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サーよし!2  作者: たらふく
100/413

100 絶対に成功させる




―――そして文化祭当日。



桐花学園には、朝から大勢の人が訪れていた。

在校生は無論、その家族や友人、近隣の住民や他校からの来訪者も多く見られた。


文化祭で活躍するのは、やはり文化部だ。

華道部、茶道部、書道部は、各教室で実演や、来訪者に参加もさせていた。

写真部は教室で展示を行っていた。

家庭科部は、教室で「喫茶店」を開き、サンドウィッチなど軽食も出していた。

そして実行委員会は、自ら「お化け屋敷」を催し、教室の前では物珍しさに人でごった返していた―――



そんな中『チーム中川』は、部室で最後の打ち合わせをしていた。


「上演は午後一時から。したがって、それまでに昼飯を摂ることな」


中川がみんなに説明をした。


「おい、森上」


中川が呼んだ。


「なにぃ」

「おめー、昼飯な、たらふく食うんじゃねぇぞ」

「え・・」

「セリフの途中でゲップが出たらどうすんだよ」

「ああ~、なるほどぉ」


そこでみんなは「ククク」と笑った。


「他の者も同じだ。飯は軽く。終わったら好きなだけ食ってくれ」


みんなは「うん」と頷いた。


ガラガラ・・


部室の扉が開き、そこへ日置と加賀見が入って来た。


「遅れてごめん」


日置がそう言うと「座ってくれ」と中川が促した。

そして二人は空いている席に、並んで座った。


「先生らも、昼飯は軽く食うことな」

「なんでなん?」


加賀見が訊いた。


「特に!加賀見先生。先生は食わなくてもいいくらいだぜ」

「ええ~なんでなんよ」

「先生は、ナレーション担当だ。途中でゲップでもしてみろ。目も当てられねぇぜ」

「そんなん、大丈夫やよ」

「ダメだ。とかく生理現象は、緊張すればするほど出るもんだ。ぜってーゲップはご法度だからな」

「厳しいですね・・」


日置は小声で加賀見に言った。


「ほんまですね・・」

「先生よ、なにコソコソ言ってやがんでぇ」

「いやっ・・なにも」


日置が答えた。


「それじゃ、正午にここへ集合な。一旦、解散!」


中川がそう言うと、みんな立ち上がって部室から出て行った。


「恵美ちゃん、お化け屋敷行く?」


部室を出たところで、阿部が森上に声をかけた。


「お化け屋敷かぁ~ええなぁ」

「あれ?中川さんは?」


中川はまだ部室にいた。


「中川さん」


阿部が呼んだ。


「なんだよ」


中川は台本を手にしていた。


「お化け屋敷、行かへん?」

「私はいい。おめーらで行ってくれ」

「え・・ここにいてんの?」

「そうだ」

「せっかくやのに、校内回ろうや」

「いや、私はこの後、舞台へ行く」

「え・・」

「見落としがないか、それと小道具の確認だ」

「そ・・そうなんや・・」

「だから、私のことは気にしなくていい。おめーら楽しんで来な」


中川はそう言って、また台本に目を通していた。


「恵美ちゃん・・どうする?」


阿部は小声で言った。


「なんかぁ・・中川さんに悪いなぁ・・」


そして二人は、しばらく互いを見たまま考え込んでいた。


「なぁ・・恵美ちゃん」

「なにぃ・・」

「台本、もっかい確認しよか」

「うん~それがええと思うぅ」


そして二人は部室に戻った。


「おめーら、なにやってんだよ」

「台本、もっかい確認するねん」

「私もぉ、そうするぅ」


二人は席に座った。


「いいって。構わねぇから行きな」


それでも二人は台本を開いて、セリフの確認をしていた。


「ったくよ、しょうがねぇやつらだな」


中川はそう言いながらも、どこか嬉しそうにしていた。

そして三人は、この後、舞台へ行き、小道具の確認も終えた。

その際、舞台ではダンス部が演技を披露していた。

客席は、それほど埋まっておらず、中川はある考えを巡らせていた。


「美術室へ行くぞ」


体育館を出たところで中川が言った。


「なんで?」

「この芝居は、ぜってー成功させる。そのためには客席を満杯にしなきゃいけねぇ」

