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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第3章 Love×Vampire

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Pathetic×King×Vampire07


 隠し部屋に鍵はなかったことと女の子に声をかけられたことを報告すると、サンダーさんはううんと唸った。


「やはりやはり、一週間で見つけておきたかったですね。赤の王がホノカを自由にさせていたのは一週間の期限付きだったからでしょう」


「そうなんですか?」


「えぇ、えぇ。マスターの血を飲んでいない黒の眷族なら持って一週間ですからね。おおかたホノカが死ぬまでの短い間、存分にこれでもかというくらい可愛がるつもりだったのでしょう」


 嫌なことを聞いてしまった。アタシ、これでもかというくらい可愛がられていたのだろうか。初めて会ったときと態度が変わっていなかったから何とも思わなかった。


「それがこうして弱りもせず、期限を過ぎてもピンピンしているとなると、かなりかなり都合が悪いですねぇ。とはいえとはいえ死んだふりをしてもどうにもなりませんし、困った困った」


 ご主人様の血を飲まなくても灰にならないという生命力はアタシを助けてくれるばかりじゃないということか。黄の吸血鬼でもないのにご主人様の血を飲まずに一週間以上生きていたら、普通の吸血鬼じゃないとバレてしまう。


 アタシは右目につけた眼帯を触った。


「普通の黒の眷族と違うって分かったらどうなるんでしょう」


 今日でちょうど一週間。ご主人様の血を飲んでいない眷族は一週間以内に灰になるということから、アタシは今日の約束の時間まで生きていないと予想されていることだろう。予想が外れたと知ったブランはどういった行動に出るのだろうか。


「そうですねぇ。またまた監禁するかもしれませんねぇ」


「監禁!」


 最悪!


「最初がそうだったので十分十分あり得ますよ。まぁまぁ、赤の王と鍵が見つかるまで妨害禁止、ここを出るのも邪魔しないという約束をしているので、そこそこある程度の自由は保障されるでしょうが。何か策を打ってくるのは絶対、間違いないでしょうね。収集癖のある赤の王のことです。たぶんおそらくホノカが普通の黒の眷族ではないと知ったら、あの手この手で手に入れようとしてくるでしょう」


「あの手この手って何ですか?」


 恐る恐る聞いてみる。監禁の他に何をされる可能性があるのだろうか。


「さぁ。私には赤の王のように監禁したり飼い殺したりする趣味はないので全然全く分かりません。赤の王についてなら、泣く泣くこうして捕まっている私よりも地下牢に居る彼の方が断然詳しいと思いますよ。彼にいろいろ聞いてみるのはどうでしょう」


「確かにそうですね。ちょっと聞いてきます」


 デインには隠し部屋に鍵がなかったことを話したかったし、ちょうど良い。ついでにブランがこれからどんなことをしてくるか予想できないか聞いてみよう。


「ホノカ」


 牢を出たところでサンダーさんに呼び止められた。


「ホノカ。彼は赤の吸血鬼ですよ。すなわち赤の王の仲間です。ゆめゆめ油断なきよう」


 金色の瞳がキラリと光ったような気がした。


「うん」


 アタシは大きく頷いてサンダーさんの牢を離れた。


 四つ隣の牢まで来ると、相変わらず逆さにぶら下がったままのデインと目が合った。


「よぉ。鍵は見つかったか?」


 いつものように快活な笑顔を向けてくる。アタシは首を振りながら出入り口から牢の中に入り、彼の前に立った。


「ダメ。なかった」


「そうか。隠し部屋はどうだった? ホノカはあの部屋を見てどう思った?」


 頭に隠し部屋の情景が浮かんできた。


 純粋無垢な真白な部屋に真白な家具や十字架が並べられた隠し部屋。ブランは溶けそうなくらい甘い真っ赤な瞳で十字架の一つ一つを見つめていた。


「あそこはアタシなんかが踏み入れちゃいけない場所だった。あの部屋はたぶん、ブランの大事な物をしまっておく大切な部屋だったんだ」


 ブランは愛おしそうに、大事そうに、十字架を手に取っていたから。


「大事な物、か。大事な物っつーより、見られたくない物なんじゃねぇ?」


 デインは眉を寄せる。「そうなのかな?」と返すと、デインは「わざわざ隠してるくらいなんだからそうだろ」と吐き捨てるように言った。でもアタシはそうは思わなかった。


「大事な物だから隠してあるんじゃない? 誰にも見られたくないくらい大事にしたい物だから、壊されたくない物だから、隠してあるんじゃないかな。実際ブランはあそこにあった十字架をとても大切そうに扱っていたよ」


「あぁ、あの十字架か」


「そう。ブラン、みんなのことを覚えているんだね。感心した。ただの女の子好きな甘えん坊じゃなかった。あれを見たから、みんなのことを特別だと言っているのはただの出まかせじゃないかもって思えるようになった」


