30.白衣
「おーい、みんないるかー?」
ハスィが部室に居座ってから十五分ほどして、奥の部屋からツキノワ先生がやってきた。
「シバヤシ君以外はみんないますが……。」
「ン……そうか。突然だが、みんなにプレゼントを持ってきてやったぞ!」
相変わらずテンションが高い先生は、一人一人に何やら白い布を配っていく。
「これは……白衣?」
折りたたまれた状態から広げてみると、なんと新品の真新しい白衣だった。
「往々にして、理系の研究者というモノは、白衣を着ているイメージが強いからな。まあ、雰囲気を出すために、よかったら着てくれたまえ。」
「ああ……ありがとうございます。」
ツキノワ先生のシミだらけな白衣姿は見慣れたモノだが。自分が着ると違和感がありすぎて少し恥ずかしい。
(まあ、部屋の中で着る分にはいいか)
着心地を確かめて、丁寧に畳んでテーブルに置いておく。
まだ残暑も厳しく、こんな暑苦しい格好で歩き回る気になれない。
しかし、ハスィの方はかなり気に入った様子。
「これは、クラスTシャツを隠せる……。それに、仮装したことにもなる。」
なるほど、なんだか哀しい理由だ。
「喜んでくれたかなァ?」
「はい、ありがとうございます。大切にします。」
これからも着るのかな。
ハスィは、暫く鏡の前で自分をねめまわしてから、満足げな表情を浮かべて部室を出て行った。
「ああいう所を見ると、案外単純なのよね。彼女は……。」
「何を、わかったようなことを……。」
「そう……高校生にしては、ちょっと変わった関係ね。」
「ひねくれ者同士の不思議な関係性さ。」
エチルは腕を組んだまま、顎で廊下の方を指している。
「ねえ、キバ君。まだ時間に余裕あるんでしょ?」
「俺は姐チャンと話し込む気は無いぜ。特に、ハスィに関してはな。」
「じゃあ、せめて理由は聞かせて頂戴。私は、もうキバ君とハスィのことでモヤモヤするのは嫌なの。キバ君の不可解な行動とか、ハスィの論理を気にせずに、私なりにどっしりと人間関係を構えていきたいの。」
そちらが勝手に掻きまわしておきながら、何を都合のいい……。
思わず眉をしかめてしまうが、ここで感情を言ってしまうと、また話がややこしくなる。
「俺が今後『人と』付き合っていく上での考え方がまとまったから。それで何か気持ち悪い余裕さが出ちゃったんだと思う。」
「『ハスィ』ではなくて?」
「いや、人だ。」
それから約三分ほど、二人は沈黙をもって睨みあった。
俺は必死に緊張しないフリをしていたが、やはりエチルの肝の座り方には勝てない気がした。
「まあ……いいわ。私は、ハスィとその周りの人たちが健全に共存できる状況を望んでいるの。そのことを理解はしてくれる?」
「ああ、理解する。尊重する。」
……………………………………。
エチルは不気味な笑みを浮かべて、部室を出て行った。
(カサンドラ奴……)
俺はそうエチルとの軋轢を強く意識しながら、額に浮かんだ気味の悪い汗を白衣で拭った。




