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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第3章 Love×Vampire

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Loved×One×Vampire03


「うそ……!?」


 アタシは思わず口元を覆った。


 目の前に派手なシャツを着た大きな背中がある。獅子のような髪をしたその人は、右手に持ったライフルを右に左に向けて引き金を引いていた。


 間も無くして立ち尽くすアタシに気づいたその人は、金色の目をにっこり細めて大きな声を出した。


「やや!? またまたものすごい格好をしていますね! 青の王の趣味ですか?」


「サンダーさん!」


 アタシは走ってサンダーさんに飛びついた。


「無事で良かった! ホントに! 生きてて良かったぁ!」


 顔を目一杯彼の腹に埋める。頭をぽんぽんと撫でる大きな手の感触に胸がじんとした。


 良かった! 生きていた! ホンットに良かったぁ! さっき上がったばかりの涙が目の端に浮いてきた。


「アタシ、サンダーさんが死んじゃったかと思って。ブランが灰とネックレスを持ってくるから……」


 そうだ、ネックレス。サンダーさんに返さないと。


 アタシは無くさないよう首にかけておいた金のネックレスを外してサンダーさんに渡そうとした。


「これ、サンダーさんの……!?」


 いつも左腕に巻き付けていたので左腕を見た。けれど左の袖には膨らみがなく、布が垂れてゆらゆら揺れているだけだった。


 腕が、ない。


 サァっと頭の先から血の気が引いていった。どうしたのかと聞くのも憚られて目だけで訴える。するとサンダーさんはアタシの手からネックレスを取り、首にかけながら口を開いた。


「これはこれは策の内ですからお気になさらず。死んだふりをするために、自ら自分で捥いだのです」


「自分で!?」


「えぇえぇ。見逃してもらえないか赤の王子と取引したときにズバッとスパッと。今は時間がありませんし、ここに至る経緯はおいおいお話しします。これこのように私はこれっぽっちも全然全く惜しいと思っていませんので、そんな今にも泣きそうな顔をしないでください」


「アタシの所為でしょ? だって」


 人差し指が唇に添えられ、言葉の先を奪われた。サンダーさんは首をゆっくり左右に振る。


「腕の話はこれこれこのくらいにしておきましょう。そのお口は閉じておいてください。さもなければその可愛いお口にナニを突っ込んでお喋りならぬおしゃぶりしてもらっちゃいますよ」


ゴッ


「んぐ!?」


 腹に思い切り拳を食い込ませてやった。不意打ちだったので言い終わる前に釘をさせなかった。


 この状況でこの台詞。ホントにこの人は口を開けばセクハラ発言ばっかりだ。今度本格的にボコボコにして二度と言えないようにした方が良いかもしれない。


「すぐ手が出るところはいつも通り相変わらずですねぇ。ただただ威力は半分以下のようです。なかなか十分な血をもらっていないようですね」


 なるほど。ここに来てからいまいち力が出ないのは血の量が足りないからか。こういう分析力は尊敬できるんだけどな。惜しい人だ。


「とはいえとはいえ、これだけの力があれば何とか乗り切れるでしょうかね。青の王もいますし、マスターはもちろんハイやレオもなんとかかんとか頑張ってくれていますからね」


「みんないるんですか!?」


「えぇえぇもちろん。青の王と黄の吸血鬼みんなでホノカを助けに馳せ参じたのですよ」


 アイゼンバーグをここに連れてきてくれたのはサンダーさんだったんだ。すごい。おそらくアタシとサンダーさんが二人で逃げようとした日から一週間も経っていないのに。こんな短期間では日本に帰って戻って来るなんて無理だと思ったから、サンダーさんはずっとこっちにいたのかと思っていた。一体全体どんな手を使って一週間足らずで往復したのか気になるところだが、それより気になるのはみんなのことだ。


「どこにいるんですか?」


「マスターは赤の王と交渉中です。レオならほらほらあそこに」


 アタシはサンダーさんの指を追って視線を動かし、あまりにも衝撃的な光景に口をあんぐり開けてしまった。


 白い大蛇がホールの太い柱に巻きついていて、真っ赤な口を大きく開いていた。そしてその中にはレオがいて、まさに今鋭い牙に貫かれそうになっていたのである。腕を突っ張ってなんとか耐えているが、ぷるぷるしているので限界が近そうだった。


「レーオー!! ちゃんとしっかりホノカと合流しましたよー!! もうちょっと、あと一踏ん張りですよー!!」


 悠長に大きく手を振り大声で話しかけるサンダーさん。この状況で!?


「るっさいな!! 今取り込み中!! 静かにして!!」


 案の定レオはそれどころではないようで、切羽詰まった声を上げた。お喋りしている場合でも見ている場合でもない。早く助けてあげなきゃ!


「話なんてしてる場合じゃ……わ!」


ドガシャン!


「何!?」


 今度は別の所で何かが派手に壊れる音がした。


 振り向くと壁が破壊されていて、もうもうと塵が立ち込んでいて視界が悪くなっていた。けれど、誰かがいるのが分かる。


「……この色ボケ紫頭ッ!」


 瓦礫の山から聞き覚えのある声がおそらくデインを詰った。


「ハイネグリフ!?」


 声から判断して名を呼ぶと、予想した通りの人物が瓦礫の中から出てきた。


 ハイネグリフは軽く頭を振り、アタシに気づくと「どうも」とぶっきらぼうに言った。


 どうもて。もっとあるでしょうに!


「もっと言うことないの?」


「ありますよ。それはもう数え切れないほど。お望みのようなので後でたっぷり聞かせてあげます」


 怒気をはらんだ目で睨まれた。しまった。数時間お説教コースに突入してしまった。言わなきゃ良かった。


「ちっ」


 どうお説教を回避しようか考えていると、ハイネグリフは舌打ちして場を離れた。間髪入れずに別の人物が瓦礫の山に降り立つ。


 デインだった。


 デインはちらと赤い目をこちらに向け、「良かった」と呟いてハイネグリフを追いかけていった。


 良かった、なんて。赤の吸血鬼がアタシに向ける言葉じゃない。デインはアタシを助けるつもりはなかったはずなのに、どうしてそんなことを言うの? 今だってハイネグリフと戦っているのに。

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