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黄金王の花嫁  作者: かや
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4. 捜査《1》


一筋縄では行かない相手だろう、と王が本能的に判断していた通り。数日が過ぎた現在も、自衛軍は義賊団を捕える事が出来ていなかった。

連日連夜に渡って義賊団を追い回し、いつも大詰めというところで逃げられるという失態を繰り返している。


その間に、王の大叔父であるウルヴレヒト公子の屋敷や、王立学校の主任教授リュミーシュ婦人の図書館にも、賊が侵入したとの報告を受けた。

自分に近しい人物の所にも侵入盗しんにゅうとうが及んだとあっては、アルフレッド自身も動かざるを得ない。


疲労しきりのケネス翁に代わり、副長のリチャードを呼び出した。


「貴族方の屋敷の警備、でありますか」

「元々、人数が足りない上に、酷な事を言っているとは思うが…」

「いいえ、陛下」


近眼のリチャードが、目の奥を光らせて言った。


「面目なく失態を犯す我らに、変わらない信頼と機会を与えて下さり、感謝しております」

「俺が現場に出てもいいんだが、自衛軍の顔を立てておきたいしなァ。親友として訊くけど、奴らと真っ向から勝負して、捕まえるのはキツいんじゃね?」

「そうですね。奴らは手練れの盗賊であり、しかも魔法の使い手です。直情径行の武骨者が多い自衛軍だけでは荷が勝ちます」

「やっぱり、そうかぁ。魔導師団の協力が欲しいよな」


先日、王が場を取り持った話し合いで、宮廷魔導師団長リカルド以下、数名の魔導師の協力を取り付けた…はずだった。


『頭の堅い元上司から、あまり自衛軍に手を貸すなと言われて困っている』とリカルドから報告を受けた。


一体どういう事か?


あの話し合いの席で、自衛軍団長ウォルト=ケネスはしっかりと頭を下げた。

元宮廷魔導師団長のドナーグ=シュミットも、渋々ながら首を縦に振った。


少なくとも、今回の件に私情を挟む余地は無くなったはずだ。なのに、何故か実際には協力体制が作られていないのだ。


あれは言葉の上だけの合意だったのだろうか?

考えたくもない事だが、もしそうだとしたら、警察機構の幹部に心を偽られてしまう国王とは何なのだろう。


ドナーグは、あからさまに圧力をかけたり、捜査を妨害するような人物ではない。

シュミット家自体も、祖父の時代から優れた魔導師を何人も輩出する名門貴族である。

自分達が優れた血筋である事を理解し、誇っているドナーグは、自らが老いを実感する前に要職を息子に譲る潔さを持っていた。


決して愚かなはずは無いのだが、その実、宮廷魔導師団に対しては、団員の人事や給与査定などで、未だに強い権限と影響力を持っていた。

彼がダメだと言えば何をしてもダメで、逆鱗に触れれば即刻クビを言い渡す頑固爺である。


自分はどうなってもいいが、部下の将来を潰されたくはない。だから、これ以上の捜査協力はしかねる――


リカルドの報告書の文字が、怒りで震えていた。


「俺が何とかするよ。お前は引き続き、現場を仕切って警戒に当たってくれ」

「承知いたしました。今後は住宅地の警備にも力を入れます」

「ああ、悪いな」


最敬礼して立ち去るリチャードの背を見送って、王は独り思案する。


自衛軍と魔導師団。


二つの治安組織の長たる二人の間に、どんな確執があるのかは知らない。

我が子に同じ名前(Rechard)を付けるくらいには仲も良かったはずだが…。


「ったくよー、間に入る奴の気分にもなってみろってんだ」


気が重い。

思い通りにならない状況が続いた時、前王はどう振る舞っていたものだろうか?

民だけでなく、王族の手本となるような治世を行っていた『賢王』ウィルフレドが、本格的に困っているところなんて、息子のアルフレッドは見た事が無かった。

常に冗談を言い、暗い顔もしない。

ただひたすら、国民が楽しく安全に暮らせる政事まつりごとを心掛けていた。

弱音を見せる時だって、深酒をする程度でしかなかったのだ。


「俺を信用して、王位を譲ってくれたってのに」


父の期待にすら応える事が出来ないのだろうか。

それでどうして、黄金要塞の民を率いることが出来るだろう。


外に目を向ける。


私室の窓から見やる夕日だけが、憎たらしくも美しい。




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