ではない森上




そして森上と佐久間は台に着いて、3本練習を始めた。

佐久間は、ペンの裏だった。

二人はラリーを続けたが、誰がどう見ても女子高生の「それ」だった。


本部席の皆藤は、まだ練習のラリーだと見ていた。

そう、森上は肩慣らしをしている、と。


「皆藤さん」


皆藤の横に座る三善が呼んだ。

皆藤の前には、試合結果を報せに来た選手が立っていた。


「・・・」

「皆藤さん」

「・・・」

「あの・・皆藤さん」


三善は皆藤の肩に触れた。


「え・・?」

「あの・・」

「なんですか?」

「いえ・・もういいです」


三善はそう言って、結果の紙を選手から受け取った。


「ああ・・すみませんね」


皆藤はそこで、ようやく気が付いた。


「皆藤さん、よほど桐花が気になるんですね」

「気になんかしてませんよ」

「ずっと3コート見てるじゃないですか」

「いえ、森上くんがなぜシングルだけなのかと、不思議に思いましてね」

「そうなんですか?」

「桐花のエースは、間違いなく森上くんのはずです。日置くん、一回戦だからですか・・」


皆藤は、日置の「妙」なオーダーのことを言った。


「それとも・・中川くんが、それほどの選手なのですか・・」


そして皆藤は、もう一つ疑問を持った。

なぜ、中川が審判なのだ、と。

阿部は次に出るからベンチでアップは当然である、と。

けれども、ここはラストの重富が審判だろう、と。


それにしても重富くんですか・・

なぜタオルを頭にかけているのでしょうか・・

しかもあの座り方です・・


重富は、両足を広げて腕を組み、いわば、ふんぞり返って座っていたのだ。

これは中川のアドバイスだった。

「とにかく偉そうに座ってろ」と。


日置くん・・注意しないのですか・・

どうもおかしい・・



―――そして3コートでは。



ジャンケンに勝った森上からのサーブだ。

ちなみに、花園南のユニフォームは、紺色のポロシャツと短パンであるが、靴下は白のハイソックスを穿いていた。

だから、なんなのだ、という話ではあるが、この時代、ハイソックスを穿いているチームは、概ね弱かった。


森上は、その場でジャンプをし、「ふぅ~・・」と深呼吸をした。

この動作をすると、森上は落ち着く気がしていた。


「1本」


森上は低い声を出し、構えに入った。

佐久間も負けじと「1本!」と返した。


森上は、相手の様子を見るため、長い下回転のサーブをバックへ出した。

佐久間はそのままツッッキで、バックへ返した。

森上は緊張しているのか、なんとツッツキで返した。

そしてバッククロスのツッツキが、何ラリーか続いた。

まるで、基本練習のようなラリーだ。


恵美ちゃん・・回り込んだ方がええで・・


阿部はアップをしながら、森上を心配そうに見ていた。

けれども日置は、全く意に介してなかった。

なぜなら、焦って打ちに出てミスをした場合、本調子ではない森上にとって、プレッシャーとなって跳ね返るからである。

このあと、いくらでも打てばいいのだ、と。

まずは、先取点をとることだ。

それはどんな形でもいい、と。


そして森上は、フォアへツッツキを送った。

すると佐久間は乱暴な打ち方で、無理にスマッシュを放ったが、ネットミスをした。


「サーよし」


森上はホッとした様子で、低い声を挙げた。


「よしよし」


日置は軽く拍手をしていた。


「恵美ちゃん~もう1本!」


阿部も声援を送った。


「どんまい!」


佐久間は思っていた。

当初は、こんな「怪物」を相手にするのかと怯みもしたが、なんだ、ツッツキしかしないじゃないか、と。

そして佐久間は、森上には勝てると踏んだ。


「どんまいやで!」


監督の浅田がそう言った。

そして森上は、また同じサーブを出した。

佐久間は、ツッツキをフォアコースへ返した。

すると森上は、なんとまた、ツッツキで返したのだ。

これはドライブを放つ絶好のチャンスボールである。


ええ~~・・嘘やん・・恵美ちゃん・・

打たんと・・


