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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第2章 B×B×Vampire

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Look×For×Vampire06


「見つけました」


 少なくとも何の情報も得られず手ぶらで帰って来ることはないと言ったハイネグリフは、実際にアタシたちが見つけられなかった手がかりを見つけてくれた。


「ふぅん。なるほどね。ハイネはこうやって青の王を追いかけてたわけだね」


 レオは少し不満そうだが、ハイネグリフの功績を認めているようだ。


 アタシとレオは日が落ちるまでお屋敷で待機するつもりだったが、昼間でも手がかりを追うことが出来ると言ったハイネグリフを先頭に再び街に出た。街中を走り回る間、レオはずっと懐疑的な目を向けていたけど、今は屋根の上でハイネグリフが見つけてくれた手がかりをそれと認め、何やら確認し合っている。


「これだけの量ってことは一人じゃないよね?」


「そうですね。誰かは分かりませんが」


 会話についていけない。そもそもアタシには二人が手がかりだと言っているものがホントに手がかりなのかさえ判断出来ていなかった。


「ねぇ、この白いのって何?」


 二人が覗き込んでいるものをアタシも覗き込んだ。


 黒い屋根の上に白い痕がべったりとついている。灰、だろうか。粉っぽい。以前お菓子作りをしようと思って薄力粉を盛大にぶちまけた時に見た光景と似たものがある。


「これは吸血鬼の血だよ」


 レオが教えてくれた答えにビックリした。


「これ、血なの!? この白い粉が!?」


「……吸血鬼が死んだら灰になるのは知ってるでしょ?」


 探るような瞳で見つめてくるレオ。アタシはゆっくりと頷いた。


 知っている。この目で、吸血鬼が……男の子だったものがただの灰になってしまうのを見た。思い出すと恐ろしくなって、震え出した身体に腕を巻き付けてさりげなく震えを押さえた。


「灰になるのは死んだ時だけじゃなくて、こうやって身体を離れた血とか身体の一部とかが太陽の光にさらされた時にもなるんだ。だから、たぶんこれは吸血鬼の血が太陽の光で灰に変わったものだろうって考えられるんだよ」


 これがホントに手がかりだっていうのは分かったんだけど、ちょっと待って今血や身体の一部って言った? 灰になるっていうのにも驚きなんだけど、一部って何?


「一部って、その、何? えっと……抜けた髪の毛とか?」


「髪もそうだけど、腕とか内臓とかもそうだよ」


「腕!? 内臓!? いや、待って! 何で腕とか内臓が身体を離れることがあるの!?」


 普通離れるものじゃないよね、腕とか内臓って!


「もがれたり抉り出されたりしたら離れるでしょ」


 レオは何を言っているんだという顔をしている。いや、違う。そういうことじゃなくて、アタシが言っているのはどうしてそんな状況になるのかってことだ。


「もがれたり抉り出されたりすることあるの?」


「喧嘩とかすればね。サンダーとハイネはよく喧嘩するから何度か腕とか足とか飛んでってるよ。ねぇ、ハイネ」


「レオもでしょう」


 ハイネグリフはため息交じりだ。


「頭おかしすぎでしょ……レオもだなんて……。どうして喧嘩ごときでそんなことになるの……」


 有り得ない。喧嘩の度が過ぎている。それはもう殺し合いだ。どこの世界にただの喧嘩で腕や足を吹っ飛ばす事象があるのか。……吸血鬼の世界か。


 そういえばアイゼンバーグはあの死の危険と隣り合わせの追いかけっこをただのゲームだと言っていた。吸血鬼ってこういうクレイジーなやつばかりなの? 吸血鬼になると感覚が麻痺するんだろうか。


「ちなみに数時間以内ならくっつくし戻るよ。骨を粉々にされるより、綺麗にぶった切られた方が治りやすいんだよね」


「わけ分かんない」


 脳が完全に考えるのを拒否した。もうダメだ分からない。分かりそうもないし分かりたくもない。そういうことが日常茶飯事だから、吸血鬼たちは自分の身体が傷つくのも相手を傷つけるのも平気なんだろうか。繰り返されれば脳が麻痺して感覚も麻痺する。


 吸血鬼の痛覚ってどうなっているんだろう。人間よりだいぶ鈍そうだ。アタシ自身、顔面を強打しても痛くなかったので実感もある。


 次元が違い過ぎる。アタシの常識、いや、人間の常識なんて使えそうもなかった。これからアタシも吸血鬼になるのだから、吸血鬼たちの常識がアタシの常識になるのだろう。慣れていかないといけないんだろうけど、当分の間は無理そうだ。


「二人とも無駄話に区切りをつけなさい」


 ハイネグリフに睨まれた。アタシは心の中ですみません、と謝って口を閉じた。レオはぶすっとした顔でハイネグリフを見る。まずい。また喧嘩になる前になんとかしないと、腕が吹っ飛ぶかもしれない。


