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7.誘拐事件勃発

閲覧とブクマをありがとうございます!

とても嬉しいです。

 ガストン・オルレーヌは髭を剃ったら若かった。

「本当に二十歳だったんだね!」

「王子……」

 ショックを受けるオルレーヌ卿は、髪も切って服装も改め、身なりを整えたらイケメンだった。

 何だよ、まるで前世の少女漫画みたいな展開だな!


「うん、その恰好なら僕を抱っこしてもいいよ。抱えてみる?」

「い、いえっ、遠慮しておきます!」

 相変わらずの照れ屋さんめ。

 彼はからかうと結構面白い人材かもしれない。

「君は僕の専属の護衛騎士になったのだから、ガストンと呼んでもいいかな?」

「は、光栄です」

「僕の事はリュシーでいいよ」

「いえ、それはあり得ません」

 戸惑いつつもきっぱりと断られ、僕は軽く肩を竦める。

 王子が親しく名前を呼んで貰う事はなかなか難しいのだ。


「それで早速だけれど、僕の護衛を務めるなら他に二人か三人は交代の騎士を選んで」

「いえ、私がずっと護衛します」

 はぁ、出たよ。こっちの世界の労働基準って無茶苦茶でさ、公私の区別が余りないんだよね。

 やる事があればぶっ続けで働くし、逆になければ割と自由に過ごしているし、誰も “労働時間” なんて気にしない。

 休暇という概念だって余りないくらいだ。


「君にも自分の鍛錬の時間が必要だし、休息も、仲間と交流を深める時間だって必要だ」

「仲間?」

「城内の警備隊や女官達とは顔を合わせるのだから、お互いに知っておいた方が良いでしょ?」

 それに、互いに会話を交わして相手を良く知る事で悪さを働けないようにする。

 所謂、村社会の監視機構みたいなものだよ。


「リュシアン王子は賢いのですね」

「ううん、そんな事はないよ」

 僕のはただの処世術に過ぎない。

 ガチの後継者争いとか権力闘争を勝ち抜けるほどタフじゃないし、根性もない。

 どうにも平和な日本人の意識が抜けないからね。


「では、早速ですが警備隊に挨拶をしてきてもいいですか? 護衛騎士に引き抜ける人員がいるか、見てきたいと思います」

「いいよ。でも選ぶなら、他からも選んだ方がいい。選択肢は多い方が良いからね」

 他に貴族の子息達や中央騎士団もあるし、少し難しいかもしれないけれど近衛隊から引き抜く事も出来るかもしれない。

 一応、僕の護衛騎士なら出世になるから、出身を一つの部署に固めない方が良いと思うんだ。


「分かりました。では選考をどなたかに手伝って頂いて宜しいでしょうか?」

「侍従長に助言をして貰うと良いよ」

「は、そのように致します」

 ガストンは部屋を出て行こうとして、勢いよく飛び込んできた塊にぶつかりそうになった。


「何奴!」

 パッと後ろに下がって警戒心を剥き出しに問い質してきたのはカミーユだった。

「カミーユ、その人は僕の護衛騎士に任命されたガストン・オルレーヌ卿だよ」

「御前試合の優勝者!」

「そうそう、この国で一番強い戦士だ」

「凄い! でも、リュシーの護衛騎士だって? それは僕の役目だ」

 こらこら、無茶を言うなよ。僕より背が高くても、強くても、所詮は同じ年の子供じゃないか。


「あの、こちらは――」

 子供に憧れと敵意の混ざった複雑な瞳で睨まれて、対応に困ったガストンが僕を見下ろした。

「彼はカミーユ・ベルべ。僕の乳兄弟でロッテの息子だ」

「そうですか、リュシアン王子の……。私はガストンだ。これから宜しく頼む」

 スッと手を差し出され、カミーユは勢いに押されるようにその手を握った。

 それでも何故か敵意が残っているように見える。

 一体、どうしたんだろう?