阿部は、また心配していた。

フォアへ返ってきたボールを、佐久間は打ちにいった。

けれどもまたネットミスをしたのだ。


「サーよし」


森上は、なんなく2点目を取った。


「よしよし、それでいいよ!」


日置はそう言った。

このラリーを見ていた皆藤は、唖然としていた。

日置は一体、何をやらせているんだ、と。

六月に見た森上と、別人ではないのか、と。


それは、中澤も日下部も同様であった。

なんなんだ、あれは、と。

日置とあろう者が、なにをやってるんだ、と。


そして森上は、またその場でジャンプした。


2点取ったし・・次は打ってみようかな・・

えっと・・サーブから三球目やと・・横回転がええかな・・


そして森上は、バックコースからフォアの横回転サーブを出した。

バックに入ったボールを、佐久間はラケットコントロールを見誤り、ボールは高く返った。

森上は、大して動きもせず、大きくラケットを振った。

まだ不調の森上のボールだったが、「女子」レベルのスマッシュが入った。

そしてボールは、バックストレートへ抜け、後方へ転がって行った。


「サーよし」


森上は、とりあえずスマッシュが決まったことで、更に落ち着きつつあった。


「よーーし、ナイスボール!」


日置は大きな拍手を送った。

森上は振り向いて、ニコッと笑った。

けれども皆藤も中澤も日下部も、全く納得していなかった。

なんだ、あの普通のスマッシュは、というわけだ。

そして後の2点も、森上が取ったのである。


佐久間は、いわば何もしていない森上に5点連続で取られたことで、詐欺にでもあった気がしていた。


チャンスボールは誰でも決まる・・

それはしゃあないとしても・・あとの4点は・・全部私の打ちミスやん・・


そう、佐久間は下手だったのである。

というより、花園南の選手は、並以下のチームだったのである。


「森上さん」


日置が呼んだ。

森上は黙って振り向いた。


「それでいいからね。確実に一点ずつだよ」

「はいぃ」

「無理しなくていいからね」

「はいぃ」


日置は、必ず決勝へ行くことが頭の中にあった。

そのためには、森上を負けさせるわけはいかない、と。

勝ち進んでいくうちに、必ず足の動きも良くなるはずだ、と。


その実、日置にも「きみは、こんなもんじゃない」という、ある種の葛藤があった。

本当なら、今の5点も相手のミスではなく、森上のスーパードライブが炸裂して取るはずだった点だ、と。

そこで日置は、三島の歌詞を頭に思い浮かべていた。


――だけど僕は気づいたんだ ここからまた始めようと


そうだよ・・

焦っちゃいけない・・

どんな形であれ・・勝てばいいんだ・・


その後も森上は、けして無理はせず、ラリーが続くものの、結局ミスをするのは佐久間だった。

そして1セット目は、21-9で森上が取ったのである。


「森上さん、今のでいいよ」


ベンチに下がった森上は、日置の前に立っていた。


「そうですかぁ・・」


森上は、納得していない様子だ。

それもそのはず、まるで初心者同士が互いを探り合いながら、相手のミスを待つというような内容だったからである。


「どんな形であれ、勝つことが大事」

「はいぃ・・」

「それでね、次のセットなんだけど」

「はいぃ・・」

「ミスしてもいいから、ドライブ打って行こうか」


そう、森上は1球もドライブを打ってなかったのだ。


「なんかぁ・・タイミングが合わへんのですぅ・・」

「うん、そうだよね。だから、全部じゃなくていい。まず1球、試してみようか」

「はいぃ・・」

「よし、じゃ、行っておいで」


そして日置は、森上の肩をポンと叩いた。


「恵美ちゃん、しっかりな」

「うん~わかったぁ」


三人の横で座る重富は、相変わらずふんぞり返っていた。


ど・・どうしょう・・

試合って・・どうやったらええんや・・


このように、内心は心臓が爆発しそうだったのである。

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