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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第1章 Colorful×Vampire
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Play×Tag×Vampire03

「見えているな」


 余裕のある男の子の声に瞼を上げてみると、男の子はお兄さんが突き出した拳を避けて腕を左手でがっしり掴んでいた。彼の握力は相当強いらしく、指が腕に食い込んでいる。


「しっかり目を開けていろ」


 口角がさらに吊り上がる。アタシが彼の不適な笑顔に目を大きくしていると、彼はいきなりお兄さんの腕を引っ張って前に投げた。彼よりも大きいお兄さんの身体が勢いよく飛んでいき、凄まじい音を立てて地面にめり込んだ。片手でって、おい! あんな状態になってお兄さんは大丈夫なのか……?


 少し心配しながら見ていると、お兄さんがむくりと起き上がって頭を振った。そうしてすぐこちらに向かって地面を蹴った。


「ちっ」


 男の子が舌打ちをする。


 あっと言う間に目の前まで来たお兄さんが右腕を振り上げ、アタシの目の前の男の子に殴りかかる。しかし男の子は身体を揺らしていとも簡単に避ける。すぐに避けたところにある頭に左拳が放たれるが、それもひょいと首を傾げるように避ける。続いてお兄さんは左足を高く振り上げた。しかしそれも最低限の動きで避ける。少しずつ後退しながら繰り広げられる戦いを見て、アタシは固まっていた。闇の中の二人の目がギラギラ光っていて、とても怖ろしかったからだ。


 彼らの力の差は何も知らないアタシから見ても歴然だった。一方的に攻めているのはお兄さんだが、避ける彼の動きはまるで遊んでいるかのようだ。それに敢えて攻撃していないような気がする。決してお兄さんが弱いわけではない、彼が強すぎるのだ。


 自分が戦っているわけでもないのに心臓の鼓動を速くして食い入るように二人を見ていると、知らず渇いていた喉が鳴った。


「お前、見えるだろう。問題ないな?」


 余裕綽々と言うべきか、彼は突然アタシに話しかけてきた。その間にも彼の鼻先をお兄さんの手が通過しているのに。


「聞いているのか? 見張れるだろ?」


 彼がアタシの方をちらりと見た瞬間を見逃さないお兄さんは素早く死角に殴りかかるが、やはり当たりそうで当たらない。さっきからお兄さんの攻撃は空を切ってばかりだ。


 あぁ、この分ならアタシの目は必要ないのではないかと思う。いっそこのままアタシを置いて二人でどこか遠くに行ってくれれば良いのだ。しかし彼はこちらの方を向いて、真っ直ぐな目をしてアタシの答えを待っている。


 なぜ。すごく不思議だ。


「答えろ!」


 彼の命令にビクッと身体が震えた。


「……跳んでるとき、絶対放さないで!」


 自分の口から出た言葉に驚いている暇はなかった。アタシの言葉を聞くやいなや彼はお兄さんの頭を素早く鷲掴みにしてそのまま屋根に思い切り押しつけたのだ! 瓦や木材がぐしゃっと音を立てて、なんとも痛そうだった。


 うわぁ、顔面からこんにちはするなんて、流石にお兄さんには同情する。


「吸血鬼の俺に放さないでとはな。また変わったことを言う人間だ」


 声がすぐ近くで聞こえた。彼はいつの間にかアタシの横につき、腕を回してお姫様抱っこしようとしていたのだった。この人やっぱり怖いしお姫様抱っこはもう勘弁なんだけど、それ以外に方法はないんだろうなと思って身体を預ける。よく考えてみればここに置いていかれてもここがどこだか分からないし、屋根の上から一人で下りられそうもない。それにどうやらこの人はアタシを殺す気はないようだ。


 でも、それにしても、あのお兄さんは大丈夫なのだろうか。この人は全く気にしてないみたいだが、頭を屋根に埋めたまま動かないんだけど。状況からして敵であろうが、目の前であんな風にされて心配しないわけではない。


「ねぇ」


 彼がこの場を立ち去ろうとしたときに投げかけると、ぶっきらぼうな声色で何だと返してきた。アタシは下から彼の顔を見上げて質問した。


「あの人大丈夫?」


 すると彼は少し驚いたような顔をしてから、もうお馴染みになってきたニヤリ顔で笑うのだった。何かおかしいのだろうか。


「デイン! 気絶していないだろうな!」


 彼が呼びかける。すると今まで微動だにしなかったお兄さんが、瓦の音をカラカラと立てて頭を持ち上げた。


 生きていた!


「御陰様で」


 ぶるぶる動物のように頭を振り払い、お兄さんはのっそり起き上がる。あんなにすごい音がしたのに全く傷が見受けられず無事そうだが、非常に不機嫌らしく眉間に何重ものしわが寄っているのが見える。しかし傷一つ無いとは、吸血鬼は鉄ででも出来ているのだろうか。


「いてぇー。あーもうこの姿やめ!」


 お兄さんが叫んだ。


 姿をやめるとはどういう事だ?


 アタシが首を傾げていると見る見るうちにお兄さんの姿が頭の方から崩れるように無数の小さな固まり

になっていった。その塊はバタバタ羽根のある生き物で、夜の黒とはまた違った色をしている。


 こいつは、コウモリだ!


 何百ものコウモリが群を作って一直線にこっちへ飛んでくる!


「何あれ何あれ何あれ!」


 アタシの頭の中は軽くパニックだ。だって、人間が、いや、吸血鬼が? どっちでもいいけどコウモリになったのだ! それも無数の! 驚かずにはいられない!


「見た通り蝙蝠だ」


 男の子は呟き、すぐにその場を高く跳んで離れた。


 いや、コウモリだってことは見れば分かる! アタシが言いたいのはそういうことじゃない! どうして人の形をしたものがコウモリになるんだと言いたいのだ!


 コウモリたちは一度アタシたちがいたところで渦を作り、上昇してこちらに向かって来た。暗闇の中、それも高い位置からなのにコウモリの姿がはっきりと見える。その小さな赤色の目でさえ見えているのだ! コウモリが! えぇ、もうそりゃぁはっきりと!


「何あれ、だって吸血鬼なのに……!」


 吸血鬼がコウモリに変わるなんて少なくともアタシは聞いたことがない。人の形をしたものが全然別のものになったり、個体数が増えたり、もうホントに訳が分からない。


「人間は何も知らないんだな」


 彼が馬鹿にしたように言う。吸血鬼の常識が人間も周知の事実とは限らないんだよ!


「機会があったら教えてやっても良いが、今はデインを見ていろ」


 デインを見ていろって、すごい量のコウモリになったあの人を? 全部把握しろってこと? 無理! すでに何匹かいなくなっていてもおかしくない。まぁもとの数が分からないからいなくなっているかも定かではないけど、ホントにどう見ていればいいのか分からない。


「走るぞ」


ぐんっ!


 瞬間、身体が降下したと思うと重たい空気に押される感覚がした。


「ぅあ!」


 男の子が加速したんだ! それも尋常じゃない速さで。


 周りの景色が新幹線の中から見ているようなくらい飛ぶように過ぎていく。いや、もう後ろのコウモリなんかすごく遠くにいて追いついてこられそうもないんだけど。


 しかし不思議なのはすごい速さで走っていて、しかもすごく遠くて暗いのにコウモリの姿が見えたことだ。アタシの目はどうしてしまったのだろう。


「ひぐっ!」


 鼻ではしにくい息を、口を開けてしようとしたがうまく開けられなかった。

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