7. 捜査《4》
ケネス翁は、約束を違えなかった。
ある晩は義賊の陽動に引っかかって見せ、またある晩は追いかけっこの途中で振り切られたりと、部下達を巻き込んで、道化を演じ続けてくれた。
ドタバタ騒がしくて単純明快な捕物劇は、コルトシュタインの新たな名物のようになりつつある。
「ケネス殿もよく頑張っておいでですな、王」
「俺が無茶を言ったからね」
「義賊団を味方に引き入れたいとか」
「うん。真面目に捜査してくれていたリカルド殿には悪いけれど」
「理由が有っての事と伺いました。陛下を責める言葉は、私の持ち合わせにございません」
リカルドが、王の秘蔵品である王立学校の卒業記念のウィスキーをちびちび飲みつつ、似顔絵を差し出した。
アルフレッドは下戸なので、飲みあぐねている。
「よくやってくれた」
「連中の面を割り出すだけで七日もかかりました。我が魔導師団の怠慢こそ、責められるべき所です」
「お父上は、まだ機嫌が悪いのだな。困ったものだ」
「彼が機嫌良くしているところなど、ここ何年も見ていません。娘が生まれた時は狂喜乱舞でしたが、あいつは祖父の言う事を聞かない孫に育ったし」
エルザ=シュミットは十二歳で魔導騎士の資格を取り、小隊を指揮して城の警備にあたる才媛である。
ドナーグとしては自分の元で修練を積ませたかったようだと、リカルドが言う。
「家族だからといって、自分の思い通りに動いてくれるとは限らないのに。父はまだ、それが分からない。歯がゆいばかりです」
「人の上に立つのが楽しいんだろうか」
「常に褒められていたいんじゃないですかね、誰かに」
「一番難しい事を理想に、動かれている訳か」
王は話をしながら仕事をするのが得意だ。
「クレシダとクロウ。あのメモに、名前まで書いてあったのか」
読めない箇所には、エルフ語で連名がなされていた。
これで、ようやく二人の義賊が浮かび上がった訳だ。
似顔絵を見比べつつ、王は手酌で果実ジュースを飲む。
「以前から気になっていたのですが…陛下は酒を嗜まれないので?」
「全く飲めない訳じゃないんだが、苦手でね。翌日の執務に響くんじゃ目も当てられん」
「前王陛下とは好みが違うようだ。良いご家族であられましたか?」
「仲良く過ごして来たと思う。いざ王位を継いだら違う所が有り過ぎて、戸惑う事もあるんだ。リカルド殿の家族はどうだ、平穏か?」
「そうでもありませんな。私は嫁と娘にさえ嫌われなければ、それでいいと割り切っていましたが、今になって、あの頑固親父とも、よく関わっておくべきだったと悔いています」
「悔いる事など無い、リカルド殿。まだ間に合う」
ドナーグ=シュミットの事を言っていた。
「陛下は、父に対して何かを掴んでいらっしゃるのですか?」
「確証が無い。卿には嫌疑もかけていない段階だ。彼が不正を働くとは思っていないが、今はエルザに頼んで調べてもらっている」
「左様でしたか」
リカルドは杯の中の琥珀を見つめ、それからぐいと呷った。
「私も父が不正を働くとは思っていませんが、確かに周りが見えなくなる事も多い人です。もし悪を為していたならば、その時は容赦なく、ご処断頂きたい」
「その疑いを晴らす為に動いている。ケネス翁に時間稼ぎを頼んでね。出来れば人を裁いたりはしたくないんだ、俺は」
「他人の人生を背負うのが恐ろしいのですか」
「だったら王なんか引き受けるなって話だけれど、そうも言ってられん。自分の考えだけで国王になったからね」
「…ぼんやりと酒を飲んでばかりはいられませんな」
「そんな吞み方を、一度でもした事がお有りか?リカルド殿の、城の結界については感謝してもしきれんのだが」
酒量が多くなるのは魔導師の常だ。
高等な魔法を扱う優秀な魔導師ほど、燃費が悪くなる一方である為、早急な熱量が必要だ。
酒類は最も魔力への変換効率が良いとされる飲料である。
小さな城を常に覆う結界は、リカルド=シュミット夫妻の研究と努力の成果であった。
「お褒めは頂戴致しますが…これよりは一層、力を尽くして任に当たります、国王陛下」
守りに優れ『鉄壁』と呼ばれる真面目な中年魔導師が、立ち上がって背を折った。