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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第3章 Love×Vampire

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Blood×Rose×Vampire09


ガタガタガタガタ……


 身体が小刻みに揺れている。舗装されていない道を走行している車の中にいるみたいだ。


 あれ、アタシって船に乗っていたんじゃなかったか。


 ぼんやりしていた意識が浮上してくる。


 目を開けると座席の背が見えた。アタシは後部座席に座っているようだ。何度か目を瞬いてみて、ついでにこすってみたけれど、車の中で間違いない。


 いつの間に車に乗り換えたのだろう。アタシには船から車に乗り換えた記憶がまるでなかった。


「おやおや、ようやくお目覚めですか?」


 彼にしては小さな声だけど、普通の人たちよりは大きな声が間近でしてビクついてしまった。どうにもこの人の声には慣れない。


「おはようございますサンダーさん。いつの間にか船を降りていたんですね。全然気がつきませんでした」


 右隣にサンダーさんが座っている。四人乗りなのか車内は狭く、大きなサンダーさんが隣にいると結構な圧迫感がある。それにサンダーさんの足が長すぎるため彼の空間内に収まっておらず、若干こっちにまで流れてきているのでアタシの空間は狭かった。


「誰が車に運んでくれたんですか?」


 自ら車に乗り込んだ記憶がないのだから、当然誰かが乗せてくれたことになる。


「私です。少々乱暴に扱っても起きないのでなかなか驚きましたよ」


「乱暴に扱ったんですか!?」


 ひどい! 眠っていた身からすると運んでもらってありがたくもあり、申し訳なくもある。我儘を言える立場ではないことは分かっているのだが、乱暴に扱うのはひどくないか。


「冗談、冗談ですよ。それはもう丁寧に丁寧に運びましたとも。それにしても、深く深く眠っていたようですね。身体はおかしくありませんか?」


 大げさなので疑わしい。


 サンダーさんを睨んでから、軽く身体を動かしてみて調子を確認した。


 腕や指の屈伸運動に足の可動を確かめ、腰をひねる。それから眼帯も確認したところ、ちゃんと右目についていたのでほっとした。


 変なところはない。頭もスッキリしている。「大丈夫です」と答えると、サンダーさんは「なるほどなるほど」と何度も頷いた。


 サンダーさんも休んでだいぶ楽になったのか、いつもの彼に戻りつつあるようだった。船に乗るまでずっとアタシを掴んでいた手も今は組まれて胸の前だ。


 ずっと様子がおかしかったから心配していたけれど、もう大丈夫そうだ。


 息を吐いて窓の外に視線を投げた。


 真っ暗だから時刻は夜だ。もしかしたら深夜かもしれない。それからここは森、というより山だろうか。登っている感覚がある。木は針葉樹も広葉樹も混ざっていてときどき倒れている物もあるし、雑草も生えっぱなしなので手入れがされていないようだ。おまけに道もないみたいで、車がガタガタ揺れている。ハンドルの切り返しも多いので、木の間を縫うように進んでいるのだろう。


 森の中、というのに既視感がある。ブランのお屋敷は森の中にあった。アタシたちが向かっているところはブランのところなのだから、既視感があって当然なのかもしれない。ブランは人里離れた木の密集地帯にお屋敷を構えるのが好きなようだ。


 そういえば、ここはどこだろう。そもそもアタシはどのくらい眠っていたのだろうか。


「ここはどこですかね。アタシ、どれくらい眠っていたんでしょう」


 過ぎていく木々を見ながら何気なく呟いた。


「ここはフランスですよ。ホノカはだいたい一カ月くらい眠っていましたかね」


「フランス!? 一カ月!?」


 え!? ちょっと待って!? フランス!? 一カ月!? 嘘だろう?


 思わずサンダーさんを振り返った。


「冗談ですよね?」


「いえいえ。冗談ではありません。なんとなんと、貴方は一カ月も眠っていて、その間に私たちはフランスに到着していたのですよ!」


 開いた口が塞がらなくなった。


 なん、えぇ? ホントに?


