表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サーよし!2  作者: たらふく
109/413

109 朱花との再会




「ったく・・なんだよ、あの態度」


日置が出て行った後、中川はそうこぼした。


「先生ってよ、あんな人なのか」


中川は阿部に訊いた。


「いや・・ちゃうねん」

「なにが、ちげーんだよ」

「先生は・・これまで、恵美ちゃんや私のために、どんだけ努力してくれはったか。私は何の障害もなく練習できたけど、恵美ちゃんは家の事情とか・・慶太郎くんの誘拐とか、色々あって、殆ど練習できひんかったし・・ほんで、結局、一旦は辞めたし・・」

「ああ、事情は森上から聞いたから知ってっけどよ」

「先生は、なんとか恵美ちゃんを部に戻そうと、ほんまにしんどい思いしはったんよ・・」

「それはわかるけどよぉ」

「あのなぁ・・」


そこで森上が口を開いた。


「なんだよ」

「よちよちのコーチしてはったんもぉ・・私のためやったしぃ・・お母さんに酷いこと言われてもぉ・・先生は文句の一つも言わんとぉ。ほんで、ある時なんかぁ・・私が家出をしたと勘違いしはってぇ・・慌てて家まで来てくれはったこともあったんよぉ・・」

「うん」

「だからぁ・・さっきの先生はぁ・・虫の居所が悪かったっていうかぁ・・そもそも、私の調子が戻らへんしぃ・・色々あると思うねぇん」

「まあ、そうだけどよ」

「なあ、中川さん」


阿部が呼んだ。


「なんだよ」

「中川さんの気持ちもわかるねん。私かて、びっくりしたし。せやけど、あんまりきついこと言うん、止めた方がええと思う」

「まあ・・確かに、私もちょい、言い過ぎたと思ってるけどよ」

「先生かて、人間やもん。機嫌の悪い時かてあるって」

「おめー、物分かり良すぎだぜ」


中川はそう言って、苦笑した。


「私はさ、四月からずっと先生を見て来たからやねん」

「うん~私もぉ」


阿部と森上は、日置の真面目で誠実な人柄を知っている。

森上のいじめを解決したのも日置であったし、その後、部での自分たちに接する日置の態度は、まさに真摯そのものだった。

六月の一年生大会では、日置は高熱を出したにもかかわらず、電話連絡や、挙句には森上家にまで出向いた。

そんなこんなをずっと見てきた阿部と森上にとって、今しがたの日置の態度など、驚きはしたものの、大したことではなかったのだ。


「わかった。まあさ、私とて、先生の人間性はわかってるつもりだぜ」

「うん」

「嫌だと拒否していた芝居にも、やると決めたら一生懸命だったしよ。先生は、真っすぐな人間だぜ」

「そうやねん」

「先生、帰ったのかな」


中川はそう言って、扉を開けた。


「いねぇぜ」


中川は振り向いた。


「今日は、ええんとちゃうかな」

「私らだけで、練習、すっか」

「うん、そうしよ」


そしてこの後、三人は練習を続けたのであった。



―――一方、日置は。



職員室へ戻り、席に座っていた。


「先生、練習は?」


加賀見が帰り際に、声をかけた。


「ああ・・ちょっと、明日の準備を思い出して」


日置は授業のことを言った。


「そうなんですね。では、お先に失礼します」

「お疲れさま」


そして加賀見は職員室を後にした。


日置は、さっきの態度を後悔していた。

加えて、あの時点で、自分の感情を抑えられなかったことに不安も抱いていた。

森上は悪くない。

あの子はきっと、不調なことを誰よりも悩んでいるはずだ、と。


日置は頭ではわかっていても、この先、また同じことを繰り返すのではないか、と。

そう、自分の感情をコントロールできなくなる、と。

それはなぜなのか。


そこで日置は机の引き出しを開け、三島から貰った歌詞を取り出した。


「ねぇ僕は何を探してるの? どこへ行くの・・か」


ほんとだ・・

僕は何を探しているんだろう・・

いや・・それは最初からわかっているじゃないか・・

あの子たちを全国へ連れて行く・・

そんなこと・・わかってるじゃないか・・


日置は立ち上がって、コピー機の前に移動した。

そして歌詞の紙を印刷した。

日置は、失くした時の「保険」として、コピーしたのだ。

一枚は、引き出しに、そしてもう一枚は、家に持って帰ろうと思った。

そして日置は小屋へ戻らずに、そのまま学校を後にした。


やがて天王寺に到着した日置は、そのまま地下鉄の駅へと向かった。

その時だった。


「あら・・日置さん」


一人の女性が声をかけてきた。

