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月下のアトリエ  作者: 志茂塚 ゆり
第四章 花の香は時ならずして

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おまけレシピ「香水」

 第四章に登場したドロテ・モイーズは、亡き父の跡を継いで香水工房を切り盛りする調香師。人騒がせな彼女が作った香水は、他の誰にも作れないような風変わりなものでした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「どうぞ。においを嗅いでみて」

 アミュウはその紙片を受け取り、おずおずと顔の前に持ってきて、スン、と鼻を鳴らした。


 鼻の奥へ飛び込んできたのは、花の香りのようであり、別の何かでもあるような、アミュウがいまだ経験したことの無い香りだった。その香りは、例えば誰かに抱きしめられるとか、嵐の風雨に殴られるとかいったことと同種の、ひとつの刺激的な体験だった。うっとりと陶酔するような甘さがあるのに、棘だらけの灌木のような攻撃性も、雨上がりの曇天を映す水たまりのような侘しさも併せ持っている。それは香りでありながら、奇妙な粘性をもってアミュウの鼻にまとわりついた。

―――(第四章第十話「ドロテ・モイーズ」より)――――――――――――――――


挿絵(By みてみん)


 香りとはいったいなんなのでしょうか。

 鼻から吸い込まれた香りは鼻腔上部の嗅上皮にある嗅細胞にキャッチされ、嗅細胞の嗅覚受容体から電気信号となり、嗅神経を伝って嗅球へ送られます。そして海馬や偏桃体のある大脳辺縁系や視床下部を通って、脳下垂体へと情報が伝えられます。そして自律神経系や内分泌系、免疫系に作用します。これが「香り」を心身の健康を保つ手段とするアロマテラピーの原理です。


 さて、海馬といえば記憶を司る部分であり、偏桃体といえば情動を司る部分です。もちろんほかの感覚情報も大脳辺縁系へ伝達されますが、こと嗅覚情報は到達速度が最も速いそうです。そのため、記憶や情動との結びつきがもっとも強いと言われています。ある特定の香りによって昔の出来事や風景、感情を思い出すということがありますが、こういったメカニズムによるものであると考えられます。


 ドロテは「香りを味方に付ければ、自分に自信が持てるし、他人からの悪意をやり過ごすことだってできるし、逆に、他人から好意を向けてもらうことだって、思いのまま」と語っていましたが、実際、香りにはそのような力が宿っていると筆者は考えています。


 ココ・シャネルはかく語りき。


 ――Une femme sans parfum est une femme sans avenir.(香水をつけない女性に未来はない)


 筆者自身は化粧もせず、そしてもちろん香水もつけずに、子どもたちを引き連れてオムツを買いに近所のドラッグストアへひとっ走り……なんてこともザラですが、香りというのはそれだけ女性の魅力を引き立てる大きな要素であるということなのでしょう。精進せねばなりません。もちろん男性にとっても、時には女性以上に、香りは大切な要素となりますね。


 香りの力を味方に付けたいとき、香水を身にまとったり、シャンプーを吟味したり、柔軟剤を変えてみたりすることがありますが、香りそのものを自分でアレンジできたらどんなに楽しいでしょうか。

 既存の香水を組み合わせるというテクニックもあれば、レイヤードフレグランス――まさに重ね付けするというコンセプトのもと開発された香水もありますが、ここでは、天然香料である精油エッセンシャルオイルを使って一から自分で香りを組み立てていく方法をお伝えしたいと思います。


 精油は植物のエッセンス。肌に合う合わないは個人差がありますので、初めて精油を使用する際は、種類ごとに都度、パッチテストを行ってください。ホホバオイルなどのキャリアオイル10mlに精油を一滴たらし、腕の内側などの柔らかい部分に塗布して、二十四時間様子を見ましょう。赤くなったり、かゆみなどの異変が生じなければ大丈夫です。

 ほか、精油の禁忌については後述しますので、どうぞ最後までお読み下さい。


 それでは、香水の作り方を記してまいります。


【道具】

・ガラス製の小さなビーカー

・攪拌用つまようじ

・百均のスプレーボトル(15ml用などの小さなアトマイザーで充分)

・小さじ


【材料】

・お好みの精油

  オー・デ・パルファン(賦香率8~12%) 18~27滴

  オー・ド・トワレ(賦香率4~8%) 9~17滴

・無水エタノール 10ml


※ アルコールがきつい場合は、無水エタノール10mlを、無水エタノール8ml+水2mlに置き換えると、少し当たりが柔らかくなります。


【作り方】

1.無水エタノール小さじ2をビーカーに入れる。

2.お好みの精油を1に加えて混ぜ合わせる。

3.アトマイザーに移し替える。


 簡単でしょう?

