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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第3章 Love×Vampire

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Loved×One×Vampire09

 アタシは再びため息を零し、ブランの目の前に屈み込んだ。


「アタシ、ブランのこと好きだよ」


 ブランがパッと顔を上げて瞬いた。「何?」というアイゼンバーグの低い声は無視することにする。


「本当かい?」


 アタシはうなずいた。


「もちろん一番ではないけれど。不思議と憎めないんだよね、アナタのこと。女の子たちのために頑張る姿は嫌いじゃない。むしろ好きだ。どうしようもなく甘ったれなところも放っておけないな、なんて思うよ」


 この場凌ぎの嘘ではない。ホントにそう思うのだ。さすがにアイゼンバーグの前では言えないから口に出さなかったけれど、こんなに求めてもらえるなんて幸せかもしれないとも思う。その他大勢の一人に過ぎなくてもちゃんと愛してくれるというのが分かるから。それに一生懸命アタシの愛をもらおうとしているのがバカすぎて可愛くもあった。


 レオが「ホノカってダメ男が好みなの?」と訊いてきたが、これも無視して続けた。


「前に何番目でもいいから愛してくれさえすればいいって言っていたでしょ? それからブランの愛する人たちの中にはこのお城の外にいる人もいるって聞いた。アタシはここを出てもブランを好きなことはずっと変わらない。だからアタシをここに閉じ込める必要はないよ」


「ホノカは外にいる方が幸せなの?」


 頷いて「そうだよ」と答えるとブランはため息を交えながら「それなら仕方ないね」と零し、言うのだった。


「僕を好きなことを証明してみせてくれたら良いよ」


 証明ときたか。


「何をすれば良いの?」


「キスして」


 アタシは固まって何度も瞬いた。


 キス、ね。うん、やっぱり親子だな。赤い吸血鬼の親子は事あるごとにキスを強請るようだ。まぁ、キスくらいしてあげても良いかな。殺し合いよりマシだから。


「どこでも良いんだよね?」


「唇が良い」


「えぇ!?」


「あ?」


「わーお」


「はぁ」


「愉快愉快!」


「ふむ」


 アタシの驚いた声にみんなの声が被った。すぐ後ろから殺意のような気配も感じる。


 唇ってキスじゃん! いや、キスを強請られたのだけれど! アタシからするって、それはダメじゃないか? アイゼンバーグがいるのに。


「唇は……」


「証明できないの? ホノカは僕に嘘を吐いたの?」


「うっ」


 潤んだ瞳で見つめつつ小首を傾げる可愛らしい仕草をしているが、アタシには分かる。ここで証明できなかったら、ブランは一生アタシを鳥籠に閉じ込めるつもりだ。逃げても追いかけてきて必ずアタシを捕まえる。どんな手を使ってでも。この場をできるだけ穏便に済ませたいのなら乗るしかなかった。


「……分かった。します」


「あ? 自分が何を言っているのか分かっているのか?」


 アタシは抗議してきたアイゼンバーグを振り返った。


「フェリックスさん。アイゼンバーグを抑えていてくれますか?」


「何?」


「承知した」


 片眉を上げて不愉快そうな顔をしたアイゼンバーグをフェリックスさんが後ろから羽交い締めにした。


「放せ」


 アイゼンバーグが青い瞳でギロリとフェリックスさんを睨む。しかしフェリックスさんは「大人しくしていてくれ」と言うだけで、アイゼンバーグが暴れても決して彼を放さなかった。


 ありがとうフェリックスさん。しかもフェリックスさんに倣って黄の吸血鬼のみんなもアイゼンバーグを抑えに来てくれた。右足はレオ。左足はハイネグリフ。そして口はサンダーさん。


「ちゃっちゃと終わらしちゃいなよー」


「キスくらい早くしてやりなさい」


「さすが赤の王! さすがです! 後で私にもしてくれます?」


 こう言われるとなんだかいけないことをしようとしている気分になる。たぶん怒るアイゼンバーグの反応が一般的なのだろう。黄の吸血鬼たちの言動はちょっと貞操観念を疑った方が良いのではなかろうか。とは思うものの、恋人の前で別の男の人にキスしようとしているアタシも同類のような気がするので口出し出来ないのだった。


 さて、と気持ちを切り替えてブランを見つめると、彼は赤い目を閉じた。いわゆるキス待ち顔だ。くそう。ちょっと可愛い。


 軽く触れるだけのキスにしよう。アイゼンバーグがよくしてくれるみたいな小鳥が啄むようなキスなら、ぬいぐるみにしているみたいなものだろう。


 よし。


 アタシは勇気を振り絞り、目を閉じてブランの唇に自分の唇を当てた。


 やった! これで……!


