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ヒロイン、事案が発生する。

「は、初めまして! 僕、パトラ・コーネルって言います! その、出来ればご一緒させて頂ければと思ってます! よろしくお願いします!」


 前回のあらすじ。

 パーティーを募集したら、明らかに10歳かそこらの男の子を紹介された。

 以上。


 あ、いや、待って。ちょっと待って。事態が飲み込めない。

 落ち着けユーリ。ここはファンタジーの世界だ。ひょっとしたら彼はエルフ的な種族で、見た目よりずーっと年上なのかもしれない。

 私はその可能性に縋り、出来るだけ優しいお姉さん風の笑顔でパトラくんに尋ねた。


「ええと……君、今何歳くらいかって教えて貰ってもいい?」


「今年で12歳になりました!」


 事案じゃん!

 もっかい言うけど、事案じゃん! 見たまんまの年齢だったよ畜生!


 ちなみに私、ユーリーンは現時点で17歳。この世界では16歳が成人だから、目の前のパトラくんは、成人さえしていない子供ってことになる。

 ……そう、この世界では16歳が成人だから、昨日の私のアレは未成年飲酒じゃないんだ。決してだ。


 木下優理としての自分に対してそんな言い訳をしていると、私があんまり難しい顔をしていたのか、パトラくんの眉尻がしゅんと下がる。


「やっぱり、レベル7じゃあ難しいですか……?」


「そ、そんなことは無いんだけど……。ただ、どうしても危険だし、私が言うことじゃないけど、条件だって良くないでしょう? 親御さんとかも、心配なさるんじゃあ……。」


 相手が子供だと、どうにも私が弱い者いじめをしているみたいに思えてしまう。言い訳の勢いも何だか弱々しい。

 けれど、17歳の女の子(成人)が、12歳の男の子(未成年)を連れまわして旅をしてる。そんなの完全に事案じゃん。誰が許しても、お姉さんは許しません!


 レベル7っていうのも……まあ、不安要素といえば、そうなんだけれど。

 この世界では技術の習熟度は、大抵レベルで表される。最大が99で、最低が0。英検とかの一級二級、みたいな感じで捉えてくれて大丈夫。その感じで行くと、私のレベル87は準一級ってところかな。褒めてくれて構わない。


 で、このパトラくんは、剣士レベル7。この年齢の子供で、本職でないにしてはちょい高めだけど、それだけ。旅をするなら低くても15、出来れば20はレベルが欲しいところ。

 だからこの旅、パトラくんの為にも、彼を連れて行くくらいならひとりで旅に出た方が良いんだろうけど……。


「親は、居ません……。ちょっと諸事情あって、僕を育ててくれていたおじいさんも、先々月に亡くなってしまって……それで……。」


 やばい。

 私、こういう話に弱いんだ。自覚あるもん。ごんぎつねとか、ちいちゃんのかげおくりとか、国語の授業中泣きすぎて朗読できなかった。あんな悲しいお話を教科書に載せた人達は、法律で裁かれるべきだと思うんだ。閑話休題。


 でも、流されちゃいけない。ここで流されたら、結果として危険なのも損をするのも、みんなパトラくんなんだから!

 私が心の内でそう自分を説き伏せている間も、パトラくんの話は続く。


「元々、僕を育ててくれていたおじいさんが、旅の剣士だったんです。僕を引き取った頃には引退していましたが、剣術はおじいさんに習いました。なので、一人前になったら、いずれ僕も旅に、と思っていたのですが……。」


 そうなる前に、師匠兼保護者が死んでしまった、と。それは……何ていうか、お気の毒な話だ。

 話の流れ的に、頼れる親戚なんかも居ないんだろう。ジョブのレベルも中途半端では、雇ってくれるところだってそうそうある訳じゃない。


 それなら確かに、多少危険でも、ある程度剣士としてレベルが上がるまで、誰かと旅をして回る方が良い、と言えなくもない……。うぅむ……どうするのが良いんだろう……。


「おじいさんが亡くなってからは、何とか酒場から仕事を回してもらって細々やっていましたが……それだってずっと続けて行けることじゃありませんから……。だから、お願いします! 危なくなったら見捨てて頂いて構いませんし、賃金も、最低限食べるものさえ何とかなれば要りません! 僕も一緒に連れて行っては頂けないでしょうか!」


 土下座せんばかりの勢いで迫られ、助けを求めるように周囲を見回すと、いつの間にか私達は注目の的になっていたようだった。テーブルを囲むおばさま方が同情的にパトラくんに視線をやり、家族連れの子供達の無垢な視線が私に刺さる。マスターは目尻を指で拭いつつ、うんうんと頷いていた。


 私、これ知ってる。八方塞がりって言うんだぜ!


 私のバチャバチャと泳ぐ視線をパトラくんに戻すと、捨てられた子犬のような瞳と目が合った。ああ……そうか。私は遠くなる意識の中で考えた。きっと、これは、強制イベントだったんだ。話を聞いた時点で、私はこの運命から逃れられなくなっていたんだわ……と。


 私はそう腹をくくり、パトラくんに手を差し出した。


「そんなに思いつめなくて大丈夫。改めて、ユーリーン・ディウスよ。これからよろしくね。」


 パトラくんはそれを聞いて、散々「待て」させられた後、「よし!」って言われたわんこみたいに、私の手を飛びつかんばかりの勢いで握った。そして、弾ける笑顔で「ありがとううございます!」と感謝の言葉が伝えられると、酒場から盛大な拍手が巻き起こったのだった。


 もう私の事は、置き去りヒロインとでも事案ヒロインとでも、何とでも呼んでくれていい。

 とにかく今は、この場から逃げ出したい思いでいっぱいです。

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