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サーよし!2  作者: たらふく
102/413

102 芝居は進む




「これは予想外だったな・・」


中川は思わずそう漏らした。


「先生、これ、どうします?」


掛井が訊いた。


「しばらく収まるまで待つしかないよね」


館内は、「幕を開けろ~~!」との声が飛び交っていた。


「静かに!静かにせんと、始まりませんよ!」


そこで小島がすっくと立ちあがった。

そして浅野や彼女らも全員立ち上がり「静まれ~~~!」と叫んでいた。

けれども騒ぎは収まらなかった。


「ちょっと・・これどうする?」


杉裏が誰ともなく訊いた。


「このままやと、始まらんで」


岩水もそう言った。


「よし、わかった」


小島はそう言って、舞台へ向かおうとした。


「え・・彩華、なにするんよ」


浅野が止めた。


「私が舞台に上がって説明する」

「えええ~~、それは先生らに任せたらええんちゃう?」

「いや、先生や中川さんが出てきたら、火に油を注ぐみたいなもんや」

「ああ・・まあ確かにな」

「ほな、行って来る」


そして小島は舞台に上がり、「みなさん、よく聞いてください!」と叫んだ。

すると観客は小島に注目した。


「みなさんが騒ぎ続けていると、芝居が中断されたままです。どうか、静かに鑑賞していただけませんか」

「ほんなら、早く幕を開けてよ~~!」


観客の一人がそう言った。


「だから、もう騒がないと約束してください。演劇部の子たちは、毎日、稽古を続けてきました。お願いですから、静かに鑑賞してください」

「あんた、誰やの~!」


別の者から声が挙がった。


「私はここの卒業生です。だからお願いしてるんです」


小島の「演説」を裏で聞いていた日置は、思わず「彩ちゃん・・」と呟いていた。

中川は日置の呟きを聞き逃さなかった。

そして「彩ちゃん」の正体を確かめるべく、幕からそっと顔をのぞかせた。


ああっ!あの人は、小島先輩じゃねぇか・・

そうか、そうか。

先生の彼女ってのは、あの人だったんだな・・


「みんな、静かに観ましょう!」


観客の一人がそう言った。

すると次第に拍手が起こり始めた。

そして館内は、やっと静けさを取り戻した。


「みなさん、ありがとうございます」


小島は一礼して舞台から降り、席へ戻った。



―――その頃、体育館の外では。



「ええ~~せっかく来たのに入れへんなんて~殺生やわあ~~」


遅れてやって来た大久保らは、体育館の入口で教師らに制されていた。


「大久保さん。だからもっと早く行こて、言うたやないですか」


安住が言った。


「もう、入れんのかぁ~残念じゃなあ」


高岡も残念がっていた。

そこには、大久保ら以外の大勢の来訪者も「今からでええから~入らせてくださいよ~」と訴えていた。

その中には、慶三と恵子、慶太郎もおり、『よちよち』のメンバーもいた。


「お父さん~お姉ちゃんの芝居、観られへんの~」


慶太郎は慶三を見上げていた。


「中は、満員らしいから、しゃあないな」

「残念やわあ」


恵子もそう言った。


「なあ~先生方、どうしてもあきませんの」


『よちよち』の中島が言った。


「申し訳ないですが、芝居はもう始まっておりますし、これ以上は制限しないと危険です」

「そんな~、せっかく日置先生と恵美ちゃん、観に来たのに~」


柳田がそう言った。


「そうや。入れ替えしたらどないですの」


田中が言った。


「入れ替え?」


教師が訊いた。


「二回公演にしたらどないですの」

「えぇ・・その予定はありません・・」

「予定は未定。決定やないですやん」

「そうですが・・部員たちの都合もあるかと・・」

「私もお嬢さんの意見に賛成よ~」


大久保が言った。

お嬢さんと言われた田中は、嬉しそうに大久保を見上げていた。


「先生~、こんだけ待ってる人がいてるんです~、二回やってもええんとちゃいますの~」

「そうですよ~、ぜひ、やってください~」

「そうや、そうや!」

「この際、堅いことは言いっこなしや!」


「待って、待ってください」


そこへ校長の工藤が慌てて走って来た。


「みなさん、大変、ご迷惑をお掛けしております。私は校長の工藤です」


するとこの場にいる者は、黙って工藤を見た。


「みなさんのご要望は最もであり、こちらとしてもありがたいことだと思っておりますが、今から入って頂くのは出来かねます。そこで、私が演劇部に掛け合って、二回公演のことを相談してまいりますので、今しばらくお待ちいただけないでしょうか」

