↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第2章 B×B×Vampire

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/226

Master×King×Vampire07

 目の前が曇ってきた。


 泣きそうだった。なんとか唇を噛んで堪えているけれど、ちょっと目を動かしただけでも涙が零れそうだった。


「アタシはっ、覚えているのにっ! 君のことを忘れた日なんてっないのにっ!!」


 腹の底から声を絞り出した。


 アイゼンバーグは苦虫を噛み潰したような顔をして口を開いた。しかし、何かを口に出す前にハッと気づいた顔をして後ろを振り返ってしまった。


 夜明けだった。空の裾がオレンジ色に光って白み始めている。吸血鬼の王様の時間が終わる。


 アイゼンバーグはすぐさま踵を返した。どこか身を隠せる場所に移動するつもりだ。アタシは思わず呼び止めようと「ア」の口を開けた。でも、彼を太陽の下に晒すことは出来ないという考えが頭をよぎり、言葉が音として外へ出ることはなかった。


 ホントは呼び止めたかった。手を伸ばして捕まえたかった。


 彼はアタシの視界の中から消えた。ビルから飛び降りる直前、ほんの少しこちらに半身を反したような気がしたけれど、それはアタシの願望が見せた虚像だったのかもしれなかった。


 大好きな人に、拒否された。アタシはあの日彼に会った時からずっと彼のことが好きだった。口では酷くて意地悪なことばかり言うけれど、優しい空色の目が好きだった。アタシのことを最後まで見捨てずにいてくれたことや、願いを叶えてくれたことも好きだなぁって思ったのに。この、ローザンヌに対して感じない気持ちをアタシの本心だと自覚して、勇気を出したはずだったのに。


 彼も同じ気持ちなら嬉しいとは思ったけど、そこまでは望まなかったのに。伝わるだけでも良いと思っていたのに。断られたって、吸血鬼として、眷族として傍にいられるならそれでいいと思っていたのに。それさえも許してもらえなかった。拒否されるかもしれないことも、覚悟するべきだったのかなぁ。


 涙が喉の奥に流れてくる。身体が震えて仕方がない。今すぐ叫んで泣きじゃくりたい気分だった。


 背後に誰かの気配が立った。何も言わずとも、それがハイネグリフであることが分かる。彼はアタシとアイゼンバーグが話し終わるまで待っていてくれたのだった。それを知っていながら、アタシはハイネグリフを振り返れなかった。顔を見せたくなかった。


 そのまま下を向いて震えていると、背後の気配が動いた。人影がアタシの左隣を通り過ぎ、目の前に立つとすっと屈んだ。


「ひとまず拠点に戻りましょう。連れていってあげます。おぶさりなさい」


 ハイネグリフは一拍置いてから続けた。


「後ろなら、貴方がどんな表情をしていても私には見えませんよ」


 夜明けの太陽に照らされて金色の髪がキラキラ光っている。細身の背中が大きく見えて、胸が熱くなって、目尻から涙が零れた。


「ふぅぅぅぅっ」


 アタシは後ろからハイネグリフの背中に飛びついた。腕を首に回し、頬を背中にくっつけると涙が溢れ出た。ほんの数秒でハイネグリフの背中がびちゃびちゃになった。それでも彼は何の文句も言わず、アタシを背負うと立ち上がって夜明けの街中をゆっくりと走り始めた。


 爽快な疾走感とゆりかごのような浮遊感。それからハイネグリフの温かい背中が、ボロボロになったアタシの心を少しずつ癒してくれる。ハイネグリフはアタシの涙が完全に止まるまで、アタシを背負ったまま街中を走り続けてくれた。


 ホントに、いいやつ。


 お屋敷に帰って来ると、ハイネグリフは門の前でアタシを地面に降ろしてくれた。アタシはぐしぐし鼻水を啜りながら彼が開けてくれた門から中に入った。変わらず綺麗な庭を抜け、お屋敷の扉の前に立つ。扉を開けようとノブに手をかけると、中から勝手に扉が開いた。


「ホノカ~!」


「わっ! レオ!」


 扉の隙間からレオが倒れ込んで来てアタシに抱き着いた。突然でビックリしたけど、レオが地面に倒れないよう身体を抱いて支えた。


「もうオレくたくた。聞いてよ。アイツ、あの黒の王、しつこいったらなくて、オレ、めちゃくちゃ追いかけ回されてたんだ。捕まったら何されるか分からないし、ホノカから遠ざけた方が良いしですごく頑張ったんだよ。褒めてよホノカ~。オレを甘やかして」


 そうだったのか。ハイネグリフの読み通り、レオが頑張ってくれていたからアタシたちはあの後ローザンヌと遭わなかったみたいだ。


「ありがとうレオ。お疲れ様」


 アタシはレオの背中をぽんぽんと叩いた。レオはホントに疲れているらしく、アタシに体重を預けている。レオは軽いのでどうってことないはずなのに、重たく感じる。アタシも疲れているのかも知れなかった。ちょっと身体が重い気もする。


「はしたないことはやめなさいレオ。小娘から離れなさい」


 ハイネグリフがレオの首根っこを掴んで引っ張った。レオは不機嫌そうな顔でハイネグリフをじとっと睨む。


「なにー? 自分が甘えられないからってヤキモチ? 嫉妬は見苦しいよハイネ」


「誰が嫉妬なんか」


 ハイネグリフの眉間にしわが寄り、空気が一段階冷たくなった気がした。


「私ははしたないからやめなさいと言っただけです。男の貴方が小娘に甘えるなんて、恥を知りなさい」


「ふーん。じゃ、これなら良いでしょ」


 レオの身体が瞬時に縮んで黒くて毛むくじゃらな生き物になった。言わずもがな、黒猫である。レオは少し暴れてハイネグリフの手から逃れるとアタシの服に爪を立ててくっついてきた。アタシはレオが落ちないように背中とお尻に手を当てて抱っこした。ふわふわで気持ちが良く、何よりとても可愛い。頭を撫でるとレオの喉がゴロゴロ鳴った。


「貴方ね……。小娘も自然に享受しないでください」


 ハイネグリフは呆れた声で呟いたが、アタシからレオを引きはがそうとはしなかった。彼にもレオがくたくたに疲れ切っていることが分かったのかもしれなかった。


「ところで、これからどうするの? なんかよく分かんないことになってるみたいだから、オレたちだけじゃどうしようもないと思うんだけど」


 顎の下を撫でてあげると、レオは気持ちよさそうに伸びをしながらハイネグリフに問いかけた。


 アタシにとってだけじゃなく、彼らにとってもイレギュラーなことが起きている。何百年と生きているはずのフェリックスさんでも経験したことのないことが、たった十七年しか生きていないアタシの身に起きている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。