「んん!?」


 すぐ離そうとしたのに後頭部を掴まれて唇を押し付けられてしまった!


くちゅっ


「!」


 油断したところにするりと舌が入ってきてビクッと体が震えた。


 舌が深いところまで! や、やだ。口の中が柔らかいものに蹂躙されている。すごくいやらしい水音が耳の中に響いて止まらない。頭の奥が痺れてくる。おかしい。何が起こっているんだ。こんなはずじゃなかったのに。お、おかしい!


ドゴォッ!


「んにゃっ!」


 アタシの唇を塞いでいたものが突然消えた。


 何が起こったか分からないうえに、めちゃくちゃ深く口付けられたことがショックで半ば放心状態で辺りを見回す。するとアイゼンバーグがブランに馬乗りになって拳を振り上げているのが見えた。バキッとかドゴッとか聞こえちゃいけない音と女の子たちの悲鳴が聞こえることに気づき、頭が覚醒する。


「えっなんで。キスした意味ないじゃん!」


 こうなることを避けるためにブランにキスしたはずなんだけど!?


「そりゃぁ、目の前でコイビトにべろちゅーするヤツなんかぶっ殺したくもなるよ」


 レオが狼狽えるアタシの口元を袖で拭いながらため息を吐いた。


 言われてみれば確かに。アタシだってアイゼンバーグが誰かとキスをしていたらぶち切れるかもしれない。でも、それにしたってこれじゃぁアタシのキスが何の意味も無くなってしまうではないか!


「止めよう! 何としてでも!」


「あのアイゼンバーグを止めるとなると、もう薬でどうにかするしかないですよ」


 冷静にハイネグリフ。


 やむを得ない。


「やるしかない。ア、アタシが撃つから銃貸してくれる?」


「素人に撃たせたらどこに飛んでいくのか分からないので私がやります」


 ハイネグリフはそう言ってサンダーさんを振り返り、ライフルを掲げて言った。


「おい。睡眠弾を寄越せ」


「おやおや。優しいですねぇハイ。しかししかし、自分の銃はどうしたんです?」


「私の銃はあの色ボケ紫頭に壊された」


「ほうほうなるほどなるほど。ん〜。そうですねぇ。渡したいのは山々なんですが、生憎弾が切れちゃったんですよね。故に従って睡眠弾はありません!」


 ハイネグリフが舌打ちして「ROZE -sは単なる弾切れの苦肉の策だったんじゃないだろうな」と低く吐き捨てた。


 ハイネグリフの銃も使えないしライフルの弾もないなんて。


「どうするの?」


「どうにもこうにもなりませんね! どちらか、いえいえ、おそらく赤の王が絶命するまで見守るしかないでしょう」


「そんな!」


「うわぁ。もしかしてサンダーそれ狙ってた? 用意周到なサンダーが弾切らすなんてあり得ないもん」


「そうなの!?」


「まぁまぁ赤の王にはかなり相当痛い目に合わされていますし、自ら差し出したとはいえ私は腕を無くしていますしね。ほんの少しちょっとだけ痛い目に合ってもらっても良いと思いません?」


 にっこり笑うサンダーさんにレオとハイネグリフは苦い顔をした。もちろんアタシも表情を硬くして唾を飲み込んだ。サンダーさんってやっぱりちょっと怖い人だ。


 その後、いつの間にか復活していたデインがお城の保管庫から睡眠弾と銃を持ってきてくれたおかげでアイゼンバーグに睡眠弾を撃ち込むことに成功した。ふらついたアイゼンバーグを引きはがすとブランは気を失っていて、顔も体も無残な状態になっていたのだった。


 女の子たちが泣き喚きながらブランの周りに集まってくる中、アタシは「バカ!」とアイゼンバーグの頭頂に手刀を食らわせてやった。


 ちょっとキスしたくらいで相手を半殺しにするなんてホントバカ。でも、なんだかそれだけ大切にされている気がして嬉しくもあった。愛って複雑だ。


こうして赤の王ブランボリーとは決着がついたのだった。

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