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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第1章 Colorful×Vampire

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Play×Tag×Vampire11

「どこかに転がっている。四肢を全て折っただけだ。小一時間もすればまた追ってくるだろう」


「えっ」


 ちょっと! 四肢を全て折っただけって、だけというレベルではない! 下手をすれば死んでしまうではないか!


「何それ! そんなことしてきたの!?」


 疲れ切った身体で叫ぶのはいささか辛いものがあるが、さすがにちょっとひどすぎないか!? あの剣の男の人もそうだったし、お兄さんまで。もしかして金髪の男の人も相当ひどい傷を負っているのではないか!?


「他にどうしろと。意識を取り戻すまで彼奴はあのままだ。動けなくする他はない。殺すか意識が戻るまで戦い続ける手もあるが……。ホノカ、お前死にたいのか?」


 ……死にたくはない。


 少しでも時間があればお兄さんはアタシを狙った。多分あのお兄さんが意識を取り戻すまでずっと戦い続けることを選択したら、アタシはどこかで命を落としていただろう。それにお兄さん以外の人がアタシを襲いに来たかもしれない。考えると背筋が冷えたが、食い下がるつもりはなかった。


「死にたくないけど、もっと穏やかに解決できる策はなかったの?」


「無いな」


 表情を全く変えずに即答。自分のした行動に絶対の自信を持っているような彼の態度にアタシは少し面食らってしまった。


 あまりにも自信過剰。だって探せばあったはずだ、絶対に。人を傷つけない方法、もしくは傷つけることを最小限に抑えた方法が。それなのにアイゼンバーグは言い切ったのだ。無いと。この状況では四肢を折る以外は無いのだと。


「だって、もっと良い方法が……」


 呟くとアイゼンバーグは目を細くしてアタシを見た。その目にアタシが少しだけすくんでいる間に目にも止まらぬ速さでアタシの後ろに移動し、膝裏と背中に手を回して担ぎ上げる。また、お姫様抱っこ。しかも急に!


「アイゼン……」


「甘い」


 頭上から低い声が聞こえてきた。甘い、その言葉にアタシの胃はギュッと縮んでしまう。金髪の男の人とお兄さんは本気でアタシを殺そうとしていて、アイゼンバーグは少なくともアタシが死なないようにしてくれている……んだと思う。本気で殺気立った彼らを殺さずに止めることは見た目以上に難しいんだろう。それなのに、殺されかけているのに、アタシは敵であるあの人たちを心配しているんだ。自分でもおかしいと思う、甘いと思う。でもアタシは彼らに……アイゼンバーグに、傷を作ってもらいたくなかった。


 アイゼンバーグが地面を蹴って上昇した。アタシは目を閉じて、血の匂いのする彼の胸に顔を押しつけながら傷つかない方法を考える。しかし考えついたそれはどれも生温かった。ひたすら攻撃を避けて逃げるのみ、話し合いに次ぐ和解、その他諸々、それが出来るのならば苦労はないのだろう。こんなに難しいことを考えたのは初めてだ。


 あぁ、どうしてアタシはこんなにも彼ら吸血鬼のことを案じているのだろう。不思議だ。


「ホノカ」


 アイゼンバーグの穏やかな声に導かれて目を開けると、目の前はパイプだらけの世界に変わっていた。どうやら寝てしまっていたらしい。


 ゆっくりコンクリートの床に下ろされ、アタシはぼうっとした頭で辺りを見渡してみる。両腕でも抱えきれないくらい太いパイプから片手で握れるほどの細いパイプがひしめき合う光景は蜘蛛の巣のようだ。……ボイラー室だろうか。


 アタシの視界は一周回ってアイゼンバーグのところまで戻ってきた。


「俺の腕の中でよく寝られたな、人間」


 ニヤリと笑う、彼の顔。その言葉と表情のおかげでアタシの頭は覚醒した。


「吸血鬼なんて別に怖くないから」


 ホントは怖いのだが、吸血鬼である彼の腕の中で眠ってしまったことを考えると恐怖は吸血鬼に対してではないのかもしれない。今も全然恐怖なんて感じていない。少し前までは絶対的な敵だったのにいつの間にかアイゼンバーグは安全、という認識になったのだ。おかしな話だ。


「怖くない、か」


 アイゼンバーグはそう呟いた後に


「眠いのなら奴らのいない今のうちに寝ておけ」


 と言った。今のうちに寝ておけということはこの先寝られないようになるということか? つまりそれはまだ家に帰れないということであり、危険がまだ続くということだ。


 ちょっと待てよ、アタシはいつまでこうしていればいいのだろう。そもそもなぜアイゼンバーグは彼らから逃げなければならないのだろう。


「ねぇ、アイゼンバーグ。どうしてアイゼンバーグはあの人たちに追われているの?」


 武装した人に追いかけられるなんてよほどのことが無い限り有り得ない。しかも彼らの雰囲気は尋常ではなかった。しかし。


「ただのゲームだ」


 アイゼンバーグの答えは至極簡単なものだった。


「は?」


 ゲーム? 信じられない。彼らは剣や銃を持っていて、お兄さんなんて四肢を折られて……。血みどろになったり骨を折ったり、そんな生死の拘わったゲームなんておかしすぎる。頭おかしいんじゃないか? 吸血鬼ってホントに全然訳が分からない。


「俺が日の出まで逃げ切れば俺の勝ち、奴らが俺を捕まえて連れ帰れば奴らの勝ち。俺は今まで負けたことはない」


 ニヤリ、アタシの頭の中で音が鳴る。


「アタシそんなのに巻き込まれたの……?」


 なんだそのデンジャラスな鬼ごっこは。アタシは何てものに巻き込まれてしまったんだ。しかも日の出までとは思いもしなかった。それならアタシは太陽を見るまでアイゼンバーグと共にいなければならないのか?


「アタシはそれまでアイゼンバーグと一緒に……?」


「死にたいなら出ていけばいい」


「嫌」


 死ぬのはごめんだ。だがアイゼンバーグと共に夜を過ごすのも嫌だった。何と言うか、野生の勘と言い表せそうな直感がアタシの中で警告している。なぜかは分からないが。それでも彼から離れれば殺されてしまう。究極の選択だが仕方がない。少なくともアイゼンバーグといる方が安全な気がする。と思っていると、ふと疑問が浮かんだ。


「……吸血鬼って太陽の下に出られるの?」


 アイゼンバーグは日の出と言った。アタシの知る限り吸血鬼という存在は太陽を嫌い、もしくは滅されてしまうので夜にしか行動しないはずだ。しかし彼の言葉を汲み取ると日の光も大丈夫だと言うことにならないか?


「あぁ。奴らはな」


 奴らは?


「どういうこと?」


 聞き返すとアイゼンバーグはじっとアタシを見つめてきた。少しだけ肺がギュッとなる。


「俺は純系吸血鬼だ。血が濃い分、影響は大きく太陽の下には出られない。だがさっきの奴らは、元は人間だ。長く生きていればその分吸血鬼の血は濃くなるが、純系吸血鬼ほどではない。好んで太陽の下に出ない奴は多いが、出られないわけではない」


 ふむ。どうやらアタシの頭の中にあった吸血鬼についての知識というものは半分くらい作り話の世界だったようだ。まぁ人間が勝手に作り上げた幻想の生き物なのだから実際と違っているのは当たり前だろうが。


 ん? 幻想か? こうして吸血鬼は存在しているんだから実は幻想ではない? ……分からなくなってきた。

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