ヒロイン、大いに飲んだくれる。
多分だけど私の敗因は、コミュニケーション能力と言うものを甘く見たこと。その一点に尽きるんじゃないかと思うんだ。
……ファンタジーの世界でこんなん考えるの、マジ悲しいんですけど……。
という訳で、主人公パーティーから置いてけぼりを食らったメインヒロインは現在、居酒屋で飲んだくれております。もうね、涙があふれて止まらない。主人公ズの冷たさもそうだし、私自身の不甲斐なさもそう。
今回のことで、世界が終わっちゃう可能性がぐんと跳ね上がった。この世界はいつまで保つんだろう? 今日明日ってことはないだろうけど、10年も20年も旅をしていたりはしないだろうから、きっとそのくらいで……。
私は怖い考えを振り払うみたいに、一気にグラスを煽る。甘いあんずのお酒は、この辺りの名産品。基本的にお酒なんて苦いわ気持ち悪いわで大嫌いな私が唯一、美味しいって思えるお酒。
でも酔いやすいのは変わらないから、ちゃんとセーブしないと……、
「ふっ、ふえぇ~~ん、ばかあぁ! なんっ、なんで、なぁんにも言わないで置いてっちゃうのよおぉ~~~!」
……こうなる訳で。
お酒って絶対、語彙を奪う成分が入ってると思うんだ。だから私は出来るだけ、人前でお酒は飲まない。知り合いの前で幼児退行みたいな感じになっちゃったら、恥ずかしいとかいう騒ぎじゃない。未来永劫いじられ続けるのは、目に見えている……っ!
けれど私に、こうやって酔っぱらって管を巻いている暇なんて、そう無いんだってことも分かってる。
だって、主人公達に置いてけくらって、それではいおしまい、来世に期待、って出来るほど、私はこの人生を捨ててない。
最も安全策と思われた、パーティーに直接同行するって方法がだめだっただけだ。そう、まだ、方法はいくらでもある。って、信じたい!
幸い置いてけを食らったところで、私には前世のチート知識がある。シナリオ的に、次に主人公がどの街に行くかくらいなら知っているのだ。えっへん。
ただ、そこまでで奴らが通る正確なルートまでは分からないし、行先に先回りして待ってたところで、根本的な解決にはならない。ただのストーカーだ。また置いてけされて終わるに決まってる。
と、なると。
「……別ルートで旅をしつつ、偶然を装って時折再会して、和解のキッカケを探るのがいいかなぁ~……。」
ごっきゅごっきゅごっきゅ。ぷはーっ。
うん、第二方針決まった。これで行こう。これもこれでストーカーっぽいけど、主人公ズが魔族の領地に行くまでに同行が出来ないと世界が危ないし。色んなアウト部分には目を瞑って、明日からこの方針で! がんばる!
……お酒の勢いが無きゃ、到底やってらんないけど! とりあえず!
「うぇーとれしゅしゃーん、おきゃいけーお願いひまひゅー!」
酔いが凄いから、今日は、寝る!
- - -
んで、翌朝。
割れるような頭痛が私の脳みそをダイレクトアタックしている。分かってる。二日酔いだ。頭がおっきな銅鑼か何かで出来ていて、調子乗った小坊主がガンガンガンガン打ち鳴らしてるみたいに痛い。うう。
ひとまず次からは自棄酒にも程度ってものを弁えよう。そう心に刻んで、私は階下の酒場へ足を進める。
……迎え酒とかじゃないから。私はそんなダメな大人じゃない。
RPGの定番でしょう? 仲間集めは酒場で、って。この世界も例に漏れず、ちょっとした求人なら全部酒場で事足りるんだ。人が集まる場所だから、情報交換にはうってつけ、ってね。
正直ゲームのメインキャラで、ストーリー開始前から独自に特訓してたお蔭で、私のスペックって結構高いと思う。けれど、私は基本的に後衛のキャラで(魔法弓術士、が一応のジョブ名)、前衛が居ないとどうにもならないことだってある。
それにほら、遠足とかでも良く言うでしょう? 自由行動するにしても必ず3人以上で固まること! 誰か1人が怪我した時に、もう1人が側に付いて、もう1人が助けを呼びに行けるように、って。
それと同じ理由かは知らないけれど、この世界でも旅をするなら、出来れば3人以上のパーティーを組むことが推奨されてる。……前衛、後衛、魔法で、バランスが良いからって理由かも。うん、やっぱ良く分かんない。
ひとまず私は宿から繋がる階段を降りて、階下の酒場のカウンター席に腰掛ける。注文を聞きにやって来てくれたマスターに、私は告げた。
「モーニングひとつ、ドリンクはホットティーで。あと、求人を一件出したいんだけど。」
「では、募集条件をこちらの紙に記載してください。」
「分かった、ありがとう。」
マスターから求人募集用紙を受け取って、モーニングセットを待つまでの間で書き込んでみる。
募集内容は……旅の同行者。目的地が……魔王討伐なんて書けないよなぁ。無しにしとこう。従って、期間も不明。募集条件は、前衛担当。レベル……私が87あるから、近ければ嬉しいけれど、低くてもこの辺りならサポート可能かな。まだ。給与……応相談。
当方、レベル87、魔法弓術士、っと……。よし、これで完成。
で、完成してから思ったけど、これ、我ながらひっどい。
目的地不明、雇用期間不明、給与も明記されていない。この募集じゃあ誰も来ないんじゃ……? そう首を傾げていたら、モーニングが運ばれてきて、募集用紙がすっと回収された。と、取り返しの付かない事をした気分……。
……ええい、悩んでたってしょうがない! 今大事なのは、朝ごはんが覚めないうちに食べてしまうことだ! それ以外には無い! ありません!
開き直って私は、サンドイッチにかぶりつく。サンドイッチって言っても、この世界に食パンは無いから、ハンバーガーの方が近いかも知れない。マフィン生地をトーストして、シャキシャキのレタスや瑞々しいトマト、ベーコンなんかを挟んでるもの。ほのかにあったかくて、美味しいんだ、これが。
スープはこのお店自慢のコンソメで、具が無い癖にうま味がすっごいの。これまた美味しい。
美味しい美味しいって思いながら夢中で食べてると、朝食用のワンプレートの中身なんて、あっと言う間にからっぽになっちゃう。
美味しい朝ごはんでお腹をいっぱいにした私は、ひとまず募集に対して希望者が集まるまで、ちょっと辺りをふらつくことに……しようと、思ったんだけど。
立ち上がってお会計を済ませようとした私を、マスターが呼び止めた。
「ああ、お客さん。さっきの募集でしたら、丁度いい子が居ますんで、ちょっと会って行かれませんか?」
「……ふぇっ?」
その時、私は思った。
主人公補正ならぬヒロイン補正って、結構凄いのかも。