荒野
前回に引き続きお願いします!
はあ 、と誰かの溜息が聞こえた 。
いや、これは誰が言っても可笑しくないだろう。
……あれから丸二日 、まともな食事も取らずこの荒野を歩いているのだから。
「……あーつーい〜...、喉乾いたあ〜。」
そうだらりとした口調で呟いたのは 、侍の背におぶされた蒼髪の、桜色の着物の少女、シイラだった。透き通る蒼髪を双団子に纏め 。それでも余った髪を肩下にまで下ろしている。
芽吹き始めた若菜の色を秘めた大きな瞳と 、機嫌が悪そうにむすっと膨れた小さな頬。
何処からどう見ても 、それは12歳程の幼き少女の見た目であり 。
風に靡く黒髪を一つに結い 、編み笠により表情は一切見えぬ侍こと 、梟-ふくろう-は 。「騒ぐな 。余計暑くなるであろう。」と冷たく言い放つと 。
「ひどいひどい!!だって暑いんだもんー!」とぎゃあぎゃあ騒ぐシイラの変わりように。
"しまった..."と自身の失態を嘆く様に 。
静かにがくりと肩を落とし。
「あはは... 。シイラー? もう少しだけ我慢してくれる? ね? もうちょっとだから。」
その言葉を聞いたメルムは 、苦笑いを零すと 。おんぶされたままむすっとしたセイラの方を向き 首を傾げると。上記の言葉を問いかけながら 、花の様に柔らかく微笑みかけた。
「メルムがそう言うなら... 。」と 、まるで母親に叱られた子供の様に 。先程の姿が嘘かのようにしゅん、と子犬の如き顔に変わると。
「遊びの時間は終わりみたいよ、皆。」と前方に居た 、紅髪の女性が、そう言葉を綴った。
「此処から...そうだな。2km位先に集落がある。」
隻眼の彼女が見つめる先には、まるで雲がそのまま降りたかの様な、深い霧がかかっていた。到底自分には集落など見えないセイラは「なんか霧がすごくて見えないけど...ほんとー?」と相変わらずぐうたらした声でそう返し 。
確かに 、何かが掠れていく様な。薄い空気の香りがする 。
盲目の少女 、メルムは。音と香りで全てを判断する 。これは紛れもなく 、濃霧の香りだ。
「あたしが嘘を吐くと思って?」
と夕日の柔らかな光を背に 。
翡翠の瞳を細めて言葉を放つ彼女の姿に 。
セイラと梟は、思わず息を飲んだ。
そしてその声を聞いたメルムは 。口角をあげると、「絶対に。思わない。」とにっこりと笑った。そして「だって...」と言葉を続けると。
「ロウナーに見えないものはない 、そうでしょ?」
と随分と強気に 、そう問いかけた 。
自分の瞳を信じてくれている 、白長髪の彼女に。
満足気に「嗚呼、」と言葉を返すと 。
紅髪の 、隻眼の瞳と義足の身体を持つ狙撃手。
彼女 、ロウナーは。
"人よりも見える優れた瞳"を誇る。
例え見える瞳が一つになろうが 、その力は変わらない。世界のあらゆる者が喉から手を出すほど欲しがる 、選ばれた逸材なのだ。
その瞳を彼女が誇りにしている事を理解しているメルムは 、敢えて強気に問い掛けたのだ 。
これは、彼等を誰よりも理解している彼女で無くては 、不可能な事だ。
ロウナーはさて、と腰に手を当て小さく呟くと 。
「目的地も決まった所で 、今日はこの辺で野宿しようか。」と疲れているであろうシイラに向け、そう優しく提案をした。
「やったあ!!」
「じゃ、朝無 。お願いね。」
無邪気に喜ぶシイラの顔を見て 、まるで母親の様な表情を送ると 。そう 、誰も居ない筈の場所に 、声を掛けた 。
「ヴァルテ(肯定) 形態変化致します。 」
すると 、地面からしゅるりと歪な影が出現し 。
そう流暢な人間の言葉を 呟くと 。
ぐるりぐるりとその場で旋回をし 、風と共に辺りに散らばり 、何かを造形し出すと 。
その体の形を変え 、闇より深い黒のテント一式へと変化をした。
「わーい!! 休むぞー!!!!」
と嬉しそうに真っ先に駆け込んだセイラの姿に 。
「人の苦労も知らないで...」と溜息混じりに呟き 、首をゴキゴキ、と鳴らす梟 。
そのあまりにも哀れな姿に 、メルムは苦笑いをすると「お疲れさま。」と背中をぽんっと叩いた 。
「...皆様 。旅路の疲れを癒して下さいね 。」
と、優しく木漏れ日の様な声を掛ける朝無に 。
「...アンタもよ、朝無 。朝からずっと能力使って見守ってくれてたでしょ。」
「バレてないとでも思った?」と得意気に目を細めるロウナーの姿に 、「...これはこれは、お恥ずかしい。」と、珍しく呆気に取られたロウナーは。苦笑い気味に言葉を返した 。
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