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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第1章 Colorful×Vampire

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Play×Tag×Vampire08

 それからしばらくして、結構離れたところに男の人が姿を現した。アタシはバンの後ろに隠れたまま中腰で窓から男の人を確認する。流れるような金髪を首の辺りで一つにまとめている、金色の瞳の人。手には銃が握られているのが分かった。そうか、今までの攻撃はあの銃からされていたものだったのだ。銃弾もないし音も全くしないから分からなかった。


「正気か?」


 アイゼンバーグが問いかけた。アタシはゴクリとつばを飲み込み、様子を窺う。


「ぶっ飛んでいるかと問われればぶっ飛んでいるかもしれないと答えますが、正気かと問われれば確信を持って正気だと答えられます。なぜなら私は今、貴方とこうしてしっかり受け答えが出来ているのですから当然と言うべきことでしょう。しかしまた違う角度から今の私を見るのであれば正気でないと言われてもおかしくないかもしれません。いつもの私と違うことは明らかな事実です。ならばこう答えましょう。少なくとも私は今の私を正気であると思っています。いかがですか、アイゼンバーグ」


 ……確かに饒舌だ。なかなかここまで長く答えられる人はいないと思う。見た目ではそんなに変わった人に見えないのだが、やはり吸血鬼の世界も見た目に寄らないのだろうか。また疑問が増えた。


「確実に飛んでいるな」


 彼は多分、ニヤリと笑っていることだろう。見なくても声で分かる。


「アイゼンバーグ。貴方は私がぶっ飛んでいると言いますが貴方はどうなんです。私から見た今の貴方も十分に正気ではないと思いますよ。貴方はいつからそんな弱々しく何の役にも立たないただの足手まといな人間の小娘を連れて逃げるようになったんですか。少なくとも私の知る貴方がするような行動でないことは明らかです。そんな人間の小娘などサッサと切り裂くでも血を飲み干すでも何でもして殺してしまえばいいんです。そうすれば身軽になれるでしょう。私はその手助けをしてあげているんですよ。感謝してもらいたいものですね」


 アタシは男の人の言葉に怒りを覚えた。確かに自分でも足手まといだと思うし、アイゼンバーグはどうしてアタシを連れているのかと疑問に思っている。しかしそれをいざ他人にずばずば言われるとさすがにムカツク。それにあの人、絶対におかしい。殺してしまえばいいのですなんてそんなにあっさり言うことか!


「俺はいつでも正気だ。そうだろうハイネグリフ。ホノカをどうこうするのはお前が決めることではない。俺が決めることだ」


 合図だ! アタシは思い切り地面を蹴って走り出した。バンの後ろから飛び出し、廃ビルに向かってダッシュする。


「俺がお前の名を呼んだら建物に向かって走れ」


 アイゼンバーグはあの時アタシにそう囁いてバンの上に飛び乗ったのだった。アタシは彼が合図をくれるのをずっと待っていて、合図があった今、走り出したわけだ。廃ビルまでは五メートルほど。アイゼンバーグも引きつけてくれているし大丈夫だと思っていた。


キュンッ!


「いっ!」


ドサッ


 しかし考えは甘かったらしく、足に痛みが走ってアタシは地面に倒れ込んでしまった。見ると左の太股辺りが何かに切られ、傷口が焼かれていた。血が赤い筋を作る。そのまま視線を滑らせると銃口をこちらに向けた男の人が目についた。冷たい金の瞳がアタシの恐怖を連れてくる。


「外しましたか。意外に足が速いんですね。しかし……」


「走れ!」


 男の人の声を遮って聞こえたアイゼンバーグの声にアタシの身体は反応した。考えるよりも先に立ち上がり、夢中で廃ビルの中に転がり込んだ。文字通り、足の痛みと急に動いて足がもつれたことによってこけて倒れて転がった。その御陰で足だけでなく体中も痛くなった。


