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サーよし!2  作者: たらふく
103/413

103 佳境




―――暗転時、客席では。



「いやあ~先生、めっちゃうまいわあ~」


蒲内が言った。


「ほんまやな。これは意外な一面を見たで」


為所が答えた。


「それにしても早乙女愛やん。なんなんよ、あれ」


井ノ下は、激似と演技の上手さを言った。


「彩華から聞いとったものの、あれほど似てるか?」


外間が言った。


「いやあ~、私、帰ったら愛と誠、読み直すわ」


杉裏がそう言うと「私にも貸して~」と岩水が杉裏の腕を掴んだ。

そこで暗転が戻った。

すると舞台上では、中川がベッドで横になっていた。


そこへ岩清水役の田沼が「トントン」と、部屋のドアをノックする仕草をした。


「早乙女くん・・眠っているんだね」


田沼はそっと中へ入る仕草をした。

そして中川の寝顔を見ながら「早乙女くん・・」と呟いた。


「こんなにやつれて・・。きみという人は、どうして太賀などを追って。どうしてそうせずにはいられないんだ。そういう僕も、きみを追わずにはいられないんだが・・」


そして田沼は、台所に見立てた長机で、料理を作り始めた。


「せめて・・食事だけはきちんと摂ってくれたまえ・・。こんな時ではあるが、僕はきみのために、こうしてシチューを作っていることに束の間の幸福を感じているんだ・・」


トントン・・


野菜を切る音が流れた。


「まっ・・誠さん!」


中川がうなされた。

そこで田沼は、愕然とする表情を見せた。


「僕は何も求めない・・あの日、僕は決めたんだ。そう、岩清水弘は早乙女愛、きみのためなら死ねる!」


ここで暗転となった。

舞台上から、慌ただしく人が移動する音が聴こえた。

その際、「先生、こっちこっち」という声も聴こえた。

客席からは、ほんの少し笑い声が挙がっていた。

そして暗転が戻った。


舞台上では日置がベットで横になり、手紙を読んでいた。

ここで加賀見のナレーションが流れた。


「早乙女愛は、こちらの手にある。これから二時間以内に来なければ、早乙女には花園実業校庭でのスペシャルリンチが待っている。高原由紀」


まだ傷も癒えぬ日置は、フラフラしながら立ち上がった。


「フフ・・愛お嬢さんよ・・願ってもない借金返済の機会を与えてくれたもんだぜ・・」


日置は輸血のことを言った。

そして日置は、鳥かごを持って、舞台の袖に引っ込んだ。

ここでまた、暗転となった。


「果し状を突きつけられた誠は、そのまま花園実業高校へ向かった。校庭に足を踏み入れた誠は、そこで飼っていた鳥を夜空へ放つ。誠が来たことを確認したスケバングルーブは誠に襲い掛かるが、誠はすぐに気絶してしまう。そこで高原は、影の校長である蔵王権太を使って誠は鉄棒に吊り下げられたのである」


