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サーよし!2  作者: たらふく
105/413

105 芝居のあと




「ああ~~、やっと終わったな」


部室で、中川がそう言った。


「みんな」


掛井が、他の者に声をかけた。

みんなは掛井に注目した。


「部員のみんな、そして卓球部のみんな、それと先生方、大変お疲れさまでした」


掛井はそう言って、頭を下げた。


「私は最初、自分の脚本で芝居をやろうと思ってましたが、中川さんが愛と誠に替えてくれて、ほんまによかったと思てます。私の本やったら、あんなに人も集まらんかったやろし、成功もしてないと思う。というか、私の脚本なんかおもろないし」


掛井はそう言って笑った。


「いや、部長さんよ」


中川が口を開いた。


「終わったら、謝ろうと思ってたんだ」

「なんで・・?」

「私は、強引に愛と誠に替えた。これは私の単なる身勝手だ。それを部長さんもだが、他の者も受け入れてくれた。ほんとに済まねぇ」

「なに言うてんのよ。おかげで芝居は大成功。それどころか二回もできた。私と木村さんはこれで最後やったし、ほんまにええ経験させてもろたと思てるんよ」

「そう言ってくれるのか。ありがてぇ」

「っていうかさ、中川さん」


木村が呼んだ。


「なんでぇ」

「その喋り方・・」


木村は笑っていた。


「なんだよ」

「せっかく早乙女愛そっくりやのに、喋り方、なんとかならんのかいな」

「こればっかりは、どうしようもねぇのさ」

「もったいないなぁ・・」

「ほんとはよ、私が誠さんを演じたかったんでぇ」

「ええ~それはないわ」


木村がそう言うと、他の者も「うんうん」と頷いていた。


「まあ、なんにせよ、芝居は大成功だよ。みんな、お疲れさま」


日置がそう言った。


「先生、月曜からしばらくは大変ですね」


加賀見が言った。


「ん?」

「誠さぁ~~ん、言うて、生徒に纏わりつかれますよ」

「ああ・・」


日置は、あさっての方を向いた。


「それにしてもよ、加賀見先生のナレーション、抜群だったぜ」

「そう?うん、そうやろ」


加賀見は嬉しそうにしていた。


「もうね、家でどれだけ練習したか。とにかく噛まないように、そして感情を込めて・・これを徹底したんよ」

「さすがだぜ!」


こうして暫くは、雑談が続いた。

どの顔も、やり遂げたという達成感に満ちていた。


「おい、重富」


中川は重富の元へ行き、小声で話しかけた。


「なに・・?」

「おめー、約束、わかってるよな」


中川は「お飾り部員」のことを言った。


「そりゃもう!」

「よし。まだ先だが、頼んだぜ」

「任しといて!」


その後、化粧をしている者は、化粧を落とし、みな、それぞれジャージに着替えた。


「ほなら、私らは舞台へ行って後片付けをします」


掛井が日置に言った。


「僕も行くよ」

「いや、先生と卓球部の子らはええです」

「どうして?」

「芝居に参加してくれただけでもありがたいのに、その上、片付けやなんて」

「おい、部長さんよ」


中川が呼んだ。


「なに?」

「今さら水臭いこと言ってんじゃねぇよ。私らも行くに決まってんだろうが」

「そうそう。私も行きます」


阿部が言った。


「私もぉ、手伝いますぅ」


森上もそう言った。


「そうか・・ありがとう。あの、先生」

「なに?」

「今後、卓球部に協力できることがありましたら、遠慮なく仰ってください。私ら、なんでもやりますので」

「ありがとう」


日置は優しく微笑んだ。


「そやな。試合の応援、行きます!」


木村が言った。


「次の試合て、いつですか?」


田沼が訊いた。


「来年の五月かな」

「ええ~~まだまだ先ですやん」

「え・・十二月に――」


重富がそこまで言うと「片付けに行くぜ!」と中川が制するように言った。

そして中川の号令で、全員で体育館へ向かった。


「おい、重富」


向かう途中、中川が呼んだ。


「なに?」

「おめー、気を付けてくれよ」

「なにを?」

「団体戦のこと、先生には内緒だって、言っただろが」

