目が覚めたら友達が女になった
「もしもし・・・颯太?」
「なんだ?日曜日の朝から電話かけてきて、お前がこの時間に起きてるのも珍しいな」
「突然電話してごめんね・・・あのさ、前の病院での検査でさ、お医者さんに君は殆どの確率で男になるよって言われたっていう話をしたと思うんだけどさぁ」
「ああ、そんなこと言ってたな。後半年ぐらいだとかも言ってなかったか?ていうか大丈夫か?、そんな背も低いまま性別固定されたらちょっとした力仕事したらバテそうだぜ」
「いやぁ、それがねえ。・・・男になるっていう話ね、それ無しになっちゃった」
「・・・は?」
「僕、女の子になっちゃった、かも?」
「・・・はぁ!?」
どういう事だ?今まで男になると思っていたアイツが女になった?・・・待て待て待て、検査の反応は男だったって前々からアイツは言ってたし意味わからん、頭がこんがらがってきた。ドッキリか?いやでもドッキリだとしても朝弱いこいつがこんな朝早く、そしてこんな意味わからんどっきり仕掛けてくるとは思えん。
「・・・今からそっちに行くわ」
「・・・へ?」
「今からお前の家に行くわ、確認しないと信じられん」
「え、ちょっと待ってまだ心の準備が」
電話を切る、まだ朝ごはんを食べていないがそれどころじゃない。適当に服を取り急いで着替えて自分の部屋を出て階段を降りそのまま玄関へと向かう。今すぐアイツの家に向かって確かめたい。冗談じゃないのか?
「母さん!今出掛けてくる!」
「え?!こんな朝からご飯も食べないでどこ行くの?!」
返答を返す余裕もないまま急いで靴を履いて玄関のドアを開ける。アイツの家は歩きで10分程度、すぐに着く。だけど今はそんな時間使うより早く確認したい気持ちが強く、普段ではアイツの家に遊びに行くときになんて滅多に使わない自転車を引っ張り出してそのまま乗って漕ぐ。
季節は春、春休みの終盤に入り、もうすぐで学校が始まると言ったところ。とても寒かった冬を越え、桜がちらほらと咲いたというニュースが流れるくらいには暖かくなった頃。普段なら過ごしやすいこの気温も、今必死に自転車を漕いでいるこの状態では暑いぐらいだ。だがその甲斐あってか、わずか3分程度でもうアイツの家の前だ。
自転車をアイツの家の前に止めて、食らいつくようにインターホンを鳴らす。「はーい」という間延びした声が聞こえ、その数秒後にドアが空いた。
「どなたですか〜?・・・あら、颯太くん?どうしたの?」
「アイツ、 詠は居ますか!?」
「あら?ええ、今自分の部屋にいると思うけど。どうかしたの?」
「詠がどうにかなったんです!」
「え?」
「すいません、上がります!」
「あ、どうぞ上がって?」
いつも来すぎてもう慣れてしまった玄関で靴を急ぎながら出来るだけ丁寧に揃え、そのまま急いで2階へ。ドアに詠の部屋、そしてただいまお休み中と書かれているボードがかけられている部屋へと一直線に進む。ドアの前に着き、あまりうるさくならないように、かつ速度をつけてノックを連続でする。
「おい、詠!開けていいか?」
「ちょ、ちょっと待って、まだ服整えてない。もう少し待ってて」
「・・・分かった」
詠が言った通りに壁に背を預けながら待つ。・・・落ち着こう、朝の衝撃と全力の自転車ダッシュによってかなり落ち着きがない状態だ、深呼吸をしよう。・・・ふう、少し落ち着いた、落ち着いたが、そのせいで改めて朝の電話で言われたことを思い出してしまう。
ドアの向こうではトタパタと慌てた様子の音と、布が擦れる音が聞こえてくる。女の子になった?今の詠はどんな姿になっているんだ?今思えば電話越しで最初は分からなかったが声がいつもより高かったような気がする。声も変わったのか?・・・いつも男友達として接してきた詠が女の子になった。じゃあ、今後どう接すればいいのだろう?そんな思考が延々と繰り返されている、その時
「・・・入っていいよ」
部屋に入る許可が出た。俺は壁からゆっくりと背中を離し、そのままドアノブに手をかける。
「入るぞ」
「・・・うん」
そう言いつつ数瞬開けるのを戸惑ったが、それ以上に詠の姿が見てみたいという欲求に負け少しずつ、ドアを開けた。
完全にドアが開き、見えたのは・・・
「おはよう・・・颯太」
背は小さく、綺麗なピンクの髪を腰まで伸ばしていて、俺の知らない、しかし雰囲気にどこか見覚えがある可愛い女の子が、俺の目を綺麗な空色の目で見つめながら、少し困った表情を浮かべながらそこに居た。