 デインはふぅん、と気の無い返事をした。紅い目が細められている。


「ホノカ、眷族たちの話を聞いたって、さっき彼奴と話してたよな? ここにいる眷族たちや地下に居る人間たちがどういうことがあってここに居るのか、知ってるんだよな?」


 ゆっくり頷いた。女の子たちがそれぞれどういう経緯でここにいるのかは知らないけれど、どういった子たちがいるのかは分かっている。ここにいる女の子たちはみんな、外で悲しい目に遭ってしまった子たちだ。このお城はそういう女の子たちのためにブランが創った場所で、ブランは女の子たちを救い、外界から守っている。


「それを知っても、ホノカはここに居たくないのか? 彼奴のことは好きじゃないのか?」


 デインがこの質問をするのは何度目だろうか。デインはことあるごとにアタシにブランのところに居たくないのか聞いてくる。どうしてだろう。何故デインはアタシに質問してくるのだろう。質問の意図が分からない。けれど、アタシの答えは決まっている。


「居たくないよ。ブランのことは尊敬するし、優しい人だと思うし、ここは思っていたよりすごいところで、素敵なところだ。ここに居ればずっと幸せに暮らせるんだろうなと思う。でも、ここはアタシの居場所じゃない。アタシはね、ここより不便で良いし、好きな人はブランみたいに立派じゃなくったって良いの。アタシはアタシの好きな人とひっそり暮らせるだけで満足なんだ」


 外界から閉ざされた、何でも揃っている大きなお城。毎日疲れない程度の仕事をして、友達と遊んで、好きなことが思う存分できて、心から愛する人に愛される生活。しかも愛する人はお金持ちで優しくて見た目も綺麗で、可哀想な子たちを保護するくらいの人格者。ちょっと、いやだいぶクセのある甘えん坊だけれど、まるでおとぎ話に登場するような王様みたいだ。彼の前なら誰だってお姫様になれる。


 でも、アタシはそんなのは望んでいない。大事に守られなくて良い。好きな人はお金持ちじゃなくて良い。人格者じゃなくて良い。ただずっと一緒に笑い合って生きていける人ならそれで良い。好きな人は対等な立場で遠慮なく言い合える相手が良いんだ。喧嘩することがあっても絶対仲直りしてこの人の傍にずっといたいと思えるような関係を築きたい。ブランではなく、アタシはアイゼンバーグとそうありたいのだ。


 デインはアタシの目を見て何かを考えているようだった。


 ややあって考えがまとまったのか、デインはぽつぽつと口を開いた。


「俺は、今まで彼奴に惚れる女にしか出会ったことがねぇ。だから女はみんな彼奴と居れば幸せになると思ってた。ホノカみたいな女は初めてだから、良く分からねぇ。でも本人が、ホノカがそれがいいってんなら、それが正解なんだろうな」


サァッ


 デインの姿形が溶けて無数のコウモリになったかと思うと、上半身裸のデインが目の前に立っていた。


「ホノカがここを出ることを望むなら、力を貸す。鍵探し、協力してやるよ」


 願ってもないことだった。もし赤の吸血鬼であるデインが手伝ってくれるなら百人力だ。


「いいの!? ブランに怒られない?」


 手伝ってくれるのはありがたい。でもアタシの所為で拷問まがいのお仕置きをされていたようだし、再びそんなことになってしまったら申し訳ない。


「俺のことは気にするな。彼奴は俺が何をしてもしなくても気に食わないってやつだから」


 それは良いのか悪いのか。


「無理しなくても……うわっ」


 頭をぐちゃぐちゃに掻きまわされた!


「ちょ、ちょっと!」


 容赦なく頭を掻きまわす手を掴んで離させ、視線を上げるとデインがにこっと笑った。


「気にすんなって言っただろ。俺には俺の考えがあってホノカに協力するんだ」


「それってどういう考え?」


 首を傾げるとデインは悪戯っぽい顔をした。


「ホノカに俺を好きになってもらおうっていう考え」


「なっ!?」


「そういう考えだったらいいなって」


「なん!? どういうこと!?」


 どういうことかも分からないし、冗談なのか本気なのかも分からなくて眉間にしわを寄せて口を噤む。デインはそんなアタシを真剣な顔つきで見ていたけれど、やがて声を出して笑った。


「可愛いやつ」


「からかってるでしょ」


「怒っても可愛い」


「絶対からかってる!」


「からかってねぇよ。真剣に言ってる。本心だ」


 デインの手が軽く腰に回され、歩くよう促される。アタシが促されるまま歩くと、デインは半開きになっていた牢の格子扉を大きく開けて先に行かせてくれた。吸血鬼ってホントにエスコートが上手い。


「手分けして探すぞ。俺は上から探す。ホノカは地下二階から探してくれ。俺は地下二階にはいけねぇから一人で頑張れよ」


 ぽん、と背中を叩かれた。デインは早速協力してくれるらしい。すごくありがたい。ここはもう甘えることにしよう。


「分かった。頑張る」


「おう。たぶん彼奴のことだから個人の部屋には隠してねぇはずだ。誰かのところから鍵が見つかったら不平等だからな。みんなが使える場所に隠してあるはずだ。そういうところを中心に探せよ」


「了解」


 階段を登りきり、地上に出たところで分かれた。デインは別れ際にまたアタシの頭を撫でてにこっと笑い、凄まじい速さで廊下の向こうに消えたのだった。

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