ヒロイン、のんびり旅をする。
パトラくんとの旅を始めて、早3日。
この3日間の間で、いくつか分かったことがある。
まず、パトラくんについて。この子は多分、自己申告よりはいくらかレベルが高い。と、思う。
この世界でレベルっていうのは、経験値みたいなふんわりしたもので自動的に上がるものじゃない。街で試験を受けるか、一定の条件を満たすことで昇級が認められるシステムだ。
私は実戦で、例えば『レベル20のモンスターを10匹倒す』とか、『60種以上の呪文を使える』とか、そういう方法でレベル上げをやって来た。
けれど、パトラくんは試験でしか昇級をしたことが無いと言う。剣士であれば大抵、自分より1つ上のレベルの人間と戦い、勝利を収めることでレベルが上がる。
つまり、実戦昇級は対モンスター戦、試験昇級は対人戦になるのだ。パトラくんはこの通り、遠慮がちな性格もあって、対人形式の試験昇級は合わなかったんじゃないだろうか。
なんてことを考えていたら、パトラくんの戦闘が終わったようだ。
……違うよ? 年下に戦闘押し付けて、何もしてないでぼんやり見てた訳じゃ無いんだよ? この辺りはモンスターも弱いし、ちゃんと危なくなったら助けるつもりだったし、パトラくんのレベル上げも兼ねてこういう形を取っていただけで、決して、決して……。
「ユーリさん、終わりました!」
「ええ、お疲れさま。これでノルマクリアだから、次の街の役所に討伐証明として今まで討伐したツノモグラのツノを提出すれば、レベル10まで上がる筈よ。」
「はいっ! ありがとうございます、ユーリさん!」
キラキラの瞳で見上げられ、ちょっと、ほんのちょっとだけ、罪悪感に胸がチクリと痛んだ。……違うんだパトラくん、だからお姉さんをそんな目で見ないで……うう……。
パトラくんは短剣で器用にツノモグラのツノに浅く切り込みを入れ、後は手でパキャッと折り、布にくるんでリュックに入れた。パトラくんは特に戦闘外でのこういった手際が素晴らしく、剣士やめて素材屋にでも弟子入りした方がいいんじゃないかな、なんて思うのは内緒。
一通りの作業を終えこちらに駆け寄るパトラくんに、私は果物の蜜付けと薬草茶を渡して休憩を告げる。パトラくんは嬉しそうにそれを受け取り、私の横の小さな切り株に腰かけた。
「何だか、この薬草茶の苦さにもすっかり慣れちゃいました。それに、こんなレベルの上げ方もあるんですね。凄く驚きました。」
「そうね。でも、やっぱり実戦昇級の方が危険には違いないから、旅をしているような人以外は大抵試験昇級をするけれど……パトラくんには、こっちの方が向いていたみたい。」
他愛ない会話をしながら、お茶をすする。苦い。
私特製の薬草茶は、よく効く代わりに大層苦い。魔法弓術師の使う魔法の中には、矢に毒や薬を塗って使うものもある。だから私もいくつか製薬のレパートリーは持っているけれど……このお茶はその中でも、特に苦いレシピだ。
けれどその分効果もひとしおで、どんなに歩いた日だって、このお茶を飲んでひと眠りすれば翌日にはまたけろっと歩けるようになっている。
旅慣れしていないパトラくんには是非飲んでほしい代物だったけれど、飲みなれた私はともかく、子供にはあまりに苦いので、妥協案として果物の蜜付けを一緒に添えているのだ。栄養補給にもいいしね。
「それでユーリさん。次の街がもうすぐなんですよね?」
小動物のようにお茶を飲んでは果物の密漬けを頬張るパトラくんが尋ねた。
あの置き去りの村(私命名)を発ってから、早3日。早ければ今日の昼頃にでも、次の町に到着予定だ。
「ええ、早ければお昼にはね。都会程では無いけれど、それなりに豊かで良い町よ。」
と、言ってはみるが、あくまで予定だ。
私より何足か早く到着している筈の主人公パーティーが既にあの町の問題を解決していると思うから、そうなっていれば、である。
今回はパトラくんも居るし、あんまりすぐにまた合流してしまうと警戒される恐れがあるので、割とゆっくり進んでいるのだ。だから、あの町の問題解決にさえ手こずって居なければ、主人公パーティーとは鉢合わせない……予定。
実際ゲーム時間なんて明確に表示されている訳では無いので、どうしてもざっくりした予測になってしまうが仕方ない。
出来ればパトラくんもそろそろ屋根のある場所で休ませてあげたいし、これ以上野原を無意味に放浪している訳にも行かないのだ。私は鬼ではない。うむ。
そんな訳で私は呑気なことに、パトラくんと町の名物は何だろうとか、何が食べたいだとか、温泉があるといいだとか、そんなことを話しながら町へ向かっていた。の、だが。
到着した町は、私の想像図とはかけ離れていた。
一体どうしてこうなった?