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サーよし!2  作者: たらふく
10/413

10 仰天する大久保と安住




―――「事件」から三日後の夜、日置と大久保と安住は、天王寺の居酒屋にいた。



「っんもう~慎吾ちゃん~。金曜日、断るて、どないよ~」


大久保は、日置が誘いを断ったことを言った。


「ごめんごめん。だから今日は僕から誘ったでしょ」

「そうよ~、もう会社に電話がかかって来て~びっくりしたわ~」

「僕も、何事かと思いましたよ」


三人は、四人掛けのテーブルに座り、大久保と安住が並んで座っていた。


「ああっ、それにしても、慎吾ちゃん、結婚式はどないなってんの~」

「うん、そのことなんだけどね」


虎太郎と宗介・・驚くだろうな・・


日置は、事実を打ち明けるのが、少し楽しみでもあった。


「慎吾ちゃん、なに笑ろてんのよ~」

「え・・僕、笑ってる?」

「っんもう~なによ~嬉しそうにぃ~。憎たらしいんやからあ~」

「日置さん、よっぽど嬉しいんですね」


安住は、貴理子との結婚のことを言った。


「んで~いつなんよ~」

「実はね、結婚は破談になったの」

「ええええ~~!」


二人は同時に驚きの声を挙げた。


「ううん・・わかる・・わかるわ~慎吾ちゃん」

「なにが?」

「私はええのよ。所詮、結婚できひんのやし、こればっかりは仕方がないんよ~。せやけど相手のお嬢さんに悪いわぁ」

「え・・」

「大久保さん、なに言うてるんですか」

「慎吾ちゃん・・私のために破談やなんて・・。私って、なんて罪な女やの」


日置は笑っていた。


「大久保さん、突っ込むところ多すぎますけど、とりあえず大久保さん、女ちゃいますし」

「安住っ!あんた、うるさいねん!」

「違うんだよ、虎太郎」

「なにが違うの~」

「破談になったのは、僕がフラれたの」

「ええっ!慎吾ちゃん・・フラれたん・・?」

「嘘でしょ・・」


さすがの大久保と安住も、日置の言葉に唖然としていた。


「だから、結婚もなし」

「いっやあ~~そうやったんやね~良かったわあ~~」

「大久保さん!ええことないでしょ!」

「ああ・・ごめんね~慎吾ちゃん」

「いいんだよ」


日置はニッコリと笑った。


「それでね、僕、好きな人がいるんだ」

「えっ・・ダメよ・・そんな。ほら、周りにもたくさん人がいてるわ・・」


大久保は、店の中を見回した。

日置は、また笑っていた。


「大久保さんの頭の中、どないなってるんですか。都合、良すぎでしょ」

「その人ね、誰だと思う?」

「いやっ、慎吾ちゃん、本人を目の前にして、それは野暮ってものよ~」

「で、誰なんですか」


安住は、大久保を無視して訊いた。


「小島なんだよ」


日置がそう言うと、二人は時間が止まったかのように、口をポッカーンと開けていた。


「こ・・小島さんて・・僕の知ってる小島さん・・ですか・・」


安住は何とか口を開いた。


「そうだよ」

「そ・・そうやったんですか・・」


大久保は思った。

これでもう、高岡の恋は終わった、と。

相手が日置なら、到底敵うはずがない、と。


「ねぇ・・慎吾ちゃん」

「なに?」

「慎吾ちゃんの気持ち・・小島ちゃんは知ってるの?」

「うん」

「へ・・へぇ・・」

「っていうか、僕たち付き合ってるの」

「ぐういええええええ~~!」


また二人は同時に声を挙げた。

大久保は驚きすぎて、椅子から転げ落ちた。

その際、他の客は何事かと日置らの席に注目した。


「ほらほら、大久保さん」


安住は他の客に「何でもないですから」と言いながら、大久保を椅子に座らせた。


「つ・・付き合ってるて・・いつから?」


大久保が訊いた。


「小島が卒業してすぐだよ」

「えっ・・ということは・・在学中から好きやったってこと・・?」

「ああ・・まあね」

「いやっ、もう~~慎吾ちゃん、卒業まで我慢してたんやね~」

「我慢・・というか。まあ、そうなるかな」

「え・・卒業してすぐということは、小島さんも日置さんのこと好きやったってことですか?」


安住が訊いた。


「まあ・・そうかな」

「ひゃあ~~!まさか二人がそうやったとは。これは久々に驚きました」

「そういうことだから。これからも小島やあの子たち、頼みます」


日置はそう言って頭を下げた。


「小島ちゃんなら仕方がないわ~、あの子、ええ子やもんね~。ここは私は身を引くしかないわ~」

「ごめんね、虎太郎」

「え・・」

「僕が女だったら、きっと虎太郎を好きになってるよ」

「慎吾ちゃん・・」