「おおお~~」


みんなから声が挙がった。


「話しが決まりましたら、必ず入れ替えに致します。でも、一回で終わることもあり得ます。その時は、どうかご勘弁くださいますか」

「わかりました~~!」


そして校長は、体育館の裏口へ向かった。



―――一方で、館内では。



「大変お待たせいたしました。それでは愛と誠の続きを、どうぞお楽しみください」


加賀見が放送をかけた。

そして館内は、幕が上がり拍手に包まれた。

『チーム中川』は、相談の結果、ガムコのシーンは割愛し、舞台には日置と中川が向かい合って立っていた。


「これはこれは・・愛お嬢さんよ。この悪の花園へ来るとは、物好きにもほどがあらぁな」

「誠さん・・早速、あのような酷いことをしてしまったのね・・」

「酷いだと?こちとら、気持ちよくスヤスヤと眠っていたところを襲われたのは俺なんだぜ?」

「誠さん・・どうして問題を起こそうとするの・・。私は誠さんがそうするたびに、生きた心地がしないの・・」

「だったら、とっととけぇりな。ここはおめーさんが耐えられるような楽園じゃねぇぜ」

「それでも私は・・誠さんを心配せずにはいられないの・・。帰るくらいなら・・来たりしないわ・・」

「愛お嬢さんよ、お喋りが過ぎたようだな」

「え・・」

「後ろを見てみな」


中川の後ろには、スケバングループが迫っていた。


「あっ・・」

「こっちへ来な」


日置は中川に自分の後ろへ回るよう言った。

そして中川は、日置の後ろへ回った。


「てめーら、性懲りもなく、俺様を襲おうってわけかい」

「あはは!あたいらに襲われる方がよっぽどマシだと、そのうち死ぬほど後悔するだろうさ!」

「どういうこった」

「あたいらの大番長が、じきじきに料理するって言ってんのさ!」

「大番長?」

「この悪の花園にはさ、大番長がいらっしゃるのさ。けして表には出ないお人さ」

「もったいぶりやがって、何様よ」

「フフフ・・フフ・・あははは!」


そこでスケバングループは、全員で大笑いをした。


「とうとう狂いやがったか」

「だから、あんたに手出しはできねぇのさ」

「けっ、笑わせやがる」

「せいぜい、粋がってるのも、今のうちさね」


そう言い残して、スケバングループは、袖に入って行った。


「誠さん、お願いだから、バカな真似はしないで」

「お嬢さんは、すっこんでな」

「挑発に乗ってはいけなくってよ。きっと恐ろしい目に遭うと思うの・・」

「てめぇは、とっととここを去るこった。でないと、地獄を見るぜ」

「誠さん・・どうしていつも火の中に飛び込もうとするの・・」

「てめぇには、関係のねぇこった!」


そしてここで暗転となった。


「早乙女愛は、太賀誠の身を案ずるも、事態は悪い方へと進んで行くばかりだ。そんな中、愛は、ある女生徒と校庭で出会うのであった」


加賀見のナレーションが入った。

そして暗転が戻った。


掛井は、校庭の木に寄りかかり、読書をしていた。


「あら・・こんな学園にも、あんな方がいらっしゃるんだわ・・。ツルゲーネフの『初恋』を・・」


そして中川は、掛井に近寄った。


「あの・・」

「なにかしら?」

「読書の邪魔をして、申し訳ないのですが・・」

「いいのよ。これはもう何度も読んでるの」


掛井はそう言って本を閉じた。


「ツルゲーネフの初恋ですのね。私も読んだことがあります」

「あら、話せるわ」

「私、早乙女愛と申します」

「高原由紀です。よろしく」

「あっ・・あの・・高原さんのような方に、こんなことを聞くのはとても気が引けるのだけれど・・」

「なんでも仰って」

「その・・影の大番長って・・誰かご存じないかしら」

「あら・・早乙女さん。あなたのような清純な人が、大番長なんて言葉を口走るのは、相応しくなくってよ」

「でも・・でもっ・・その大番長が、誠さんの命を狙っているんです。だからご存じなら教えて頂けませんか・・」

「さあ?私は知らないけど、噂によると、とても冷血で、特に太賀誠のような粋がった人間は、最も嫌いらしいわ」

「そ・・そんな・・」

「きっと、これまで以上に酷い目に遭わされるでしょうね」

「・・・」

「早乙女さん。またお話できること、楽しみにしているわ」


そして掛井は舞台袖に引っ込んだ。

中川は、客席の方へ向いた。


「誠さん・・私はきっとあなたを守って見せます。かつてあなたが命懸けで私を救ってくれたように」


そしてここで暗転となった。


「それから早乙女愛は、ある偶然がきっかけで影の大番長の正体が高原由紀だと知る。愛は誠への刃を自分へ向けさせるため、衆目の中、高原に平手打ちを食らわすが、愛の意図を読んでいた高原には通じなかった。愛は父親の交通事故の後、警察署から出る時、誘拐されてしまう。密かに後をつけた誠は、やがて橋のたもとへ到着し、とうとう、誠と高原の対決の時を迎えるのであった」


加賀見のナレーションが入り、暗転が戻った。

舞台上では、日置とスケバングルーブが向かい合って立っていた。


「てめぇら、大番長が誰なのか、言いやがれ!」


日置は、スケバングルーブの一人一人に、殴る蹴るで痛めつけた。


「怖いのかい?」


木村がほくそ笑んだ。


「うるせぇ!とっとと言いやがれ!」

「誠さん!もうやめて!私が言います!」

「その必要はなくてよ」


そこへ掛井が現れた。


「私がその大番長」

「くっ・・てめぇだったのか・・」

「お願い、誠さん、逃げて!」


中川は日置の腕を掴んだ。


「うるせぇ!黙ってろ!」

「ナイフは、あの書物の中よ!誠さんが高原さんを襲う前に、あなたにナイフが突き刺さってよ!」

「ほーう、愛お嬢さんは既に知ってなさる、と」

「だからお願い、逃げて!」

「フフフ・・大番長のナイフから逃げられるとでも思ってるのかい」


大川が言った。


「うるせぇ!逃げるのはそっちでぇ!そのべっひんさんの顔をドブスに変え、どぶ川の水をたらふく飲ませてやらぁ!」

「誠さん・・今の私にできることといえば・・こうするしかないわ!」


そこで中川は日置の体に抱きついた。

すると館内は、思わず「きゃあ~~」と言う声が挙がった。


「どきやがれぇ!」


日置は中川を押しのけて、掛井に向かって走って行った。

ここでまた暗転となり、加賀見のナレーションが入った。


「その後、誠は高原の投げナイフに瀕死の重傷を負わされたが、愛が誠を町の医院へ運び、その際、輸血をして命はとりとめた。けれども、高原も誠に負傷を負わされ、さらに事態は愛の望まない方へ進むのであった」―――

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