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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第1章 Colorful×Vampire

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Play×Tag×Vampire05

 踏み込んだ男の人が剣でアイゼンバーグの横腹を切りつけた。アイゼンバーグは自分の腹に食い込んだ剣を素手で掴み、すぐさま足を振り上げる。ゴキッ、剣を握っていた男の人の腕があらぬ方向に折れたのが分かった。アイゼンバーグは彼の手から剣を抜くと素早く接近し、彼の首を掴んでそのまま後ろに倒した。男の人の身体が屋根に埋もれ、アイゼンバーグはそこへいつの間にか構えたキラリと光る彼の剣を突き立てた。


 ぐしゅっ。躊躇無く、剣が、胸に刺さり、彼は動かなくなった。ホントに、ピクリとも。


 あまりに衝撃的すぎて今まで普通に息をしていたのに、アタシは息の仕方を忘れてしまった。


 あの人、死んでしまったのか? アイゼンバーグが殺したのか? アタシの目の前で、たった今!? ヒューッヒューッと、どこかから空気の抜ける音がする。思わず口元に持ってきた手が震えている。


「さて、どこかで血を洗い流さないとな」


 またいつの間にかアイゼンバーグはアタシの傍に来ていた。きつい鉄の臭いをさせて、真っ赤に染まった姿で、アタシの横にいる。


「行くぞホノカ」


 アイゼンバーグはアタシを抱きかかえようと真っ赤な手を伸ばしてきた。その手が、あの人を殺したんだ。命を、奪ったんだ。


「嫌!」


 反射的にアタシは彼の胸に両手を突っ張って拒んだ。するとぬるりとした感覚が両手を包み込み、アタシは目を見開いてその手を突き出した胸を見た。深い切り傷が、肉を抉っている。アタシの指は、パックリ割れた肉の間に触れていた。急いで手を引っ込めると自分の手が真っ赤に染まっているのが目についた。まるでアタシが殺したみたいに。血、血が、すごい量の血が……!


「血が怖いのか?」


 ゆっくり視線を這わせるとニヤリと笑う彼がいた。青い目がギラついている。


 理解できなかった。こんなにも傷を負って血を流しているのに、人を殺した後だというのに、笑っている。


 アタシがフリーズしている間に、アイゼンバーグはアタシをお姫様抱っこして空に向かって跳んだ。


 それからどこかの廃ビルに着き、地面に下ろされるまでアタシは放心状態だった。気絶していたわけではない。彼の冷たい胸と血の臭い、それから上下運動のせいで何度も吐きそうになったことを覚えているから。でも、ただ、それだけ。


 アイゼンバーグは地面に下ろされても足に力が入らなくてへたり込んでしまったアタシの腕を引っ張り、立たせようとする。しかしアタシはそれに答えられそうもなかった。自分の身体ではないみたいに全く力が入らないのだ。


「どうした? 俺のことが怖いのか?」


 また、ニヤリ顔。その顔がなぜかすごくアタシの怒りを煽り、血がカッと頭に上ってきた。アタシはアイゼンバーグを下から睨み、大声で叫んだ。


「なんで、なんで笑っているの? 誰かを殺した後にどうして笑えるの? おかしいでしょ!」


 アイゼンバーグは少し目を見開いて驚いたような顔をしてから無表情になった。


「そんなに簡単に人を殺して良いの!? 良くないでしょ! アタシ、君みたいな人嫌い、嫌だ!」


 かつてないほど大きな声を出したためアタシは息切れした。こんなに怒るのも初めてで、なんだか自分が自分でないようだった。だって、だっておかしすぎるのだ。どうしてそんなにも普通に笑えているのか分からない。いや、普通じゃない。笑っていられるなんて普通じゃない!


「人間が吸血鬼の俺に怒鳴るなんてな。だが腰を抜かしたままでは威力半減だな」


 また笑う。さらに自分の頭に血が上るのが分かった。コイツは誰かを殺してしまったことをどうとも思っていないのか! おかしい、間違っている! こんな狂ったヤツの近くにはいられない、いたくない! アタシは腕を掴んでいたヤツの手を振り払い、役目を忘れている自分の足を心の中で叱りつけて、ゆっくり、なんとか立ち上がった。


「足がふらついている」


「うるさい!」


 一喝し、震える両足を両手で押さえたがそれでも震えは止まらなかった。怖い。何も感じさせない無の表情が冷たくて、真っ赤な姿がぼうっと光っているようで。今までの生活では感じることもなかった恐怖がここにある。だってコイツはあの人を殺したんだから……吸血鬼なんだから。でも怖がるままではいけないのだ!


「命はそんなに安くないんだから! あと君も早く帰って傷の手当てをしてもらえ! アタシはもう、帰る!」


 ここがどこだか全く見当もつかなかったが、この際それはどうでも良い。同じ日本なんだからうろちょろしていればなんとか帰れるだろう。とにかくアタシは早くコイツから離れたかった。だからヤツの姿を確認することもなくきびすを返し、覚束ない足取りで歩き出したのだった。


 すると三歩も行かないうちに背中から笑い声が聞こえた。アイツのものらしい高らかで天に響く笑い声に驚き、振り返ってみるとヤツはまるで絵画のような綺麗な顔で、どこか可愛らしく、大笑いしていた。瞬間、ホントにちょっとだけ見とれてしまう自分がいる。そんな自分が不甲斐ない。


「アッハッハッハ! 俺を怒鳴っておきながら俺の怪我の心配するのか? 意味が分からないな」


 腕を組んで俯きがちに笑う、馬鹿にしたような態度のヤツにアタシはムッとして眉を動かした。しかしもう何も言いたくなくて無視してこの場を去ろうとした。それなのに。


「言っておくが、マリウスは死んでない」


 衝撃的な言葉のせいで身体が固まってしまった。


 え? だって、だってマリウスってさっき剣で刺されて動かなくなった人だろう? あの人は……あんなにも怪我をしていて血みどろで、通常心臓のある部分を刺されたのに生きているのか?


「……嘘、ホントに?」


 油が切れた機械のようにゆっくり振り返ると、あぁ、と言って笑っているアイゼンバーグがいた。静寂の中にクックックックと押し殺したように笑う声がこだまする。いや、だってあの人……アタシはこの目で、見たのに。動揺の所為で視界が右に左に動いている。


「なんだ、不満なのか」


「いや、そうじゃないけど……」


 いきなり笑うのを止めるアイゼンバーグ。その顔はやはり嘘を言っているようには見えなかった。つまりあの人は生きている? じゃぁ、それじゃぁ……。


「良かった」


 また足の力が抜けてへたり込んでしまった。あの人、生きているんだ。全然そのようには見えなかったけど、今は信じられないことが多すぎて脳が麻痺しているらしい。彼は生きているのだと、彼の言葉を信じ込んでいる。

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