大久保は、日置の思いやりが嬉しくてたまらなかった。

そして、切なくもあった。


「さあさあ、もっと飲みますよ~!日置さんと小島さんの将来を祝して!」


安住はそう言いながら、ビールグラスを高く挙げた。

そして三人は「乾杯~」と言いながら、ゴクゴクと流し込んだ。



―――翌日、桂山化学の体育館では。



「坊や~」


練習前、大久保が高岡を呼んだ。


「なんですか」

「あんたな、もう小島ちゃんのことは諦め」

「え・・いきなり・・なに、言よんですか・・」

「小島ちゃんな、慎吾ちゃんと付き合ってるんよ」

「えっ・・」


高岡は、一瞬驚いたが、直ぐに納得していた。


「やっぱり・・そうじゃったんですか・・」

「やっぱりって?」

「いや・・わし、前からそうじゃと思うとりました」

「ああ~坊や、確かそんなこと言うてたことあったな~」

「じゃけど、よう日置監督の心を射止めましたね、小島さん」

「あんたさ、あんたかて小島ちゃんのこと好きやんかいさ。それやったら、慎吾ちゃんの気持ちかて、わかるやろ」

「ああ~確かにそうですけぇ」

「そういうことやからな、一日もはよ小島ちゃんのことは忘れて、次よ~次」

「次って?」

「っんもう~、彼女を見つけるんやんかいさ~」

「そんな・・すぐには気持ちが着いて行けませんけぇ」

「まったく~若い身空ひばりがなに言うてんのよ~」

「は・・?」

「ダジャレ、ダジャレやんかいさ~」

「意味がわからんです」

「若い身空て、知らんのか~」

「ああ・・そういうことですか」

「まったく・・あんたもなんば花月連れて行かな、どないもしゃあないな」


高岡は、大久保が心配するほど落ち込んではいなかった。

なぜなら、小島が好きな人というのは、日置だと、とっくにわかっていたからである。

そんな高岡は、相手が悪過ぎる、と諦めつつあったのだ。



―――この日の練習後。



彼女らは更衣室で着替えていた。


「なあ、私、思うんやけどな」


小島が口を開いた。


「なに?」


為所が答えた。


「女子て、監督いてへんやん?」

「ああ~、でも、男子かて、監督いてへんで」


男子卓球部には、臼井という名ばかりの監督がいた。

けれども臼井は卓球経験もさほどなく、練習も試合も主将の遠藤にすべて任せていた。


「遠藤さんは、いわば選手兼監督やん?」

「そやな」

「だから、成立してると思うんやけど、女子はなあ」

「彩華がいてるやん」


岩水が言った。


「いや、私は監督なんて器やない」

「せやけどさ、監督いうたかて、誰かいてる?」


杉裏が言った。


「そこやん」

「私がなる~」


蒲内が手を挙げた。


「あはは、蒲ちゃん、なんでやねんっ」


外間が突っ込んだ。


「監督かあ・・」


井ノ下がそう言うと、誰しもの頭の中には日置の顔が浮かんでいた。


「先生は、あかんで」


小島が言った。


「そういや、その、森上さんやったっけ?机、蹴飛ばしたんやてな」


浅野が訊いた。


「そやねん。森上さん、偉いわ。ようやった」

「そやけど、酷いいじめするもんやなあ」


杉裏が言った。


「でも、なくなったんやろ?」


岩水が訊いた。


「うん。ほんで森上さん、クラスでも話しするようになったって」

「その子、一回、見てみたいわ。先生が認めるいうたら、相当やで」


為所が言った。


「そのためには、卓球部に入ってくれんことにはな」

「そやなあ~、入ってくれたらええのになあ」

「それよりさ・・彩華・・」


外間が呼んだ。


「なに?」

「先生と・・どこまでいってんの・・」


外間は、興味津々に訊ねた。


「どこまでて・・なによ・・それ」

「隠さんでもええやん~」

「そやそや、教えてぇなあ」

「手は・・繋いだ?」

「キスした?」

「まさか・・もう最後まで・・」


彼女らは、矢継ぎ早に訊いた。

彼女らの年齢では、興味が湧くのは当然である。

ましてや相手は日置なのだ。


「なっ・・なんもしてへん!」


小島は顔を真っ赤にしながら、そう言った。


「ええ~彩華~手も繋いでへんの~」


蒲内が訊いた。


「つ・・繋いでへん!」

「先生~なんでなんやろ~好きやったら~繋ぎたいと思うよ~」

「そうやで。もう教師と生徒とちゃうねんからな」

「大人の男女・・」

「いやあ~意味深~」

「きゃ~~」


彼女らは、勝手に想像を膨らまして騒いでいた。


この子らには・・絶対にほんまのことは言われへん・・

あかん・・あかん・・


こんな風に思う小島であった。

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