 作り方そのものは計って混ぜるだけ、本当に簡単なんです。けれども香りの世界は奥深く、何度調香を重ねても新しい発見があります。ご想像のとおり、どの精油をどういう割合で混ぜ合わせるかがとても大切です。


 香りの印象の区別として、ハーバル系、柑橘系、フローラル系、オリエンタル系、樹脂系、ウッディ系、スパイス系、といった大まかな体系があります。

 同じ種類の精油同士のブレンドはまとまりやすく、また隣り合った系統同士も相性が良いとされています。


 また、揮発速度による香りの分類として、つけはじめの数分~30分程度においたつトップノート、2~3時間香るミドルノート、半日~一日程度残るラストノートがあります。これらをうまく組み合わせることで、時間経過とともに移ろう立体的な香りを演出することができます。

 トップノートには柑橘系精油や一部のハーバル系、ウッディ系の精油が、ラストノートには樹脂系精油やオリエンタル系の精油があり、多くの精油はミドルノートに分類されます。


 これらを考慮しつつ、どんなバランスで精油を配合するかが調香の肝となります。


 シンプルなブレンドをいくつか挙げてみましょう。


【シトラスノート】

●フレッシュな柑橘の香り

 レモン+ライム+薄荷=(2:1:1)


●ビターな柑橘の香り

 レモン+ライム+ベルガモット=(2:1:1)


 レシピだけを見れば似たようなブレンドですが、驚くほど印象の異なる香りとなります。どちらもトップノートのみのブレンドなので、あっという間に香りが飛んでいきます。気分転換向けのレシピです。


【フローラルノート】

●ハーブ調の花の香り

 ラベンダー+ベルガモット+クラリセージ=(3:2:1)


●陶酔感のある花の香り

 イランイラン+ローズゼラニウム+ベンゾイン=(1:2:1)


 フローラルノートの精油はとても希少で、ローズやジャスミン、ネロリといった精油はそれなりに高額ですが、ここに挙げた精油はリーズナブルな価格で手に入れやすく、おすすめです。


【ウッディノート】

●ぬくもりのある森の香り

 シダーウッド+檜+クローブリーフ=(2:2:1)


●雨上がりの森の香り

 シダーウッド+檜+ベチバー=(3:2:1)


 思わず深呼吸したくなるような、性別を問わず楽しめる香りです。リラックス効果が高く、香りが長持ちします。


 筆者が最近作った香水のブレンドは、こんな感じです。


メイチャン 3滴

イランイラン 5滴

フェンネルスイート 2滴

クローブリーフ 2滴

クラリセージ 1滴

ベンゾイン 1滴

パチュリ 1滴


 トップノートでメイチャンが香り、10分程度でスパイシーなイランイランへと移り変わり、ラストはベンゾインの甘い香りが持続します。時間経過によって雰囲気ががらりと変わる香水に仕上がりました。


 アルコールが肌に合わない方は、無水エタノールの代わりにホホバオイルなどのキャリアオイルを使ってみてください。香り立ちの穏やかな香油が出来上がります。ネットで購入できるロールオンタイプの容器を使うと便利です。


 最後に、精油の禁忌についてお話しします。

 精油は心身に様々な働きかけをしますので、妊娠中や授乳中、生理中などに避けるべき精油があります。特に妊娠中に禁忌となる精油の種類は多く、使用頻度の高いところでは、オレンジやラベンダー、サイプレス、クラリセージ、イランイラン、ローズマリー、ローズ、ゼラニウム、マージョラム、パルマローザ、ジュニパーなど。

 これらの香りを楽しむだけなら問題はありませんが、肌に直接つける香水は、心身へ大きく影響します。デリケートな時期には精油の禁忌について予めよく調べておくことが肝要です。


 また、一般によく使われる柑橘系などの精油には、紫外線に当たることでシミになる光毒性という作用があります。ベルガモット、グレープフルーツ、ライム、レモン、柚子、ネロリ、アンジェリカ・ルート、クミン・シードなど。これらの精油を含む香水を使ったあと十二時間は日に当たらないようにするか、しっかりと衣服に隠れる部分に使うなどといった注意が必要です。

 光毒性があるのは主に柑橘の果皮に含まれる成分ですので、たとえばビターオレンジの葉の精油であるプチグレインに光毒性はありません。また、レモングラス、シトロネラ、メイチャン、メリッサなども柑橘様の香りがしますが、柑橘植物ではありませんので、やはり光毒性はありません。

 いくつかの柑橘系精油に関しては、光毒性のあるフロクマリンという成分を除去した、フロクマリンフリー(FCF)の精油も流通しています。少し香りが変わるようですが、こういった製品を利用するのも光毒性の影響を避けるためのひとつの手段です。

 なお、直射日光を避けるべきだというのは、一般に販売されている香水についても同様です。からだのどこに香水をつけるべきか、季節も考慮しながら決めるのがよいでしょう。


 いかがでしょうか。香りの世界は奥深く、あれこれ精油の相性を確かめているときの気分は最高です。アロマにご興味がありましたら、是非お試しください。

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