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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第4章 Remembrance×Vampire

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Foolish×Misunderstanding×Vampire01


 ずっと、ヴェロニカの言葉が脳裏に焼き付いている。


 愛の形を得るために、自分であっても犠牲にするという、白の女王様。


 愛って犠牲のもとに成り立つものなのだろうか? アタシは違うと思うんだけどな。捧げると言うことはあるものの、自分も周りも不幸になるようなことをしていたら本末転倒だと思う。


 それから愛って形を得られるものなのだろうか? だって愛って形のないものでしょう? だから不安になるのだけれど。


「アイゼンバーグ。愛を形にしたいって思ったことある?」


 大きなベッドの上。アタシはアイゼンバーグのお腹を枕にして寝そべっている。アイゼンバーグは時々アタシの髪を梳いたり、変な形を作ったりして遊んでいた。


 ふいにアタシが問いかけても、その手は止まらず。


「――俺が何故絵を描くのだと思う?」


 アタシの髪で謎の芸術作品を作りながら、アイゼンバーグは答えた。


「そう言うってことは、愛を形にするために絵を描いているの?」


「そういう時もある」


 芸術家って不思議。というかアイゼンバーグだから? アイゼンバーグは人を煙に巻くような物言いをよくする。


「あの……」


 アイゼンバーグがよく描いている青い少女のことを聞こうと思ったけれど、声が出なくて聞けなかった。


 愛を形にするために絵を描いている……時もあるとすれば、青い少女の絵はその愛の形なのかもしれない。そうなると、考えられるのは彼が描いた青い少女は彼が昔好きだった人だという可能性が高いのではないかと思ったからだ。


 ずっと思っていたことだから、今更だけれど。でもやっぱり、彼に聞くのは怖い。そうだと彼の口から聞くのが嫌だった。彼が昔好きだった人だとすれば、亡くなっている可能性が高いけれど。だって、今はアタシを愛してくれているはずだから。彼の性格上、愛する人がまだ生きているのなら、彼はその人といるはずだ。


 過去のこととはいえ、彼が何枚も絵に描くぐらい愛した人かもしれないと思うと、アタシの心は荒んでいく。絵のことを考えれば考える程、どんどん自分が嫌な人になっている気がして、アタシは耐えきれなくなって別の言葉を口にした。


「……もう、ここから離れない?」


 アイゼンバーグはアタシを覗き込みながら、「飽きたのか?」と問うた。


「それもあるけど、そもそもこんなに長く一つのところに留まるなんてアイゼンバーグらしくないでしょ。ここにいなきゃいけない理由があるの?」


「さぁ、どうだろうな」


 誤魔化された。ちくりと胸が痛くなる。それから何も話してくれない彼に少しばかりの怒りも湧いた。


「……ここに留まっているのは、記憶を取り戻すため?」


「記憶か。取り戻したい記憶なら取り戻すだろうな」


「じゃぁ、記憶を取り戻したらここから離れる?」


「そんなに此処が気に入らないか?」


「アイゼンバーグは気に入っているの?」


「お前がいれば何処にいても楽園だ」


「っ~~~!!」


 アイゼンバーグってこういうとこある!


 唇にはどこか自信の滲む見慣れた微笑。澄んだ青空のような瞳は穏やかにこちらを見ていて、アタシの顔にまとわりついた髪を払う手は優しい。


「アタシに絵が描けたら今のアイゼンバーグを描いていると思う!」


 アイゼンバーグは揶揄うように笑った。


「一分も筆を持っていられないのにか?」


「三分は持てる」


「完成まで何年かかるだろうか」


「吸血鬼なら瞬く間でしょ?」


 にじり寄って頭を彼の肩に寄せると、彼の顔が近付いてきて唇にキスが落ちてきた。


「お前がいるなら退屈しなさそうだ」


 アタシは堪らなくなってアイゼンバーグに抱き着き、彼の形の良い唇に自分の唇を押し付けた。


「好き!」


 アイゼンバーグが返事をしようと口が開きかけたところで、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


 ――お迎えだ。どうしてこんなに彼と過ごす時間は短いの。


 彼は首に巻き付くアタシを抱えて上体を起こした。


「……行くの?」


 アイゼンバーグは「あぁ」と言ってアタシを横抱きにし、ベッドからソファに素早く移動させた。


 アタシが彼の首に巻き付いた腕を解かないでいると、彼の片方の口角がニヤリと上がった。


「寂しいのか?」


「うん」


 素直に頷く。


「行かないで、アイゼンバーグ」


 アイゼンバーグはアタシの後頭部を手で優しく押さえ、コツンと額を合わせた。


「……すぐに終わる。俺たちは永遠を生きる。そうだろう?」


 アタシは答えなかった。


 黙っている間にアイゼンバーグはアタシの額にキスをして、部屋を出て行った。


 扉が閉まる直前まで見ていたけれど、青い瞳が振り返ることはなく、扉が閉まる冷たい機械音だけが残るのだった。


 ――涙が出そうになった。


 アタシたち吸血鬼は永遠を生きる。数秒も数カ月も数年も永遠の中の一部で、確かに瞬く間に過ぎない。


 でもそれは振り返ったらの話だ。


 永遠を生きている吸血鬼でも、今を生きている。アタシは今、アイゼンバーグと一緒にいたい。永遠を約束されても、今ここにいてくれないなら意味がない。


 アタシはこんなところじゃなくて、彼が行きたいところに行って、アタシの行きたいところに行って、好きなように時間をつかいたい。同じところにいるのに一緒の時間を過ごせないのは嫌だ。


 そう思うアタシはワガママだろうか。アイゼンバーグはアタシの嫉妬は歓迎してくれるけれど、ワガママなアタシは嫌いだろうか。


 アタシは横になって、零れた涙をそっと拭った。

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― 新着の感想 ―
長生きできても一緒に居られなかったら寂しいよね、、
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