「ねぇ、この痕からこの血の主がどっちに行ったか分かるの?」


 ハイネグリフは分かりますと言って頷いた。よし、気をそらすことに成功した。


「点々とした痕が西に延びていますからね。手負いの者が西へ向かったのでしょう。これからこの痕を追って西に行くことになりますが、もしかしたら県をまたぐかもしれません」


「そんなに移動するものなの?」


 県外って相当だ。この辺りは県の中心に近いはずなのに。


「えぇ。これまでに何度かありました。青の王は身体能力が高く、素早いので油断すると随分遠くまで逃げられます。純粋な追いかけっこになると追いつけないので動きを予想して先回りするか、誰かと戦闘中のところを狙うしかありません。日が出ている間に青の王が潜伏していると予想される付近で張るのが良いでしょう」


 ハイネグリフはそうやってアイゼンバーグを追いかけ続けていたのか。頭も足も使って大変だったんだなぁ。


「そうだね。じゃ、行こう」


 アタシが頷くと、まずハイネグリフが屋根を蹴って隣の屋根に移った。どうやらそこにも白い痕があったらしく、ハイネグリフは目配せして再び屋根に飛び移った。


「行くよ、ホノカ」


「うん」


 レオについて屋根を蹴り、ハイネグリフを追いかける。そうしてアタシたちは屋根や道路に点々と残された白い痕を追っていった。


 またもハイネグリフの予想があたり、白い痕は何度か途切れながら隣の県まで続いていた。


「もう痕がないね」


 三時過ぎ。途切れても数十分探し回ったら見つかっていた痕がいくら探しても見つからなくなって、レオが漏らした。


「この辺りで夜明け間近になったのでしょう。潜伏できそうなところを探してきます。レオは小娘と共に近くの拠点の整備をしに行きなさい」


 レオは不機嫌そうな顔をした。たぶんだけど、時々ハイネグリフが命令口調になるのが気に入らないんだと思う。


「別にハイネの命令に従うわけじゃないけど、そうするよ。また後で」


 レオは素っ気なくそれだけ言うと「行くよ」とアタシに声をかけて地面を蹴った。あっという間にレオの姿が小さくなっていく。相変わらず足が速い。どうやら全快したらしい。


「それじゃ、よろしくね」


 一言だけかけて急いでレオの後を追った。


 レオは数百メートル離れたところで足を止めて待ってくれていた。アタシが追い付くとレオは「ホノカ足遅くなった?」と不機嫌そうな声で言ったけど、アタシは「そう?」とだけ返した。


 ちょっと目を細めてそのまま無言で走り出したレオに並んで走る。アタシが隣に並んで走れる程度に加減してくれているようだ。


「……レオとハイネグリフって仲悪いの?」


 何となく気になって、不機嫌そうな横顔に聞いてみた。


「さぁね。悪くないと思うけど。ただちょっと合わないだけ」


 言葉が投げやりだ。


 レオは以前、ハイネグリフのことをサンダーよりは話せるけど合わないと言っていた。確かにハイネグリフとは話をよくするみたいだ。ほとんど喧嘩っぽいけど。サンダーさんが話を聞いていない節があるから、会話が出来る出来ないに限ればハイネグリフの方が話は出来る相手なのだろう。


「ホノカはどうなの? あんまりハイネには警戒してないよね?」


「そうかな。レオやフェリックスさんに対する時と同じ感覚なんだけど」


 サンダーさんはちょっと怖いので外しておいた。


「人間だった時ハイネに銃口向けられたんでしょ? 命を狙われたのに、オレやご主人サマと同じ態度って何かおかしくない? 追いかけっこをしている時に何か仲良くなるようなことでもあったのぉ?」


 じと、とレオが金色の目を細める。


 仲良くなるようなことなんて一つもなかった。むしろアタシは最後までハイネグリフに死を望まれていたし、さっきだってハイネグリフはそういう態度だった。それなのにレオはどうしてそんなことを言うのだろうか。


「何もないよ。アタシ、ハイネグリフには一方的に追いかけられて殺されかけただけで良くしてもらったことなんてないよ」


 真実を言ったのに、レオは疑い気味だった。


「ホノカってたぶんハイネの苦手なタイプだと思うんだよねー。でもこうして協力するのは、何か企んでるからかな。それとも……」


 レオが呟く。


 ハイネグリフが何かを企んでいる? それは一体何に関係したどういうことなのだろうか。逡巡してみたけど何も思い浮かばなくて、アタシはまぁいいかと片付けることにした。彼が何かを企んでいたとしても、アタシにはどうすることもできない。アタシはたぶん、事前に起こりそうなことを阻止できない。起こったことを何とかするくらいしかできないから。

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