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黄金王の花嫁  作者: かや
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6. 捜査《3》


メモの解析が終わったとリカルドから報告を受けたのは、捜査を本格化させてから数日後の事だった。


なんでも先日、王立学校の主任教授リュミーシュ婦人の図書館から盗まれた物というのが、正に解析で必要となる『エルフの用いる魔法文字に関する資料』その物だったのだ。

それがごっそりと盗まれていた為、宮廷魔導師団は、各方面に資料を掻き集めに奔走し、思わぬ時間を費やしてしまったらしい。


「奴ら、遊んでやがるな」


これ見よがしな手がかりを残したかと思いきや、調べる手段の方を封じて逃げ去っていたとは…。

王は義賊団の態度に、憎たらしい感情よりも楽しさを見出していた。


「私共と致しましては至極、真面目に取り組んでおりますが…」

「ケネス殿、もっと正直になっていいぞ。シュミット卿も聞いてはいまい」

「本音を申せば近頃は少々、馬鹿らしくなって参りました」


だろうな、と息をついた王はケネスに本題を持ち出した。


「不正の調査の方は?」


義賊団が遊び相手に選んでいる連中を、片っ端から調べるよう、アルフィミィを始めとする小回りの利く部下らに命じておいたのだ。


そうして叩いてみれば、出るわ出るわ。


「脱税や粉飾決算は勿論、麻薬売買や奴隷斡旋などに手を出している者までおります」


悪を為している自覚からか、彼らは治安組織を遠ざけたいようだと、ケネスが私見を加えた。


「元を正せば、我ら魔導師団と自衛軍が袂を分かち、揉め続けていたのが、奴らを蔓延はびこらせた遠因にございましょう。どうかお許し下さい、アルフレッド様」

「俺がしっかりしていなかったせいもある。気にしないで欲しい」

「…は」


調べなければならない事や、手を回さなければならない事が多過ぎる。

普段の執務の忙しさとは、全く別の重圧がのしかかってくる。

状況を打開できる一手を、それでも王は見つけ出そうとして…熟考する間を辛抱強く待ち続けてくれた翁に切り出した。


「貴殿らを見込んで頼みたい」

「如何様にもお申し付け下さい、陛下」

「もう暫くで良い。義賊団と遊んでやってくれ」

「遊びにございますか。私共を見込んでとの事。やぶさかではございませんが…はて?陛下は何をお考えやら」

「義賊達を味方に付けたい。我が国の治安組織を信用していないというのではないが」

「もっと身軽に動ける者が配下に欲しい、といったところですかな?」


ケネス翁は厳めしい顔を楽しげに緩めた。

ウィルフレドの時代から、君主の無茶には慣れている。


「バレていたか」

「このケネス、何年お傍にお仕えしているとお思いですかな。アルフレッド陛下はこと、人間関係についてはとても欲張りでいらっしゃる」


盗賊としての高い技能と高等魔法を扱う魔力。

治安組織をことごとく欺き、手玉に取る知略。


街を騒がす義賊団は、味方に居て損をする相手ではない。

ただの罪人として処罰するにはあまりにも憎めない、無邪気な連中だ。

アルフレッドはこれまでも、自分で良いと思った人間とは余す事なく、信頼関係を築いてきた。

人の心の変容も、裏切りさえも気に留めずに良好な関係を保ち、人脈を広げようとした。

王族に付き物の傍若無人さが、それだけの為に発揮されていると言ってもいい。

ケネスの言った通り、対人だけは異様に貪欲なのだ。


しかし、そんな王だからこそ以前、指摘を受けた事もある。


他人ヒトの心の中には、触れられたくない所もあるから、気を付けて接しなさいね』


母フィオーラは息子に対して、自由を何ら制限する事なく育て上げたが、その一点だけはよく言い聞かされたものだ。

だからこそ、母の助言もしっかりと守り、他人の領域聖域パーソナル・スペースに踏み込む時は気を付けているつもりだ。

自分の考えや都合だけで周囲を動かせば、いつか必ず後悔する事になると、今のアルフレッドは知っている。


「無茶を言っているのは分かっている。が、貴殿にしか頼めぬ事だ。為らぬ事ならばそれでも良い。戯言たわごとだと断じ、忘れてくれればーー」

「陛下のお考えを通すのが御用聞きの役目。私も治安組織の在り方について、思う所がござる」

「思う所か…宮廷魔導師団シュミット一族との関わりかな?」

「はい」

「俺に手伝える事は?」

「私共の個人的な問題もございます。これについては私にお任せ願えればと思います」

「分かった。では、義賊団の件は任せるぞ」

「しかと承りました」



翁は最敬礼して、去って行った。




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