加賀見のナレーションが流れた。

ここで暗転が戻った。

舞台上では、日置の上半身は裸になり、気絶している演技をしていた。


「まずは、正気にしておあげ」


掛井がそう言うと、重富はライターの火を点けたていで、日置の顔に近づけた。

そこで日置は気がついた。


「ホホホ・・お目覚めのようね」

「・・・」

「さて、これから花園スケバングループのスペシャルリンチが待っているわけだけど、一つ条件があるのよ」

「・・・」

「耐えられなくなったら、ここにいる早乙女愛と、いつでも交代を申し出てもよくてよ」

「しゃらくせぇ・・」

「あはは、強がっているのも今のうちよ。そのうち、嫌でも交代したくなるほどスペシャルリンチのおぞましさは想像もつかないだろうさ」

「ペラペラと・・さえずってんじゃねぇ」

「さあ、始めるよ!」


掛井がそう言うと、スケバングループは、包帯に見立てた紙テープをビリビリと剥した。


「あはは、ナイフの傷も癒えないまま、そこへバンドしぶきをお見舞いすれば、どうなるか。おやり!」


そしてスケバンたちは、手にしていたベルトで日置の体を叩く演技をした。


「うおおおお~~!」


日置は叫びながら、体を捩らせた。


「きゃあ~~」


観客席から悲鳴が挙がった。

そしてスケバンたちは、さらに日置を叩き続けた。


「うおおおお~~!ああああ~~!」


日置の演技は、稽古の時より数段上手くなっていた。


「いやあ~・・先生~、ほんまに叩かれてるみたいやん~・・」


蒲内は、目を覆わんばかりだ。


「先生・・うっまいなああ・・」

「痛そう~~・・」

「次は・・塩をかけられるんやで・・」

「きゃ~~・・」


「さあ、交代するとお言い!」


掛井が叫んだ。


「だ・・誰がっ・・てめぇらのようなメス豚に・・」

「浪の花!」


掛井がそう言うと、スケバンらは日置に塩を振り掛けた。


「うおっ・・うおおおおお~~!」

「どうだい、死ぬほど痛いはずだよ。さあ、交代するとお言い!」

「まっ・・誠さん!」


そこで気絶していた中川は、意識を取り戻した。


「オラオラ~、愛する騎士(ナイト)さまの醜態、とくと見な!」


スケバン役の村田と重富は、中川を押さえつけていた。


「やっ・・やめて!その人を()たないで!」


そして中川は、村田と重富の手を噛む演技をした。

村田と重富は「痛いっ!」といいながら、手を離した。

中川は立ち上がって、日置に駆け寄り、抱きついた。


そこで掛井はベルトを振りおろし、中川を打った。


「あああ・・この激痛に誠さんは・・。もういいの、交代すると言って・・誠さん・・」


そこに現れたのが森上である。


「あんたはん・・大人しゅうしときなはれぇ・・」


森上は中川を抱き上げ、床に座らせた。


「あんたはん・・由紀はんにも負けんような、べっぴんさんやなああ・・」

「浪の花、追加!」


掛井が叫び、スケバンたちはまた塩を振りかけた。

日置は、もがき苦しんだ。


「ここに、バンドしぶきとなると、地獄の閻魔さますら、根を上げるだろうよ」

「ペッ・・」


日置は掛井に唾を吐きかける演技をした。


「なにしはりまんねやぁ~~」


森上は日置を殴ろうとした。


「権!お待ち!」


すると森上の手が止まった。


「せいぜい・・今のが最後のあがきさね。そのうち、嫌でも交代すると、唾を吐いた同じ口が言わずにおれないのさ!」


掛井はさらに日置を打った。


「人間なんざ、所詮、そんなのもさ!誰よりも私が一番知ってるのさ!捨て子だった私がね!」

「ええっ・・大番長が・・捨て子だったなんて・・」


石垣がそう言った。


「そうさ!私は――」


そこで全員の動きが止まり、加賀見のナレーションが流れた。


「高原由紀は赤ん坊の頃、親に捨てられた。孤児院に引き取られた由紀は、成長するごとに反抗し、職員からの嫌がらせや暴力を受け続ける。暴力の恐ろしさが身に染みた由紀は、次第に逆らうことを止めていた。だが、そんなある日、孤児である男の子が入って来た。その子は由紀にとって、まるで騎士ナイトのような存在になっていった。ある日、男の子と由紀は院を脱走した。由紀に食べ物を盗ませようとしたところ、大人たちに見つかってしまうが、男の子は「僕は関係ない」と由紀を裏切った。その後、由紀は「投げナイフ」という力を手に入れ、由紀を見込んだ高原は、高原組の養女として引き取った。それが今の高原由紀である」


ナレーションが終わったところで、掛井が「さあ、今の告白は高くつくよ!」と狂ったように打ち続けた。


「さっさと、お言い!交代すると言うんだ!」

「うっ・・あっ・・」


日置がそう言った。


「なに?恥ずかしがらなくてもいいのよ。さあ、言ってごらん」

「てっ・・てっ・・」

「うん、なんなの?」

「てっ・・てめぇは・・孤児院を出て・・投げナイフの力を手に入れた・・ここまでは・・ある意味、俺と仲間だった・・」

「だから?」

「そんな・・てめぇは・・高原という・・餌にありつき・・肥え太った・・」

「なっ・・!」

「少なくとも・・俺はオオカミよ。一人で生き、てめぇのエサはてめぇで探した・・」

「・・・」

「てめぇは・・ブタだ。肥え太ったブタだ・・。オオカミがブタに降参すると、お天道様が西から上がるぜ・・」

「なにい~~~!」


そこで掛井は、再び狂ったように日置を打った。


「うおおおおお~~!あおおおおおお~~!」

「や・・やめて~~!誠さん!交代すると言って!」

「うるせぇ!ガタガタ騒ぐんじゃねぇよ!」


重富が中川を押さえつけた。


「さあ、言え!言うんだ!」

「おっ・・おっ・・」

「いいのよ、言ってごらんなさい」

「お・・俺は痛いと・・叫びもするし・・わめきもする・・」

「だから?」

「その度に・・お・・お優しい心とやらで・・愛お嬢様が・・泣き叫びなさる・・」

「・・・」

「恩を売りながら・・借金を返すバカはいねぇ・・」

「だから、なんなのさ!」

「俺の声が聴こえないところまで・・彼女を引き離してもらおう」


そこで掛井は愕然とし、ベルトを落とした。


「権・・降ろしておやり・・」


そして森上は、日置を降ろす演技をした。


「疲れた・・」


日置は小声で森上に言った。

森上は、気の毒そうに苦笑した。

ここで暗転となった。

そして、いよいよラストシーンだ。


「先生、ここまでは完璧だぜ」


中川は舞台の袖でそう言った。


「そう?よかった」

「後は、ラストシーンだけだ。先生、わかってるよな」

「うん・・」

「彼女が観てっけど、私は遠慮しないぜ」

「えっ・・」


日置は驚いたあと、すぐに「しーっ」と言った。


「わかってるよ。誰にも言わねぇよ」

「どうしてわかったんだよ・・」

「先生、彩ちゃんって、呟いてただろう」

「え・・そうなの?」

「小島先輩が舞台で話してた時だよ」

「そうだったんだ・・」

「先生、これ着てください」


そこに阿部が、Tシャツと学生服を持って、日置に渡した。


「ああ・・ありがとう」

「さあ、みんなラストだ!」


中川が気合の入った声を発した。

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