「うん」

「見ただろ。半分も埋まってなかったぜ」

「そやけど・・なんで美術室なん?」

「校門に貼り出すんだよ」

「なにを?」

「芝居の宣伝さね」

「ああ・・なるほど」


三人が校庭を歩いていると、来客者が中川に注目するようになっていた。

なんだ、この美少女は、と。


「ああ・・いけねぇ」


そこで中川は校舎へ向かって、一目散に走った。

その後を、阿部と森上も続いた。

校舎内にも来客者は大勢いた。

中川は顔を隠しながら、美術室へ向かった。


幸い、美術室は使用されておらず、美術部の絵の展示は、別の教室で行われていた。

中川は大きな模造紙を広げて「本日、午後一時より『愛と誠』を上演します。みなさま、奮ってご鑑賞ください」と書いた。


「よーし。おめーら済まねぇが、これを校門に貼り出してきてくれ」

「中川さんは、行かへんの?」

「なるべく、顔を見られたくねぇんだよ」

「ああ・・なるほど」


阿部はすぐに、中川の意を察した。

誰がどう見ても、早乙女愛そのものの中川だ。

上演前に「ネタばらし」など、タブーだと。


「わかった」

「で、私は部室に戻ってるからな」

「ああ、そうか」

「なんだよ」

「中川さんが校内を見て回らんてこと」

「は?」

「早乙女愛を、ばらしたくなかったんやな」

「いや、特にそう言うわけでもねぇさ」


中川はそう言いながらも、確かにその意もあった。

そして阿部と森上は校門へ、中川は部室へ戻ったのである―――



校門の前では早速、宣伝効果が表れていた。


「えええ~~愛と誠やて!」

「私、大好きやねん~太賀誠、誰が演じるんやろう」

「でもここ、女子高やん?女子が演じるんとちゃう?」

「誠はなんとか女子がやったとしても、さすがに早乙女愛は、誰にも無理やろな」

「ああ~・・確かに。普通の子やったら、幻滅やなあ」

「でも、観る価値はあるで。えっと・・一時からやな。早めに他回って、席をとらなな」


と、このように来客者の女子グループは、大いに盛り上がっていた。

この会話を聞いた阿部と森上は、互いを見ながら「フフフ」と笑った。

そう、幕が開いた時の、観客の驚きようが目に浮かんだからだ。


「せやけど、中川さんて、ほんま機転が利くというか、この宣伝かて、すぐに思いついたもんな」

「ほんまやなぁ・・中川さんて、賢いよなぁ」

「あはは」


そこで阿部が突然、笑い声を挙げた。


「千賀ちゃん~どうしたぁん」

「だってな、私ら卓球部やん。頑張ってるん、卓球部やん」

「ああ~ほんまやなぁ」


森上も「あはは」と笑った。


「ああ~阿部さん、森上さん」


そこへ小島ら八人が姿を現した。


「ああ~先輩!」


阿部は一礼した。


「先輩ぃ~来てくれはったんですねぇ」


森上も一礼した。


「愛と誠、観に来たんやで」


小島が言った。


「そうそう、先生の太賀誠、めっちゃ楽しみや」

「ほんまや~、あの先生が芝居て」

「写真も~バッチリ撮るで~」

「あんたらも出るんやな?」


浅野が訊いた。


「はい~、私はガムコで、恵美ちゃんは蔵王権太です」

「いやあ~~森上さんが蔵王権太。ええがなっ!」


外間が言った。


「一時からですので、早めに席を確保した方がええと思います」

「うん、わかった」


そして八人は、中へ入って行った。


「あの・・」


そこへ数人の女子グループが阿部らに声をかけてきた。


「はい」

「この公演て、予約とか必要なんですか」

「いや、予約はありません」

「ほなら、席をとるんは早い者勝ちってことですか」

「そうです」


すると女子たちは顔を見合わせて、「椅子に荷物、置きに行こ!」と体育館へ向かった。


阿部は思った。

当初、掛井が考えた脚本で上演してたとすれば、これほどの反響があっただろうか、と。

中川は、『愛と誠』が好きすぎての提案だったにせよ、中川の判断は正しかったのだ、と。


そして二人は、その後も校門に立ち「愛と誠を上演しますよ~」と、来訪者に声をかけていたのだった。

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