14.夏への期待
オレとハスィの気まずい緊張状態は、エチルの調停によってあっさりと解決してしまった。
寮に帰ってからすぐ、エチルとの個チャで「ハスィはちょっと融通の利かない所があるのよ。でも、きちんと説明すれば、ちゃんとわかってくれる。決して、クラスの皆が嫌いとか、シバヤシ君が悪いとか、全然そういうのじゃないから安心して。」みたいなことを話していた。
金曜日、部室にてハスィとオレの間にエチルを挟んで仲直りをした。
『文化祭に対しての方向性が違い、互いに誤解を与えてしまった』
全くその通りだと思う。
それがわかった以上、心のわだかまりが解けた。
何より、ハスィの目も鋭さが収まっていたので、こちらも不快な面持ちで過ごす必要がなくなった。
「明日みんなでNakkinに遊びに行かない?水曜日の採集に向けての買い出しも兼ねて。」
突然、エチルがそんなお誘いを地球部に言いだしてきた。
『Nakkin』というのは、ディッシュ都市最大の複合大型商業施設……まあ、ら○ぽーと、クソデカいイ○ンみたいなショッピングモールだ。
「まだ水着とか買ってないのよねえ。ツキノワ先生が必要だって言ってたモノも全然揃ってないし。みんな明日ヒマだったりする?」
「特に予定はない。」
「オレもヒマだよ。」
「俺も空いてるけど、水着を買うなら男子連中は邪魔じゃないのか?」
んー!キバよおー!
なんで折角のイベントをぶっこわすこと言うのかよおー!
え?典型的な朴念仁系主人公ですか?
それとも君、女の子のお誘いを無下にしたいんですか?
なんてキバの残念な発言で「そうね、じゃあ私達二人で行きましょうかね。ハスィ。」とエチルが言い出さないかヒヤヒヤ。
「あんまり気にしないけど…、でも、一緒に遊ぶ人が多い方が楽しくない?」
「うん!確かにそうだね!」
オレはこれ以上話が後ろに行かないように、大げさに相づちをうった。
「そう、だからシバヤシ君とキバ君も来る?」
「うん!オレは行きたい。」
「シバヤシが行くなら俺も行くよ。」
「じゃあ決まりね。明日午前十時に、第二美皿駅に集合ね!」
「おーう!宿題を配り終えてご機嫌なツキノワ先生が来たぞ~」
「相変わらず暑苦しいご登場ですね。」
「ガハハハッッ。あっそうだ、今日は皆に配らないといけない手紙があるんだ。」
ツキノワ先生はニヤニヤしながら、薄いカラー冊子を配っていく。
「磯で注意すべきことについて、このツキノワ自ら作成した安全ガイドブックだ!」
「へええ……。」
得意気に胸を張る先生をよそに、取り合えず一ページ目を読んでみる。
「先生、この《ツッキー》っていうクマのキャラクターがいますけど……。」
「ああそいつはツキノワグマの《ツッキーちゃん》だ!我ながら可愛く描けてるだろう!」
どのページにも胸に三日月のついたデフォルメクマがいて、よだれを垂らして豆知識を呟いている。
「磯には色々な危険が潜んでいる。鋭く尖った岩場、滑りやすいひじきの絨毯、自然の浮石トラップ……。ハオコゼやゴンズイ等の毒魚もいる。安全に採集を楽しむために、各自で読んで頭に入れておいてくれ。」
「はーい、」
「じゃあ、私はこれにて!仕事が終わったら解散!じゃなっ!」
そして、風のように去っていく。
「みんな夏休みの予定とかどうなの?ホラ、夏休みは分担して、毎日エサやりに来ないといけないし。里帰りとかで長期間連絡取れない人は、グルチャに予定送っといてね。」
あっ……。
「私はずっとここにいる。」
「俺はバイト入れてるから、来れない日があるかもしれない。」
「私は年末に帰るから夏休みはここに残るわ。シバヤシ君は?」
「あ、ああ……。オレもエチルと同じかな。」
そうか、みんな寮暮らしだから、長期休みになると宇宙コロニーにある実家に帰るのか。
転生した身としては、帰省する家がないのは若干寂しいものだけど、親にがみがみ言われない寮生活も気楽なんだよな~。
あと、まだ宇宙コロニーを見たことないんだよなあ。暇なときに、独り宇宙旅行もいいかもなあ。
なんてことを期待して、楽しくもサイエンスティックな夏休みに胸を膨らませるオレであった。