 僕は不思議に思ったけれど、後で聞く事にして先に彼が飛び込んできた理由を訊ねた。


「それよりも、そんなに急いでどうしたんだい? 何かあったの?」

「あっ、そうだった。こうしていられない、リュシーに伝えたい事があるんだ。あの、二人きりになれないか?」

 ガストンを部屋から出してくれ、と言外に言われて僕は苦笑しながらガストンに用事を済ませてくるように言った。

 子供同士の内緒話まで護衛騎士の耳に入れる必要もないだろうからね。

 けれど僕は、カミーユの言葉を聞いて子供の戯言などではなかった事を知った。


「リュシー、レオナール様が攫われた」

「ええっ! 誰に!?」

「分からない。僕はいなくなったと話しているのを聞いただけだから」

 なんだ、それならまだ攫われたとは限らない。迷子になっているだけかもしれない。

 勿論、まだ二歳の子供が、それも公爵家の跡取りが迷子というのも十分に大事(おおごと)だけれど。

「リュシー、レオナール様はリュシーとは違う。普通の子供は一人で抜け出せたりしない。きっと誰かに連れ去られたんだ」

「そんな……」

 そう言われると不安になってくる。

 確かに前世の記憶があった僕とは違い、普通の二歳の子供は人目に付かないように行動する事なんて出来ない。

 公爵家の跡取りなら、大勢の乳母や教師や世話役が付きっ切りでいる筈だ。


「精霊に訊いてみようか?」

 精霊ならば、レオナールの名前を耳にしなかったか、黒髪の子供が何処かで泣いていないか、訊ねたら直ぐに答えてくれるだろう。

「でも、そんな事をしたらリュシーの力がバレちゃうよ?」

「うん……」

 僕は精霊が見える、精霊の助けを借りる事が出来るという事は人に教えているけれど、彼らと自由に話せる事まではカミーユ以外には内緒にしている。

 だってみんなの内緒話や秘密を(間接的にだけど)盗み聞き出来るなんて知られたら、凄く嫌がられると思うんだ。

 疚しい所のある人は勿論、普通の人だって僕を怖れて近付きたくないって思うに違いない。


「でも、公爵家の惣領息子がいなくなったなんて大事だろう? 放っては置けないよ」

 まだたった二歳の子供が、もしも怖い目に遭っていたら可哀想だ。

 僕は僕の事を天使様だと、とても綺麗だと言った子供の顔を思い出した。

「リュシーはお人よしだな。仕方がない。取り敢えず居場所だけでも探そう」

「うん」

 僕はお付きの精霊のニアと、近くにいた風の精霊に頼んで、レオナールと呼ばれている黒髪黒目の二歳の男の子を探すようお願いした。

 彼らは意識の一部が繋がっているので、直ぐに方々の情報が集まって来る。


「黒髪・黒目、いっぱいイル」

「二歳の子供、わからない」

「泣いている子、たくさん」

「レオナール、呼ばない」

「馬車に乗っている子、騒がしい」


 馬車? 馬車に乗っているような子供は上流階級の子に違いない。

「馬車に乗っている子も黒髪で黒目かい?」

「ソウ。窓から落ちそう。男、引っ張っタ。子供、大騒ぎ。煩い」

 なんだか凄くレオナールっぽい。

「その子の名前は呼ばれないかい?」

「呼ばれない。縛られた」

「縛られた?」

 それって例えレオナールじゃないとしても、助けた方が良いんじゃないか?


「馬車が何処に向かっているかわからない?」

「オーゾンヌの小道を進んでル」

 オーゾンヌの小道?

「カミーユ、何処か知っている?」

「知らない。なあ、これ、誰かに伝えた方が良いよ。お師匠様に相談しよう」

「うん」

 僕らは揃って指南役の元へ急いだ。

 彼は剣術馬鹿だけれど正義感が強いから、きっと何とかしてくれる筈だ。

 それに上手くいけば、僕が精霊と自由に話せる事まではバレないかもしれない。

 この期に及んでそんな事を気にするのは自分の保身ばかり心配しているようで気が咎めたけれど、出来る事ならばれたくない。

 案の定、子供が拐かされたかもしれないと聞いて、指南役は僕を追求する事も忘れて激高した。


「オーゾンヌの小道と言えば、ブロイ公爵家から隣へ向かう道ではないか! もしや、拐かされたのはブロイ公爵子息ではあるまいな!」

「その可能性もあります。ブロイ公爵家の隣は、どなたの館でしょうか?」

「レニエ伯爵だ!」

 あ、僕を嫌っている筆頭だ。宰相とレニエ伯爵とカペー子爵の三人は、僕を嫌っている御三家と言ってもいい。


「でも先生、レニエ伯爵はブロイ公爵夫人とも親しくされています。レオナールを攫う必要などありますか?」

「知らん! 知らぬが、子供が縛られて、攫われているのは確かなのだろう?」

「はい」

「ならば助けてから理由は訊ねれば良い。直ぐにレニエ伯爵家へ参るぞ!」

 僕は飛び出そうとする指南役を抑え、慌てて父上の側近を呼んで同道を頼んだ。

 もしも間違いであった場合、または本当にレオナールが攫われていたとしても内々で処理する可能性が高い。

公爵家の跡取りが拐われたなんて、外聞が悪いからね。

 だから偉い人が来てくれた方が、スムーズに事が運ぶ。

 父上の側近であるセレスタン・クロード・ルノー公爵はブロイ家に匹敵する公爵家の当主だし、抑えとしてはこれ以上ない適任なのだ。


面倒な頼み事にルノー公爵は黙って頷いてくれたが、一緒に行こうとする僕を引き止めた。

「リュシアン王子はこちらでお待ちになって下さい」

「嫌です。僕も行きます」

「王子を危ない目に遭わせる訳にはいきません」

「大丈夫。ほら、僕の護衛騎士が来ました」

 タイミングよく駆けつけてくれたガストンに僕はにっこりと笑い掛ける。

 初日から仕事が出来て良かったね。

 僕を守ってね。

「僕だってリュシーを守る!」

「カミーユ、君も子供だろう。それから人前で王子をそのような呼び方で呼ぶのは止めなさい」

 ルノー公爵にやんわりと注意され、カミーユは大人しく頭を下げた。


「やれやれ、仕方がありませんね。リュシアン王子のお力が必要になるかもしれませんし、一緒に参りましょう。ただしオルレーヌ卿、くれぐれもリュシアン王子にお怪我をさせぬよう頼むよ」

「は、お任せ下さい」

「ほら、急ぎますぞ!」

 空気を読まない指南役に急かされ、僕らは二の郭にあるレニエ伯爵邸へと向かった。


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