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月下のアトリエ  作者: 志茂塚 ゆり
第二章 銀の匙で海をすくう

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おまけレシピ「水難除けのお守り」【挿絵】

 第二章第八話「海の藻屑」及び第二十五話「ハシバミのメダル」では、アミュウがジークフリートのために水難除けのお守りを準備しています。このお守りにはモデルがあります。


 十九世紀末、イギリスの秘密結社「黄金の夜明け団」の首領のひとり、マグレガー・メイザースという人物が、大英博物館に残されていた様々な言語の魔術書の断片を集めて再編・翻訳し、「ソロモンの大いなる鍵」として出版しました。

 実はほかに「ソロモンの小さな鍵」という魔術書もあり、そちらではソロモン王が使役したとされる七十二柱の悪魔の召喚方法について解説されています。ゲーティアともレメゲトンとも呼ばれるこちらの魔術書グリモワールの方が、ファンタジー作品では馴染みがあるかもしれませんね。


「ソロモンの大いなる鍵」の方には、魔術のための道具や儀式のルール、七惑星(太陽、月、火星、水星、木星、金星、土星……天動説の時代ですので)の霊の力を借りる方法などについて体系的に書かれています。

 その中に四十四種の惑星護符があり、本作でアミュウが作製したのは月の第二護符(ペンタクル)です。

 月は「変化」の星。女性的なものの象徴です。潮の満ち引きを支配することから、海と深い繋がりを持つと考えられてきました。月の第二護符は水難除けの力を発揮します。本物の水だけでなく、怒涛のような感情、転じて人間関係のトラブルも鎮めてくれます。


 この護符魔術は、ユダヤの秘儀カバラの系譜であり、そこに秘められた神秘はとてもここで語り尽くせません。「月下のアトリエ」の魔術世界の雰囲気をお伝えすることを目的として、略式の手順をさらっとご紹介するにとどめさせて頂きます。


 アミュウはこの護符を、月を象徴する植物、ハシバミ(ヘーゼルナッツ)の木の板で作りましたが、本来、この護符は銀色で描かれるべきものです。白紙に銀色のインクを用いて写し取ります。月を象徴する金属、銀で作成し、本物のメダルにするもよし。最近はシルバークレイが手に入りやすくなったので、家庭でも十分に作れると思います。



挿絵(By みてみん)



 図案を写し、護符を作成したら、次は護符に力を込める儀式を行います。儀式は、惑星時間(プラネタリーアワー)と呼ばれる、各惑星の支配する時間帯に行われなければなりません。

 月の場合は、月曜日の日の出直後から一時間のあいだ、または七時間後から八時間後のあいだ。あるいは日の入り二時間後から三時間後のあいだ、または九時間後から十時間後の間です。いずれも一時間しかありません。

 月の満ち欠けも重要です。これは水難除けのお守りですが、魔除けの力を増強したいのであれば月が満ちていく期間を、水による害を減少したいのであれば月の欠けていく期間を選びます。第二章の物語時間は新月の夜に始まり、満月の夜に終わっています。つまり、アミュウは上弦の月のうちにメダルを作成したことになりますね。


 まずは、儀式を始める前に部屋を掃除し、入浴し着替えを済ませておきます。


 惑星時間が始まったら、儀式の場となる魔法円を作ります。円形のクロスでも良し、紐などを円形に整えて置くも良し、大きな紙などに魔法陣を書きうつして敷くも良し。儀式を行う「場」を設定するのです。魔法円を準備したら、円の中に入ります。


 そして真東を向いて、五芒星を手刀で切り、その図形が燃え上がるのをイメージしながら「東の監視人の名において、われ東の門をひらかん」と唱えます。

 次に南を向いて五芒星を切り、「南の監視人の名において、われ南の門をひらかん。」

 次も同様に、西を向いて。最後は北。

 これで魔法円が開かれました。四つの五芒星を描いたら、真東に向き直ります。


 次に護符を聖別(対象を魔術的なものとして使うための儀式)します。

 香(乳香フランキンセンス没薬ミルラ白檀サンダルウッドなど)を焚き、その煙に制作した護符を七回くぐらせます。月の護符なので、第一章冒頭でアミュウが行っていたように、満月の光を一晩当てておくという方法も有効でしょう。

 これで護符の準備も完了です。


 ここまできたらいよいよ本番です。いよいよ、護符に惑星の力を注ぎ込みます。

 瞑想で頭と心の中を空っぽにし、呼吸を整え(リズムは四つ数える間に丹田から息を吸い、二止め、四吐いて、また二止める)、気を練ります。

 東を向いて、両手の間に護符を持ち、気を練りながら願掛けをします。銀の光が頭上から降り注ぎ、手から護符へ流れ込んでいくイメージです。自分の中が空っぽになり、ふっと我に返る瞬間が来たら、願掛け終了です。


 最後に、魔法円を閉じます。

 まずは東を向き、手刀で五芒星を描き、先ほどイメージした星の炎を消していく様を想像しながら、呪文を唱えます。

「東の監視人に感謝しつつ、この魔法円を閉じん。永遠に定められし汝のすみかへ帰るべし」

 同様に、南、西、北と続けて、最後に香の火を消します。

 これで儀式は終わりです。魔法円を片付けます。


 願掛けの済んだ護符は、いつも持ち歩く鞄のポケットの中など、外から見えない場所に大切にしまいます。そして、この護符の存在を忘れてしまうのが肝要です。護符を意識しているうちは、護符に込められた念はいつまでも表層に浮かび続けたままです。忘却によって深い無意識のうちに沈めていく必要があります。


 ……。


 と、ここまで書いておいて、筆者自身は惑星護符の魔術を試したことはありません!( ´∀` )

 ですが、ファンタジー創作のために色々と関連書籍を読んできた身からすれば、惑星護符魔術は、時間的な制約が厳しいものの、道具類も手に入りやすく、初心者でも取っつきやすい部類だと感じます。

「小説家になろう」で執筆している方々なら、知性を司る水星の第三護符がおすすめですが、ここではご紹介するにとどめさせていただきます。ご興味がありましたら、どうぞご自身で調べてみてくださいね。



―――(第二章第二十五話「ハシバミのメダル」より)―――――――――――――

 アミュウはテーブルに何かをコトリと置いた。ジークフリートはそれを指先で拾い上げる。銀色の組み紐の先に、木製のメダルがくるくると回っている。

「水難除けのお守りよ。二度あることは三度――訪れないように」

 アミュウがその護符をジークフリートの首にかけようと背伸びをすると、ジークフリートはぎこちなく身をかがめた。


 新月のみちびく 縄をたどれ

 見上げれば ポラリス

 不動の星の投げかける 運命の網は

 怒涛の怒り 悲しみ 恐れ 寂しさから

 あなたをすくい上げるでしょう

 縄をたどり森へ帰れ はしばみの木のもとに


 アミュウの言霊の力が流れ込み、軽かった木のメダルがほんの少しの熱と重みを得た。不思議な温もりがジークフリートの胸に伝わり、やがて元通りに冷めた。ジークフリートはハシバミのメダルに指先で触れた。

「……なんか、小っこいのに、母ちゃんみたいだな」

 ジークフリートの視線は、自分の胸元を見ているようで、とても遠くを泳いでいるようでもあった。

「ガキの頃、母ちゃんにマフラーを巻いてもらったときみたいだ」

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