日置は、その女性に見覚えがあったが、誰かはわからなかった。


「私です。朱花ですよ」


そう、その女性は『安永』という高級クラブのママだったのだ。


「ああ・・朱花さん」


朱花は出勤前だったのか、洋服を着て髪も下していたので、日置はわからなかったのだ。


「お久しぶりですね」

「はい、お久しぶりです」

「今、お帰りですか」

「ええ・・まあ・・」

「その後、彩華さんとは、どないなりました?」


日置は店に行った時、朱花に小島のことを話していた。


「おかげさまで、順調です」

「あら~、そうですか。それはよかったですね」


朱花はそう言いつつも、日置の表情に陰りを見た。


日置さん・・あの日よりも、顔色が曇ってる・・

また・・なんか悩んではるみたいやな・・

この人・・真面目やし、一人で抱え込む、典型的なタイプやし・・


朱花は職業柄、人物の心中を見抜くことに長けていた。


「日置さん」

「はい」

「もし、お時間がありましたら、私と付き合ってくださいませんか」

「え・・」


日置は、当然のように驚いた。

なにを言い出すんだ、と。


「私、これからある方との約束が控えてるんですけど、どうも二人、というのが嫌でしてね」

「どういうことですか」

「常連のお客さまなんですけど、強引に約束させられましてね」

「そんなところへ僕が行けば、余計にややこしくなるんじゃないですか」

「いえいえ、その心配はいりません。よくあることですから」

「そうなんですか・・」

「どうですか。お付き合いくださいますか」


日置は気が引けたが、このまま家に帰るのも、つまらないと思っていた。

どうせ、帰ったところで、一人で考えるのは、小島やあの子たちのことだ、と。


「わかりました」


そして日置と朱花は梅田まで出て、とある店に入った。

ここは、朱花の友人が経営するスナックだった。


「おはようさん」


まだ準備中の店には、朱花の友人である女性がいた。


「朱花、早かったね」


女性は朱花の後ろで立っている日置を見て、軽く会釈をした。

日置もそれに応えた。


球子たまこちゃん、こちら、日置さん」

「どうも、球子です、よろしく」

「日置です」


球子は、朱花と同年代に見えた。

球子はカウンターの中で、開店の準備をしている最中だった。


吉住よしずみさんな、さっき電話があって、もうすぐ来るって言うてたよ」

「そうなんや。いつも悪いな」

「あはは、なに言うてんのよ」

「日置さん、座りましょうか」


朱花は、ボックス席に座ることを促した。


「はい」


日置は戸惑いながらも、席に着いた。


「日置さんて、朱花の馴染みの方?」

「馴染み・・?」


日置はなんのことかと訊き返した。


「あほな。一度店に来ていただいたお客さまよ」


朱花はすぐに答えた。


「そうなんや。これは失礼」

「気にせんといてくださいね」


朱花は日置に優しく微笑んだ。

そして朱花は日置の隣に座った。


「吉住さんって、さっき仰ってた方ですか?」

「そうなんですよ」

「朱花、ビールでええかな」


球子が訊いた。


「日置さん、それでよろしいですか?」

「ああ・・僕はなんでも」

「ほな、球子ちゃん、それでお願いね」

「それにしても朱花さんって、和服の時と印象が全く違いますね」

「そうですか」

「とても若く見えますよ」

「あはは、お上手ですね」


「お待たせしました」


そこに、球子がビールとグラスを二つと、突き出しのつまみを運んできた。


「日置さんて、スポーツやってはるんですか」


球子が訊いた。

日置の服装は、ジャージだからである。


「はい、卓球をやってます」

「日置さんね、学校の先生なんよ」


朱花が言った。


「あらまっ、先生でしたか。これはこれは」


球子はかしこまって一礼した。


「どうぞ」


朱花はビールを注ごうとした。

日置はグラスを持って、それを受けた。


「ほな、私、奥で準備があるから」

「ありがとうね」

「先生、どうぞごゆっくり」


そして球子は、カウンターの奥へ入って行った。


「日置さん」

「はい」

「また、いつでも店にいらしてくださいね」

「ああ・・はい」

「そんな緊張せんと、リラックスしてください」

「僕、緊張してますかね」


日置は苦笑した。


カランカラン・・


そこへ、吉住という中年の男性が入って来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