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3、夢

「それで、話すことはまとまったか?」


 ぶっきらぼうに言いながら椅子に座る。

 お礼の内容でも、名前でも、家出の理由でもなんでもよかった。

 とりあえず情報が欲しい。対応の仕方がまるで分からない。


「え、えーと……その、何から話したらいいのか分からなくて……。その、こんなことしてもらうの初めてで……」


 意外というほどでもなかった。

 そりゃ、誰でも厄介ごとなんて面倒だから事情を聞かないで済むならそれに越したことはない。

 ただ、お礼を頑なまでに主張する彼女の話を聞かないままにはいられなかった。


「じゃあ、とりあえず名前だな。俺は高本涼太だ。でそっちは?」

「い、稲森朱音です……」

「歳は?」

「16歳です。高校2年です」


 ふむ……このままここに置いておくと確実に犯罪だな。

 それにしても高校生で家出って何の理由だ。親との喧嘩で引っ込みつかなくなったパターンか? にして勇気あるな。学生の頃、家出なんて考えもしなかったもんな。


「それで、そんな華の女子高生がなんで家出なんてしたんだ? どっから来た?」

「出身は福岡です。家出の理由は……」


 そこで詰まるのか。そんなに言えない理由なのか? 家出したことないから理解ができん。


「え、えーと……。家出の理由は簡単に言うと、親との喧嘩です」


 そういったきり稲森は俯いてしまった。

 親との喧嘩なんてありがちな理由で、よくも福岡から東京まで足伸ばしたもんだな。

 その行動力には素直に感心する。


「で、親との喧嘩の原因は何だ? テストの点が悪かったとか、お小遣いが少ないとかそんなしょうもない理由じゃないだろな?」


 少し苛立っていたのかもしない。攻めるような口調になってしまった。

 だけど稲森から出た答えはもっと深く、そして単調だった。


「あ、あの……私、夢があるんです。だけど、親がそれを認めてくれなくて……」

「夢ねぇ……。それは一体何なんだ? 家出してまで叶えたい夢ってのは?」

「私、将来小説家になりたいんです! ずっと子供のころからの夢で……諦められなくて……」


 堂々と宣言した割には、後半は恥ずかしかったのか俯いてしまっていた。

 いい夢だとは思う。

 自分も一時期目指していた時期があるからその気持ちは分からなくはない。

 けれど、家出してまでなりたい夢かと聞かれれば、うん、とは言えないくらい軽い夢だった。

 何よりも生活が不安定だ。売れるには才能も、努力も、そして何より運がいる。

 そりゃ親も反対するだろう。自分の娘がそんな幸せになれるか、まずその職に就けるかどうかすら分からない夢を追いかけてるなんて……。


「それで? 親に反対されたから嫌になって出てきたのか。そんな奴がなれるとは思えんが……」

「違います! 反対されてカッとなって出てきた部分もあります! だ、だけど! お父さんが頭ごなしに否定してきて、私の書いた小説を消したから……。それが耐えられなくて……」


 勢いよく立ち上がって反論してきたかと思えば、最後には少し涙目になって椅子に項垂れかかってしまった。 

 う、うわぁ……。

 流石にそれはやり過ぎだな。

 娘の将来を案じる気持ちも分からなくはないが、本一冊書くのがどれだけしんどいか分からないのか……。そりゃ丹精込めて書いた小説消されたら家出するわな……。


「これからどうするんだ? 小説家になりたくて家出してきてこんなとこまで来たんだろ? なんか考えてるのか?」

「い、いえ。バイトとかで稼いでいたお金も無くなってしまったので……。帰りたくなんてありませんし、でも、このままでも生きていけませんし……」


 顔を伏せたまま小さくそうつぶやく彼女はとても弱弱しかった。

 何も考えてないか……。

 まぁ、なにせ高校生の家出だ。

 できることも限られてる。

 実家が福岡なら当然こんなところでバイトもできやしない。

 金もなくて帰れもしない。

 まさに崖っぷちな状況。

 このままこの子を見逃すのも可哀そうだと思いながらも、当然彼女を返してやるのが筋だとも思える。自分にできることはほとんどなかった。


「そうか……福岡までの新幹線代くらいなら出してやる。それで帰って謝って説得するんだな」

 自分にはそんなことしか言えなかった。

「い、いえ……そこまでして頂くわけには……。今帰っても説得なんてできませんし……」

「なら、どうするんだ? あても何もないんだろ? あれも嫌だ、これも嫌だなんて子どもみたいなこと言うんじゃない」

「それは……」


 それだけを口にして稲森はまた黙ってしまった。このままでは話が進まない。

 稲森が黙ってしまったせいかリビングは何の音も発さない。そんな静寂が何分だろうか続いた。

 やがて、稲森が決意のこもった顔を上げた。


「あ、あの! 今書いている小説がもう少しで完成するんです! その間だけでもいいです! バイトも探してします! 家事もします! なので、その小説が書き終わるまでこの家に泊めてもらえませんか」


 彼女は一息でそう言い切りじっとこちらを見つめてきた。

 昨日の夜のあの諦めの悪い表情で。


「お前、言ってる意味わかって言ってるのか? 小説家を目指すならそれが犯罪になるってこともちゃんと知って言ってるよな? それでも頼むのか?」

「はい……わかってます。悪いことだって、ダメなことだって。ちゃんとわかってます。で、でも! 諦めるくらいなら! だから、お願いします。あとちょっとなんです! その小説が書き終わったら帰りますから!」


 彼女の決意は変わらなかった。

 福岡から家出して東京までやってきて、それで何も出来なくて。

 ダメなことだと理解してなお引き下がらずに。

 自分はその気力に圧倒された。

 自分ができなかった思いを強く抱いて。

 多分、自分は彼女に期待したのかもしれない。

 自分が何も成せなかったことを彼女ならやるのではないかと。

 そんな他人任せの夢を見てみたかった。


「わかったよ。小説が書き終わるまでは部屋を貸してやる。だけど、それだけだ。自分の言ったことは守れよ?」

「……っ! あ、ありがとうございますっ! よろしくお願いします!」


 そういった彼女の顔は覚悟と期待と、少しの不安でできていた。


とりあえずプロローグは終わりです。

初めてのことなので色々分からないことも多いですが頑張っていきたいと思います!

(書きダメもしてない見切り発車)

基本的に無理なく続けられるように週一投稿にしたいと思います。

よかったら感想等お待ちしております。

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