2.そこは未来都市?
異世界転移……、俗に云う中世ヨーロッパ風の世界観であり、科学技術なんて野暮なモノに頼らない、空気のおいしい場所だと、勝手に思い込んでいた。
レンガ作りの建物が立ち並び、大通りと呼ばれる場所には、整然と加工された石畳の往来を、馬車や様々な種族達が行き交っていて……。
もうちょっと妄想を続けさせてください。
高い塀でぐるりと囲まれた人里から出てしまうと、なんちゃらデビルやファンタジー味溢れた、恐ろしい形相をしたモンスターがうじゃうじゃと。
しかし、勇敢な勇者……いや、冒険者。ともかく!設定はどうでもいいにして!信頼出来る仲間たちと共に、非日常的野性的な冒険をしたい!
それと、もう一つだけささやかな願望を。
「かわいい女の子とイチャイチャしたい!」
つまり、そういう事だろう?と、ヤケクソ叫びたくなってくる。
はあ……やっと現実に戻ってきた。
オレ、四林清は転移先の世界の私立高校の一年生として『地球史』の授業を受けている。
(どうしてこうなったんだ?)
格好つけたツーブロックが慣れなくて、刈り上げた髪の生え際を撫でながら状況を再考してみる。
この高校は、オレが通っていた学校よりも遥かに近代的な授業形態をしている。
机の上には教科書、ノートやシャープペンシルの代わりに、一人一台A4サイズのタブレットPCが配られている。教室に黒板はあるけど、殆ど使われていない。
先生はタブレットのテキストを読み上げたり、天井から生えているプロジェクターから立体映像を映して、ステッキで映像のあちこちを指しながら解説するだけ。
目線だけぐるりと教室を舐めまわすと、非常に個性的な見た目の生徒がたくさん座っていた。エルフや妖精まではいかないけど、北欧系や南米系、様々な国籍の顔を持った人がいて、国際色豊か。
一番驚いたのは、みんな髪色や目の色がとても美しくカラフルだったこと。そのため、授業中の教室はお花畑の様に色鮮やかだ。
「えー、二十七世紀半ばには第二次生物工学発展が起き、我々の遺伝形質は人為的な操作が容易になり……。」
異世界転移というより、未来にタイムスリップしたという方が近い気がする。地球史の授業を聞いてても「二十七世紀」や「遺伝子をいじる」などのSFチックな用語が出てくる辺り、高度な科学を持った世界と考えるのが自然だ。
授業が終わり放課になって、オレは真っ先に学校の外へ出て、街の景観を知るためにぶらぶら散歩してみる。
街の外周は無骨な灰色のコンクリートの巨大な壁で囲っており、外界から何かを守るかのようにそびえ立っている。
道路は紺色の真新しいアスファルトで舗装され、その上を見慣れた形の車やバスが行き交っている。
作り立てのニュータウンといった雰囲気だけど、文明が発展しているわりには街に街路樹などの緑が多くて、コンクリート造りの背の高い建物が少ない。
細かい所が違うけど、百貨店や病院や銀行などの生活に必要な施設はちゃんと揃ってるし、ゲームセンターやカラオケもあったので、生活に不便はなさそうだった。
加えて、学生には十分すぎるほどの金額が毎週銀行に振り込まれていた。誰が振り込んでいるのか知らないけど、ともかく生活の心配はない。
あとは……『何故女神様がこんな世界に飛ばしたか』みたいな疑問は一旦保留にして。
次に気にするべきは《例の少女》についてだ。
あの時、突然会話が切られてしまって、彼女の名前はおろか容姿や年齢さえも訊きそびれてしまった。
《例の少女》の情報が一切ない以上、女神様のお願いを叶えるのってほぼ無理じゃない?いや、この学校の学生に転移させた意味から、案外近くにいるのかもしれない。
だけど、この何百人といる女子生の一人二人を幸せにしたところで、女神様のいう《例の少女》であるとは限らないし、答え合わせもできない。
女神さまは急ぐ必要はないと言ってたけど……。
まあ……まだ確認してないけど、女神さまはオレに『万物の才能』を与えてくれたらしいし、幸せを保証するとまで言ってくれた。
この先、どんな力や運命が働いて状況が進展するかわからない。
取り敢えずは新たな世界でオレの好きな事をしてみようか!