「痛ー」


 呟きながら冷たいコンクリートに手をつき、ゆっくり体を起こして座る。髪から滴り落ちる水が冷たい。続いて左足を見ると傷が赤いカーテンを作っていて、スカートが少しだけ焼け焦げていた。めちゃくちゃ痛い。しかしこの傷は何だ。切り傷でなし焼き傷でなし、銃で撃たれるとこんな傷になるのだろうか。それにあの銃、弾がなかったように思える。アタシの見間違いかもしれないが。


ドゴゴゴゴッ


 聞こえた凄まじい音に驚き、振り返った。多分きっとアイゼンバーグがあの男の人と戦っているんだ。廃ビルのどこかにぶつかったんだろうか。コンクリートなどが壊れる音に聞こえた。となれば下は危ないかもしれない。せっかく彼が身を隠せるようにしてくれたんだ。瓦礫の下敷きになってみすみす死ぬことになれば失笑だ。彼は大丈夫、それに相手の人もきっと。だからアタシは自分の心配だけしておこう。


 アタシは床に手をついてゆっくり立ち上がり、丁度近くにあった階段を上ることにした。怪我をした足が痛い。転んだ所為ですりむいた両手も膝も痛かったがこんなことで泣き言は言えない。


 一歩一歩上の階に上りながら考える。廃ビルは砂や埃だらけで、ヒビが入った壁に時折砕けたコンクリートが目立つ。使われなくなってからどれだけ経つのだろう。


 そういえばアタシが買い物に出てからどれだけ経ったのだろう。


 壊れていないことを願いながらスカートのポケットを探り、取り出したスマートフォンを見た。


 二十時五十八分。あぁ、もう二時間になるのか。よくよく確認してみると受信メッセージが十二件もあり、着信が七件もある。それは全て両親と弟からのものだった。弟のまだぁ? から始まり、どうしたの? 何かあったの? 気づいて、という母からのもので終わる。そりゃぁものの十分で往復できるところに買い物に出かけて二時間ほど経っても戻ってこなかったら心配するに決まっている。アタシは苦笑いしながら母のスマートフォンに電話をかけた。


「もしもし!?」


 は、早いな。ワンコールで出るなんて相当心配しているらしい。スマートフォンの前で張りついているのか?


「もしもしお母さん? アタシだけど……」


「アンタ何やってんの!? こっちがどれだけ心配したと思ってるの! 早く帰って来なさい!」


 耳がすごく痛い。スマートフォン越しだが相当な迫力がある。そんなに心配かけていたのかと思うと少しだけ嬉しくなる自分がいる。おかしいと思われるかもしれないが、心配してくれるその心が嬉しいのだ。自然に笑みがこぼれてしまう。こんな私は人でなしだろうか。


「ごめんごめん。帰るから……」


 二階まで上ってまだ上まで行こうと階段に足をかけた時、踊り場に何かが見えた気がした。しかし思い過ごしだったのだろうか。目をこらしてみても何もない。


「ほのか? どうしたの?」


 思い過ごしだ、そうに違いない。


「いや、何でもない。ちゃんと帰るから心配しないで」


「帰れると思ってんだ」


 突然後ろで聞き覚えのある声がして身体が跳ねるほど驚いたアタシは、目を見開いて振り返った。


 そこに、いたのは、紫頭のお兄さん……。深いしわの刻まれた眉間、そして……真っ赤な瞳にアタシが映り込んでいる。アタシの心臓がバクバク叫び始めた。


「ほのか? どうしたの、ほのか?」


「……ごめんまた後で!」


 身体が完全に硬直する前にスマートフォンを耳から離して階段を駆け上がった。お兄さんはそんなに追ってくる気がないのかそれとも遊び半分なのか、後ろを見るとゆっくり歩いて上ってきていた。多分お兄さんはアタシを狙ってここに来ているのだ。アイゼンバーグではなくてアタシを……! お兄さんの目を見た瞬間に分かった。


 アタシへの殺意のこもった目。ゾッと身体が震えた。

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