「国外ってことにはもちろん驚きましたが、そもそもそんなに寝ていたって、アタシちょっとおかしくないですか? 大丈夫なんですか? 吸血鬼ってこんなもんなんですか?」


 どうかおかしくないと言って、と心の中で懇願しながらサンダーさんの解答を待った。


「吸血鬼の一カ月はなかなか短くもあり、そこそこ長くもあります。一分一秒でさまざまなことを成し得るのに、何百年、何千年と生きることができるからでしょう。ですから一カ月眠るというのは短いとも長いとも言えるので、私としては、何とも何とも言いにくいですね」


 ただ、とサンダーさんは続けた。


「ホノカ。ホノカは眠らされていたので、ごくごく自然なことではありませんね」


「アタシ、眠らされていたんですか?」


 身に覚えがない。


「えぇ、えぇ。目の前の赤の吸血鬼に。いえいえ、赤の王の指示で彼女が、と言った方が適切ですかね」


「ブランの指示でマキさんが……」


 呟くとサンダーさんは「おやおや、名前を知るまでの仲になっていたのですね」と笑った。アタシはそれには答えず、運転席でハンドルを切っているマキさんを見つめた。マキさんは無言で前を見つめたままこちらを向こうともしない。


 少しだけ胸が痛んだ。どれだけ仲良くなったとしても、王様と眷族の仲を上回ることはできないと分かっているけれど、少しだけショックだった。


 でも仕方のないことだ。アタシも眷族だから分かる。眷族は王様を裏切れない。そもそも仕えているブランの命令を無視してちょっと仲良くなっただけのアタシに情を移してくれるとは思えないので割り切れた。


 それより気になるのはどうやって眠らされたかだ。


 人間なら薬を嗅がされたり飲まされたりして眠らされるのだろうが、吸血鬼に人間たちの薬が効くとは思えなかったので聞いてみることにした。


「アタシ、どうやって眠らされたんですかね」


「おおかた食事の中にそろそろっと薬を混ぜたんでしょう」


 ということは、あのとき飲んだ血の中に薬が混ざっていたのか。そういえば血を飲んでから突然眠くなった気がする。


「吸血鬼って睡眠薬が効くんですね」


「人間用の薬は全然効きませんが、吸血鬼用の薬ならなんとなんと面白いぐらいに効きますよ。吸血鬼用なので当たり前と言えば当たり前ですが」


「吸血鬼用なんてあるんですか?」


「えぇ、えぇ。そういう研究をしているところがあるそうですよ」


「へぇ」


 ときどき出てくる「吸血鬼の研究をしている人」発信だろうか。強靭な身体を持っている吸血鬼に効く薬まで作っているなんてすごい。吸血鬼用の睡眠薬以外にもいろんな薬を開発しているに違いない。


「一カ月も寝てしまう薬ってすごいですね」


「ふふ。そうですね」


 それきり会話は途切れた。いつもなら何かしら煩く話しかけてくるのに話しかけてこないあたり、サンダーさんはまだ本調子ではないみたいだ。まぁ、静かにしてくれている分には良いのだが、理由がいただけない。


 アタシの血をあげたら元に戻るだろうか。


 ふとそんな考えが頭をよぎった。青の吸血鬼の血を飲めば傷が治るし身体能力も上がる。きっと気分も良くなるはずだ。でも、青の吸血鬼の血は一歩間違えれば彼らを狂わせる。お屋敷でアタシの血の匂いを嗅いだサンダーさんがちょっとおかしくなったことを思い出して、背筋に冷たいものが走っていった。


 ここには赤の吸血鬼であるマキさんもいる。血への耐性がある黄の吸血鬼のサンダーさんはなんとか耐えてくれたけれど、赤の吸血鬼は耐えられないかもしれない。気をつけなければならない。これから行くところは赤の吸血鬼の城に間違いないのだから。

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