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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第3章 Love×Vampire

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Pathetic×King×Vampire06

「帰れなくなる? それはどうして?」


「ブランボリー様から離れたくなくなるからに決まっているじゃないの。ブランボリー様は女性の憧れの存在よ。少しでも彼の姿を見て、声を聴いて、目を見てしまったらたちまち恋に落ちて離れたくなくなってしまうわ」


 当然だと言わんばかりの態度にアタシは「はぁ」と気の抜けた声しか出せなかった。


 ブランが世の女性の憧れの存在? 離れたくなくなる? そんな馬鹿な。確かにブランは魅力的だが、全員が全員彼を好きになるはずがない。彼が全員を好きでも、女性たちが必ずそうなるとは限らない。アタシみたいに興味のないやつもいるはずだ。


「今までだって何人か他の吸血鬼が来たことがあるみたいだけれど、誰一人としてここから離れていかなかったそうよ。灰になって死んでしまうと分かっていても、愛するブランボリー様の傍にいることを選んだの。それだけブランボリー様は魅力的ということだわ。あぁ、ブランボリー様のことを考えていたら早く会いたくなってきてしまったわ。待ち遠しい」


 ほう、と熱い息を吐く女の子。


 すごい惚れ込みようだ。ここまで惚れ込んでいれば、他人も自分のように惚れ込むに違いないと考えてしまうのも頷ける。


「ブランのことが大好きなんだね」


「もちろんよ」


 お姫様は大きく頷き、そしてアタシに向かって言った。


「貴女もでしょ?」


「アタシ?」


 またもやさも当たり前のように言われたけれど、アタシはブランに惚れたことはない。


「アタシは別に」


 答えるとお姫様は驚いた顔をした。


 何だろう。赤の吸血鬼はアタシがブランのことを好きじゃないと言うと何故かみんな驚いた顔をする。赤の吸血鬼だけじゃない。地下にいた女の子たちでさえ驚いていた。


「貴女、本当に女?」


「失礼だな」


 返し文句まで同じではないか。お決まりの文句なのだろうか。


「女の子ならみんなブランボリー様を好きになるはずよ。だってあんなに素敵な男の人、他にいないもの」


「そうかな」


「そうよ」


 お姫様は大きく頷く。


「だってあの容姿よ? 艶やかな黒髪に魅力的な紅い瞳と色気のある唇。想像しただけでうっとりしちゃうわ。それに華奢だけれど力が強くて、体力もあるのよ。抵抗できないくらい強い力で抱きしめられたら堪らないし、十分すぎるくらい愛してくださるわ。やだ、思い出しちゃう」


 口元を隠し、頬を赤らめるお姫様。何を思い出しているのかは知らないが、恥ずかしいことなのだろうか。


「あぁ。やっぱりブランボリー様って素敵。一番素敵なところはお優しいところね。ブランボリー様は他の男なんて比べ物にならないくらい優しいわ。他の男たちは誰もかれも野蛮よ」


「そうかな」


 ふん、と鼻を鳴らす勢いで言い切ったお姫様に口を挟んだ。


「黄の吸血鬼のみんなは優しいよ。それに人間だったときに出会った男の人たちもみんな良い人たちだったよ」


 アタシの記憶の中には野蛮な男の人という存在はいなかった。ちょっと意地悪だったりやんちゃだったりする人たちはいても野蛮ではなかった。アイツの顔がちらつきはしたが、アイツは野蛮云々ではなくバケモノの方向に振り切れているので除外することにする。


「……貴女、よっぽど安全なところで運良く育ったのね」


 声がいくらか低くなっていた。眇められた紅い目には恨みがましい何かが宿っている。


「ここにいる女の子たちがどういう子たちか、知っている?」


 お姫様は足を組む。アタシが首を横に振ると、お姫様は言った。


「ここに居る子たちはね、みんな酷い目に遭わされてきた子たちなの」


「酷い目?」


「家出をして行くところがなくなってしまった子。親からの暴力を受けて心も身体も傷だらけになった子。それから、男の人に乱暴された子や、誘拐されて異国に売り飛ばされそうになっていた子もいるわ。ここにいる子たちはみんなそういう子たちばかりよ。私もそう。ブランボリー様に助けてもらっていなければ、かつての私が毎日ずっとそうしていたように、みんなきっと世の中全てを怨んで毎日呪詛を呟いていたでしょうね」


 どこか寂しそうに笑うお姫様。ふと別のソファに座っている女吸血鬼たちを見ると、みんな金髪の彼女と同じような顔をしていた。


 頭を殴られたような衝撃が走った。アタシは彼女の言う通り、比較的安全な温室でぬくぬく育ったと思わざるを得なかった。こうして何事もなくいられたのは本当にアタシの運が良かっただけだ。アタシと彼女、いいや、ここにいる子たちとの違いはたったそれだけだ。たったそれだけの違いで、ここの女の子たちは酷い目に遭わされたのだ。


 辛かっただろう。悲しかっただろう。死んでしまいたいとさえ思ったかもしれない。それを救ってくれたのがブランだった。ブランは彼女たちにとって、紛れもないヒーローなのだ。


 唐突にブランが言っていたことを思い出した。


 ブランはことあるごとに外は恐ろしいと言った。それからここは楽園だと。ここにいればあらゆる状況からみんなを守れると、そう言った。


 ここはブランのためのお城じゃないんだ。このお城はブランが女の子たちをあらゆるものから守るために創られたお城なんだ。


 全てに合点がいった。


 アタシは全てを理解して、ブランの優しさを知ってしまった。


「ここは最高よ。小競り合いはあるけれど、ブランボリー様がたくさんルールを決めて私たちを平等に扱ってくださるから争わなくて済んでいる。外と違ってここには私を傷つけようとする人はいないのよ。それに望めば外でだって暮らせるわ。ブランボリー様が手掛けている会社で働くこともできるのよ。全部、至れり尽くせり。こんな良いところ他にないわ。ブランボリー様がいてくださって良かった。ブランボリー様に出会えて良かった。本当に心からそう思うわ」


 他の女の子たちもうんうん頷いている。みんな心の底からこのお城のことを気に入っていて、心の底からブランに感謝しているのだ。


 アタシにこの子たちを否定することはできない。この城の在り方を否定することもできない。たった一人の人を大勢で愛し、共同生活をおくっているこの場所は、これはこれで一つの形として存在して然るべきなのだろう。


 でも、何故か釈然としない気持ちがわだかまっていて、肯定することもできなかった。だからアタシはただずっと黙って女の子の話に耳を傾けていた。


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