王の会合
内に眠る星王覚醒せし時
白道歩む大星 蒼碧に輝かん
そこは静謐の空間。
円卓の席に着く、各々の協会長は、ある者の到着を待っていた。
緊張という名の静寂が迸り、誰もがその状況を打ち壊そうと、言葉を発しようとはしない。
次第に、空気の重さというのが増していき、誰かがしびれを切らして発言しようとした、その時。
威厳さを欠けさせない、覇気の籠った声と共に、待ちわびていた男が姿を現す。
「お待たせしました、皆さま」
黒髪の一般的な男性だ。体格も筋肉質というわけでもなく、細身の体格に近い。
双眸も高校生のような童顔に見えるし、声色も若気を感じざるを得ない。
ここまでであれば、その男性が世界最高峰の魔術師と言われていても、信じる者は多くはないだろう。
だが、その鋭い眼光を見た時、誰もが腰を引く。
歴戦の猛者、数多の修羅場を潜り抜けていて、そして……絶望を知っている眼だ。
私の一番最初の印象はそれだった。
「イリスさん、何か?」
「いや、なんでもない。それで急に協会長なんか集めて、何を話したい?」
「わざわざ言わなくても、あなたならわかっているんでしょう?僕が話をしたいのは、星王の伝承、昨夜の蒼い月についてです。」
そして身の丈に合わない、背もたれが長い椅子に座り込んだ彼は、腕を組む。
馬鹿にしているのか、それとも本心なのか。
彼が一番恐ろしいのは、魔術師の実力もそうだが、何が本心なのかわからないという不気味さに加え、口が達者なこともあり。
虚偽を訴えたとしても、うまく丸め込まれてしまうことも多々ある。だから、誰もがこうして発言を控えているのだ。
いつ、どこで、どう理由を付けられて、争いごとになるのか、わかったものではない。
「星王の誕生の逸話だな、しかしあれは都市伝説の類だと聞いているが、そこら辺はどうなのかね?『徒花』のイリス」
「そうだね、ぜひとも同じ王としての意見をもらいたい」
うまく発言に便乗されたイリスは、煙草に火を灯して、黙り込む。
「今まで星王について、触れてこなかった君たち王だが。それも限界だ、そろそろ何か言ったらどうなんだい?じゃないと対策しようがない」
恐らく、彼が言いたいのは、今や世界の平和を保つ中核と言っていい王たちが、二つの派閥に分かれていることだろう。
世界に魔術的概念、それに通ずる英雄譚、神話や生物を継承し、地球上でもっとも神に近しい存在、それが今話題になっている王という存在だ。
また派閥というのが、人類を支配しようともくろむ者達と、人類の行き先を静観しようとする者達で分かれていることについてだろう。
もちろん、彼ら人間が、警戒しているのが支配派の王たちだ。
だが、静観派の王たちを警戒しないというわけでもなく、同じ人類の脅威として、見られていることに変わりはない。
「"実在はする"。ただ星王が、どのような存在で、どのようなものなのかは、私たちもわかっていない。だから貴様らがいう、静観派に就くとは限らん」
そのイリスから放たれた言葉に、各々の協会長は動揺を隠せずにいる。
最も、その場を仕切っていた少年を含めず…であるが。
「でしょうね、驚きはしません。なので先手は打っておきました」
「……なに?」
「ようは監視役です、支配側からの攻撃を守る為の護衛役とでも言いましょうか」
「おお、流石だ」という祝福の声を上げる者がいる中。イリスは警戒を続けていた。
やはり侮れない。私以外の王ですら、誰が星王となり、導かれたのがわからないというのに。
この男は、"知っている"と申すらしい。
「先日ではありませんが、丁度、天刃の後継者が決まったんです。その子に任せてみようかなと」
「…そいつの名は?」
そして少年は一呼吸置いて、口を開く。
「ミア…ミア・カルミーナ・ロードというのが、彼女の名前です」
――――――
海面に戦ぐ、蒼い月。
虚空に浮く、星よりも目立つそれは、冬の空の淡い青色の輝きを発していた。
それと対をなす、対極の色彩である紅。
そして気にする程でもない、穏やかな風が紅を靡かせ。その持ち主は、輝かしい瞳で月を見上げていた。
「蒼い…月…」