おまけレシピ「若返りの美容水」【挿絵】
第一章十二話「雨降るキャンデレ・スクエア」で、アミュウがエミリ・マルセルに納品した「若返りの美容水」には、モデルがあります。その名も「ハンガリアン・ウォーター」といい、十四世紀、当時七十代と高齢であったハンガリー王妃がリューマチを治療するために使ったところ、みるみる若返り、隣国ポーランドの二十代の王子から求婚されたという逸話があります(諸説あります)。
比較的手に入りやすい材料で簡単に作れますので、レシピをご紹介します。ただし、アルコールを使いますので、敏感肌の方はご注意ください。また、防腐剤を一切使用しておりませんので、使用に際して違和感(発疹など)があった場合にはすぐに破棄してください。なお、本レシピを参考に作られた化粧水でトラブルが生じた場合の責任は、筆者は負いかねます。どうぞご自身の責任のもと、ホームメイドをお楽しみください。
【材料】
・ローズマリー 10g
・ペパーミント 10g
・ローズペタル 5g
・レモンピール または オレンジピール 5g
・ウォッカ 300cc
または無水エタノール100ccと精製水200ccを合わせたもの
※ ハーブ類は乾燥時の重さです。
※ エタノールを使う場合は「無水」を選んでください。よく似た製品に「消毒用エタノール」がありますが、成分も濃度も異なります。
【作り方】
1.密閉できる耐熱性ガラス瓶を煮沸消毒します。あるいは、分量外のアルコールでガラス瓶を拭き取り、自然乾燥させます。
2.ガラス瓶に材料を全て入れ、ハーブがアルコールに漬かるよう攪拌します。
3.一日一回くらいのペースで振り混ぜながら、冷暗所に一か月ほど置きます。紅茶よりも若干暗いぐらいの色合いになります。
4.コーヒーフィルターなどで濾して出来上がりです。冷蔵庫で保管すれば一年くらいもちます。
【使い方】
水で10%程度の濃度に薄めて、顔や全身に塗布します。全量を薄めてしまうと保存が効かなくなりますので、一週間分ずつ薄め、希釈液は冷蔵庫で保管してください。また、一週間を過ぎた希釈液は、もったいないですが破棄してください。水は意外なほど早く傷みます。
かなりさっぱりした使い心地です。しっとりとした使い心地がお好みの場合は、保湿成分としてグリセリンを加えるのが手軽です。グリセリンはドラッグストアで入手できます。高濃度で使用すると、かえって肌の水分を奪ってしまいますので、加える場合は全体の10%未満となるように調整してください。なお、話中でアミュウは蜂蜜を加えていますが、やや管理が難しくなります。
筆者がこの化粧水を作っていたのはかなり昔になりますが、スーッとした良い香りの、癖のないローションに仕上がります。手作り化粧水は管理に気を遣いますが、自分の手で色々とアレンジできるのが楽しいところです。筆者はラベンダーを加えて楽しんでいました。また、精油を使えばもっと手軽に良い香りの手作り化粧水を楽しむことができます。
また、材料や希釈過程をご覧いただければお分かりのとおり、化粧水の成分の大部分が、水です。こまめに薄めるという手間さえ惜しまなければ、手作り化粧水はかなり経済的です。
ご興味がありましたら、魔女の手仕事に思いを馳せながら、是非ゆったりとした気分でホームメイドを楽しんでください。
―――(第一章十二話「雨降るキャンデレ・スクエア」より)――――――――――――――――
アミュウは帆布の鞄から片手におさまるほど小さな茶色い瓶を取り出した。若返りの美容水と銘打った美容液だ。
「あら、ずいぶんと可愛らしいのね。ひと月分とお願いしたのだけど」
「これはエッセンスです。水で薄めて使ってください」
アミュウは片手を皿の形にしてみせる。
「大体、これくらいのお水に、美容水を一滴たらして混ぜれば充分です。濃すぎるとかえってお肌が荒れます。朝晩使って、ちょうど一か月分くらいの量です。前回はとりあえず一週間分ということだったので、薄めてお渡ししましたが、水を入れると早く傷みます。その都度薄めてくださいね」
エミリは小瓶の蓋を開けて、中のにおいをかいでみた。
「ああ、いい匂い。ツンとするけど、変に沁みないで気持ちいいわ。一体何が入っているかしら」
「ローズマリーと薔薇の花びらをウォッカに漬けこみました。それにハチミツと、ほかにもハーブがいくつか」
「そう、この香りはローズマリーなのね。それにウォッカ。これ、すごく良いわ。お肌にハリが出てきたもの」