「あっ・・ああ・・そやったな。ごめん」

「いいか。ぜってー喋んじゃねぇぞ」

「うん、わかった」



―――その頃、体育館前では。



小島ら八人と大久保らは、まだ芝居の余韻に浸っていた。


「もう~~慎吾ちゃん、素敵過ぎたわ~~」


大久保は、「ワル」の日置に惚れ直していた。


「日置さんに、芝居の才能があったやなんて、どんだけ底が知れんのですか」


安住もいたく感心していた。


「確かに、でぇれぇ、かっこよかったですけぇ」

「小島ちゃん~惚れ直したんとちゃうの~」


大久保はそう言って、小島をからかった。


「いやっ・・別に、そんなことないですけど」

「あら~照れんでもええのよ~。私は惚れ直したわ~」

「そ・・そうですか・・」

「小島ちゃんから、奪おうかしら~」

「えっ・・」

「大久保さん」


安住は大久保を呼び、呆れたように首を横に振っていた。


「なによ~安住っ」

「それ、地球がひっくり返ってもないですから」

「もう~~」


大久保はそう言いながら、安住の頭を持って前後させた。

すると彼女らは「久々の首振りの刑や」と言って笑っていた。


そこへ、日置ら一行が現れた。


「きゃあ~~慎吾ちゃ~~ん」


大久保が叫んだ。


「ああっ、先生!」


小島以外の者も、思わず叫んだ。


「きみたち、来てくれてたんだね」

「慎吾ちゃん~~、もう~すっごくよかったわ~~」

「ありがとう」


演劇部の彼女らと中川は、大久保の話し方に唖然としていた。


「いやあ~~あんたが中川ちゃんね~」

「え・・」

「初めまして~大久保です~」

「ああ・・」


さすがの中川も、畳みかける大久保に戸惑っていた。


「中川ちゃん、早乙女愛、そっくりやね~。で、演技も抜群やったわよ~」

「ありがとうございます・・」

「この人は、大久保くん。で、この人が安住くんで、この人が高岡くん。彼らは桂山化学で現役の選手として活躍している人たちだよ」


日置が三人を紹介した。


「現役・・?」

「卓球の選手なの」

「へぇ・・」

「高原由紀ちゃんも~、スケバンちゃんたちも~岩清水ちゃんも~蔵王権太ちゃんも~みんなよかったわよ~~」

「ありがとうございます」


掛井が一礼した。

それに倣って、みんなが頭を下げた。


「中川ちゃん~、卓球部に入ったんやてね~」

「おうよ!」


すると、大久保らは目が点になった。


「私は、二学期になってここへ転校し、んで、卓球部に入ったんでぇ」

「・・・」

「あはは!なに驚ていんだよ!」


中川は、大久保の胸をバーンと叩いた。


「中川ちゃん・・?」

「なんでぇ」

「いや・・その話し方・・」

「私は、いつもこうなんだぜ」


すると大久保は日置を見た。


「うん、中川さんって、こうなの」

「いやあ~~あんた、面白いわあ~~」

「先生も、そう言うんだぜ」

「あはは、見た目とのギャップ、私と同じやないの~」

「ほんとだぜ!大久保さんとやら、気が合いそうだな」

「あのね、中川さん」


日置が呼んだ。


「なんだよ」

「この方たちは、僕や彼女たちにとって恩人なの。言葉遣いには気を付けて」

「ああ・・わりぃ。大久保さん、すまねぇっす」

「あはは、ええのよ~ん」


そんな中、高岡は中川に心を捉えられそうになっていたが、今しがたのやり取りで、その気持ちは一瞬にして消えていた。


「じゃ、僕たちは片付けに行くから」


日置が言った。


「ここで待ってるわ~」

「いや、いいよ」

「いや~~ん、待ちたいのよ~」

「大久保さん」


安住が小島に気を遣って、大久保の服を引っ張った。


「私らも、ここで待ってます」


小島が言った。


「そうですよ~先生、終わったら、みんなでどっか行きましょうよ~」


浅野が言った。


「そっか・・。そうだね。せっかくだし、食事でも行こうか」

「きゃあ~~さすが慎吾ちゃんやわあ~」


そしてこの後、演劇部員と加賀見も含め、一行は天王寺へ出て食事に向かったのである。




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